美南ちゃんマル秘大作戦──①
「はふ……無事帰って来れましたねぇ」
3泊4日のお泊りダブルデートが終わり、俺らは家のリビングでぐったりしていた。
この4日間、本当に楽しかった。ここ数年で一番楽しかったかもしれない。
スイカ割りもした。バーベキューもした。肝試しもした。天体観測もした。
本当、充実してたなぁ。
「高校生活最後の夏休み……いい思い出になったな」
「そうですね! 私もここまで充実した夏休み、初めてです!」
「そうなのか? 美南のことだから、バカンスとかモデル仲間と遊んでると思ってたんだけど」
「私の夏休みは、基本裕二君へのストーキングで費やされていましたからね」
「サラッと恐怖を覚えること言わないで」
え、何? 俺の夏休み、ずっと美南にストーキング? 軽くドン引き。
「あ、勘違いしないでくださいね! ちゃんとストーキング以外のこともしてましたよ! お家の習い事とか頑張ってました!」
「それでストーキングの件が帳消しにされると思ったら大間違いだからな?」
おい目を逸らすなこっち見ろ。
なんか、久々にやべー美南の片鱗を垣間見た気がする。
「そ、それはさておき」
「逃げたな」
「さておきです! 裕二君。明日は彩香ちゃんとお出かけするんですよね? 準備とか大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、問題ない。旅行に行く前に準備は終わらせてるから」
あとは風呂入って寝るくらいだ。
まあ、旅行の後だからだいぶ疲れは残ってるけど……今日はしっかり寝て、明日に備えないと。
「それなら裕二君、ここからは私に任せてください!」
「任せるって?」
「ここから私は、裕二君のお世話に徹します。明日万全の状態でお出掛けしていただくため、誠心誠意お世話しますよ!」
胸の前で拳を握り、ふんっと気合いを入れる美南。
…………。
「で、本音は?」
「ギクッ。な、なんのことで?」
「ギクッって言っちゃってんじゃん」
あと目がバタフライばりに泳いでんぞ。
「ほ、本当です! 私は裕二君に沢山思い出を貰いました。彩香ちゃんにも、そういった思い出があってもいいと思うのです! 彩香ちゃんの為です!」
「ふむ、なるほど」
確かに、彩香は剣道部の次期エース。これからどんどん忙しくなっていくだろう。
もしかしたら、高校生活で思い切り遊べるのは今年で最後かもしれない。
美南、ちゃんと彩香のことも考えてくれてたんだな。
「それに私、今日という日のために秘密の習い事をしていたのです」
「秘密の習い事?」
「はい! ほら、習い事としか書いてない曜日がありましたよね? それです!」
ああ、あったな。内容を聞いても教えてくれなかったやつ。
美南は腕を組み、不敵に笑う。
「ふっふっふ……そう、何を隠そう! あれは花嫁修業だったのでぇす!」
ばばーん!
……花嫁修業?
「それって、結婚前にするやつじゃなかったっけ?」
「うぐ……実はこんなに早く結婚するとは思ってなく、時間が足りずに……」
そういうことだったのか。
「その成果を、今日出すと?」
「その通りです! 私に任せてください!」
「……じゃ、お願いしようかな」
ここまで言うってことは、相当自信満々なんだろうし。
それに正直、今日はもう何もしたくないって言うのが本音だ。
やってくれるって言うなら任せてみよう。
「はい! それじゃあお夕飯の準備をしてきますね!」
美南は鼻歌を歌いながらキッチンへ向かう。
時刻は16時。今から夕飯の準備って、結構手間のかかるものを作るつもりか?
あぁ、ダメだ。疲れが出てきて頭が回らない。知能指数が下がる……。
トントントン、とリズムよく何かを刻んでいる音が聞こえる。
その音を聞きながら、俺はゆっくりと意識を手放した──。
……じく……うじ……ゆう……。
「裕二君?」
「っ……あれ、俺……?」
「寝ていたみたいですけど、大丈夫ですか? お夕飯できましたけど……」
「あ……うん、大丈夫。食べようか」
「はい!」
時計を見ると、もう18時を回っていた。相当疲れてたみたいだな。
美南とテーブルに向かうと、鼻先をいい匂いが掠めた。
「お……おおっ!? 美味そう!」
牡蠣の炊き込みご飯に、アスパラのベーコン巻き、セロリとパプリカのサラダ、アボカドとサラダのわさび醤油和え、赤身のステーキ、食後のデザートに赤ブドウも置いてある。
「これ、全部美南が作ったのか?」
「はいっ、頑張りました!」
頑張りすぎじゃないだろうか……?
「ごめんな、こんなに用意させて」
「いえいえ。裕二君を労うために私がやったことなので、問題ありません!」
できる嫁すぎる。
「それでは、温かいうちに食べましょう!」
「そうだな」
それにしてもこのメニュー、何か裏がありそうなメニューだが……気のせいか?
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