誰かいる──②
昼食兼夕食を楽しく食べ終え、外は暗闇に覆われた。
けど……この絶景は、筆舌に尽くしがたいな……。
「きれー……」
「百万ドルの夜景とは言うけど、これはそれ以上の価値があるよ……!」
バルコニーで、伊原と冬吾が目を輝かせて空を見上げる。
そこに広がるのは、視界の全てを覆いつくすほどの満天の星空。
天の川もくっきりと浮かび、まるで写真から飛び出してきたとしか思えないほどの絶景がそこにあった。
2人の気持ちもわかる。
マンションの最上階から見える夜景に慣れている俺でも、この光景には言葉も出ない。
脳の全てが、この光景を記憶するために使われているみたいだ。
そんな俺達を見て、美南はくすくすと嬉しそうに微笑んだ。
「すごいですよね、この星空。私もここからの景色が本当に好きなんです」
「ああ……今このとき、俺の中の好きな景色第1位になった」
「えへへ。お揃いですね」
俺の肩に頭を乗せて同じ方向を見つめる。
あぁ。今俺は、幸せを掴んでいる……!
……って、手放しで喜べたらどれだけ嬉しかったことか。
みんなは普通にしているが、俺はあることを思い出していた。
そう、例の影である。
みんなと話し合って、飛んでる鳥の影とか、動物がいたとか、そういう結論になったが……正直まだ俺は納得していない。
あんなにはっきり見えたんだ。楽観視して、万が一のことが起こったとき、後悔したくない。
美南の肩をそっと抱き寄せる。
少し驚いたように体をこわばらせたが、直ぐ満面の笑みを浮かべて身を預けてきた。
「さてと。そろそろ風呂に入るか」
「そうですね。海で遊んでから、シャワーしか浴びてませんでしたから」
風呂に入る順番は、女子が先。後で男子。
しかし美南と伊原から不満の声が上がった。せっかく来たんだから、それぞれのペアで入りたいとのこと。
だがしかし。
「お前ら、本当に風呂に入るだけで終わるか?」
「「黙秘します」」
「黙秘権を行使するようなことをしようとするなら、風呂には男女分かれて入ります」
「「そんなぁ……!」」
性欲おばけか、こいつらは。
肩を落としてとぼとぼと風呂に向かう2人。
こっちを名残惜しそうに見ても、ダメなものはダメです。
「全く、あいつらは……」
「あはは……玲緒奈も、本当はあんなに積極的な子じゃないんだけどね。初めての旅行で、テンション上がってるみたい」
「美南は通常運転すぎるけどな……」
「でも悪い気はしてないんでしょ?」
「そういう冬吾だって」
「ばれたか」
何年つるんでると思ってる。
こいつが意外とむっつりだってことくらい知ってるわ。
恥ずかしそうに頬を掻く冬吾。
が、次の瞬間にはまじめな顔つきになり。
「ところでユウ。さっきの人影の話なんだけど」
「……冬吾もやっぱり気になるか?」
「当然。愛しい彼女が危険な目に遭うかもしれないのに、黙ってなんかられないよ」
「それでこそ冬吾だ」
冬吾と軽く拳を突き合わせ、バルコニーから部屋に入った。
美南達の方は、美南がいればまず大丈夫だろう。多分、俺と冬吾が束になっても勝てないくらい強いし。
俺も筋トレしてるし、冬吾も一般人と比べたら鍛えてる方だ。何かあっても、対処はできるだろう。
それに本当になにかあった場合、柳谷家の防犯システムが作動することになってるんだとか。
危ない橋は渡らず、それでも警戒するに越したことはない。
「冬吾。とりあえず最初は2階を回ろう」
「わかった」
「俺が先に行くから、お前は後ろを頼んだぞ。未来のサッカー界の宝が、こんなところで怪我するわけにはいかないだろ」
「それを言うならユウも、未来のヤナギヤ家具を担う人材じゃないか」
「いいから」
「……わかった。でも無茶はしないでね」
「ああ」
懐中電灯を片手に、打ち合わせ通り俺が前、冬吾が後ろで進む。
廊下に面している部屋を1つずつ回り、中を確認するが……特に変な場所はない。人の気配も感じられないな。
俺達が泊まる部屋も確認したが、荒らされたような形跡はない。窓も鍵が掛けられている。
「次は1階か」
「何だか肝試しみたいでちょっとワクワクするね」
「冬吾って意外と肝が据わってるよな」
こんな緊張感ある状況で肝試しって……。
足音を消し、階段を下りて階下へ向かう。
さっきまで更衣室として使っていた部屋やシャワー室。それに倉庫もこの階にあるが……やっぱり何事もない。無人だ。
「まあ、建物の中にはいないか……」
「そうだね。これだけ自然ばかりの場所だし、外にいるのかも……ん?」
「冬吾、どうした?」
「しっ。耳を澄ませて……」
なんだ?
……何も聞こえないが……あ、いや待て。……声だ。外から声が聞こえる。
冬吾と目配せし、1階の外に通じる扉にゆっくりと近づく。
声が近い……すぐそこにいる……。
ドアノブに手をかけ、振り返る。
冬吾も覚悟を決めた顔で頷いた。
よし……3、2、1……ゴー!
ドカンッ!!!!
扉を破る勢いで思い切り開き、外にライトを向けた!
「誰だ!」
「「ッ!?」」
俺と冬吾のライトが照らす先。
そこにいたのは女性2人組だった。
しかも、ただの2人組じゃない。
手には望遠鏡かと思うくらいの一眼レフカメラ。
暗い中でも活動できるようにか、目には暗視スコープ。
そして驚くべきことに……半裸。
こんな真っ暗の中、水着を着て上からパーカーを羽織っていた。
明らかに怪しい見た目。街中で見かけたら通報待ったなしのその2人は……見たことのある2人だった。
いや、見たことあるどころではない。この人達は……。
「……時東さんに、間宮先生?」
「何してるんですか、お2人共?」
「「あ、あはは……」」
気まずそうに笑う2人。
俺と冬吾も、突然のことで頭が回っていない。
本当……どういうこと、これ?
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