誰かいる──③
◆
取り合えず、美南と伊原が風呂から上がる前に、2人をリビングに上げた。
「お茶入れたので、どうぞ」
「ありがとう、裕二君」
「丹波君、いただきますね~」
パーカーの前を閉めている2人だが、そのたわわなものは隠しきれず立派なテントを作っている。
そんな美女2人の前に置かれているのは、暗視ゴーグルと一眼レフカメラ。
ああ、やっぱり夢でも見間違いでもなかったんだな……。
「ずず~。あ~、温まりますね~」
「本当。夏とは言え夜の海に水着姿は、さすがに肌寒かったものね」
「そりゃそうでしょう……」
俺も、まさかこんな夜更けに水着美女と鉢合わせるとは思わなかったわ。
ジトっとした目を2人に向けるが、素知らぬ顔でお茶をすする。おいコラこっち見やがれ。
と、そこに冬吾がゆっくりと手を上げた。
「あの、すみません。聞きたいんです毛で、何でお2人はここにいるんですか? ここ、美南嬢……柳谷家のプライベートビーチで、一般の方は来れないようになっているはずですが」
そうだよ、それが聞きたかったんだよ。しかもこんな怪しげな暗視ゴーグルと一眼レフなんて持って……何してんだこの人達。
間宮先生と時東さんは顔を見合わせると、観念したように間宮先生が口を開いた。
「まあ、ばれてしまったものは仕方ありません……実は私と寧々子さんは、普通の人間とは少々違いまして」
「普通の人間じゃない?」
なにその衝撃的事実。いつからこの世界はSFの世界に紛れ込んだんだ?
と、2人はパーカーのポケットから、あるものを取り出した。
スマホだ。その画面に、2人の名前と顔写真が映し出されている。まるで身分証明のようなものだけど……なんだろう、これは?
冬吾と俺が首を傾げていると。
「改めまして、柳谷家隠密部隊、間宮由香里で~す」
「改めまして、柳谷家隠密部隊、時東寧々子です」
とんでもないことを言い出した。
……え、おんみつ……え?
「あ、ああ。あんみつ、あんみつ美味しいですよね」
「丹波君、違いますよ~」
「あ、あーごめんなさい。綿密の間違いでしたか。これは失礼しました」
「違うわよ裕二君」
「え、えっと……」
「ユウ、諦めなよ。俺もいるんだから、聞き間違いは起こらないって」
ぐ……。
「……えっと、どこからツッコめばいいのか……まず、隠密部隊って言うのは……?」
「それは私が説明するわ」
スマホをポケットにしまった時東さんが、軽く咳払いをして説明を始めた。
「柳谷家には、代々家を守る部隊が存在するの。世界の富豪に名を連ねるほどの大きい家ですから、敵は世界中にいるの。その外部の敵から柳谷家を守るのが、各部隊の役割。私達隠密部隊は、主に敵の諜報がメインの仕事よ」
話がワールドワイド過ぎてで付いていけないのは俺だけでせうか?
まあ、柳谷流格闘術なんかもあるし、今更部隊が出て来ても驚きはしないけど。
「このこと、美南は知ってるんですか?」
「知らないわよ。私達の存在を知っているのは、ご当主様と奥方様のみ。まあ、私達の凡ミスで2人にも知られてしまったわけだけど」
観念したのか、そっとため息をついた時東さん。
間宮先生も苦笑いを浮かべて口を開いた。
「まあでも~、今の私と寧々子さんのお仕事は隠密から外れていまして~」
「そうなんですか?」
「はい~。今はお2人……将来のご当主様になられる裕二君と、奥方様である美南さんの護衛を行っています~」
「……は? 護衛?」
「はい~。護衛と言っても、一般生活に支障が出ないよう陰ながらサポートするのが役目ですけど~」
ええ……何それ聞いてない。
でも、なるほど。そう言えば花見のときも2人っていたな。あれは俺と美南を護衛するためにあそこにいたのか。納得。
「因みに、美南さんが裕二君のことを探偵に調べさせたと言っていましたが~。調査したのも、実は私達なんですよ~」
何それ聞いてない!?
え、じゃあなに!? 俺の恥ずかしいあれこれを、この2人は熟知してるっていうの!? 恥ずかしすぎるんですけど!?
冷や汗をだらだら垂らしている俺。
だが隣に座っている冬吾は目をきらりと光らせ。
「へえ……なら質問です。ユウが最初に精通したのはいつ?」
「小学4年生の夏ですね~。夏の公園で見かけた黒髪美女が忘れられず、といった感じでしょうか~」
「む。やりますね。なら次。最後におねしょをしたのはいつ?」
「小学2年生の春です~」
「ふむ……ユウ、間違いない。この人達は本物だ」
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?」
何でそんなことまで調べてんの!? 何でそんなことまで調べてんの!?
てか何で冬吾もそんなことまで知ってんのさ!? もう恥ずかしすぎて死にたすぎるううううううううううううううう!!!!
「……ん? 由香里。そろそろ」
「そうですねぇ~。それでは丹波君、高瀬君。よい夏休みを~」
え? あ、ちょ!?
2人は暗視ゴーグルと一眼レフ、それに自分達が飲んでいた湯飲みまで持つと、わき目も振らずバルコニーに走り……躊躇なく、柵を乗り越えて海に飛び込んだ。
直後、風呂上りなのか美南と伊原が、リビングへ戻ってきた。まさにベストタイミング。ここにあの2人がいたって言われても信じられないほど、一切の痕跡がない。
「お風呂あがりましたー。あれ? 裕二君、体調悪いですか? なんか顔色がよろしくないような」
「あ……うん。気にしないで……」
「そんなあからさまに元気がないと気になりますよ!?」
俺のライフはもうゼロよ……。
ちきしょう。あの2人、次会ったらとっちめてやる……!
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