誰かいる──①

 念の為、美南と伊原を残して俺と冬吾で周囲を探した。

 が、これと言って発見があるわけでもなく。



「ユウ、本当に見たの?」

「多分……見えたと言っても、影のようなものだったけど」

「鳥とか、野生動物じゃないかな。ほら、こんなに大自然に囲まれてるわけだし」

「……それもそうだな」



 だけど、そんな感じはしなかったんだよな。

 あの動きの素早さ。それに僅かに見えた形からするに、人のような気もするが。

 ……やっぱり気のせいだったんだろうか。



「一旦2人の所に戻ろう」

「……ああ、そうだな」



 屋敷から2人のいるビーチまで戻る。

 2人の方も特に何もなかったみたいで、呑気に砂の城なんて作っていた。


 てかクオリティたっけーなおい。


 これからどうするか話し合おうとした所で。



「そんなことより、お腹空いた」



 という伊原の声で、謎の影より飯を優先することになった。



「そう言えばもう15時ですね。私もお腹空きました」

「そうだな……夕飯には早いけど昼飯も食ってないし、飯にしようか」

「「「さんせー」」」



 更衣室で軽くシャワーを浴び、服を着替えて2階に上がる。

 因みにここでの飯担当は、俺と伊原の2人だ。

 美南は言わずもがな。冬吾も料理はできない。

 だけど伊原は疲れたからか、ソファーに寝転んで動かない。というか、冬吾の膝枕を堪能していて動こうとしない。


 全く、仕方ないな。


 冷蔵庫の中を開けて材料を確認。

 肉もあるが、さすがに海の近くと言うだけあって魚介類が多い。

 この食材だとアクアパッツァ、あとはパエリアにするか。



「ごめんね、ユウ。任せちゃって」

「いや、気にすんな。お前は普段できない分、めいっぱい伊原とイチャイチャしてろ」

「じゃ、お言葉に甘えて」



 ウトウトしている伊原の頬を摘み、楽しそうにもにゅもにゅしている冬吾。

 あんなに幸せそうな冬吾、初めて見た。



「むっ、裕二君! 私達も負けてはいられません! さあイチャイチャしましょう! ナメられたらいけませんよ!」

「何に対抗してんだお前は」

「ナメられたくない美南ちゃんなんです!」

「誰もそんなこと気にせんわ……てかイチャイチャしてたら、飯食えないぞ。俺ら全員餓死だ」

「ぐぬぅ……! 何故人はお腹が空くのか……!」



 生命維持に関わることを真面目に考えんな。


 美南に指示を出して、机の上を準備してもらうことに。


 その間に野菜のみじん切りと魚介類の準備をし、パエリアを作っていく。


 魚介とトマトのいい香りが鼻腔をくすぐる。

 その匂いに当てられたのか、ソファーでゴロゴロしていた冬吾と伊原がこっちに寄ってきた。



「おいしそう」

「パエリアか。食欲を駆り立てる魚介とトマトのハーモニー……堪らないね」

「そう思うなら少しは手伝ってくれ。冬吾はサラダ。伊原はアクアパッツァだ」

「「えー」」

「働かざる者食うべからず」

「「あーい」」



 素直でよろしい。


 俺の隣で、伊原が手際よくアクアパッツァを作っていく。

 冬吾も、レタスを数枚洗い、ちぎってボウルに盛り付けていると。

 それを見ていた美南が、愕然とした顔をしてたじろいだ。



「んなっ……!? た、高瀬君までお料理を……!」

「ふふふ。美南嬢、俺はもうそっちの人間じゃない……こちら側の人間なんだよ!」

「ぐぬぬぬ……!」



 いやレタスをちぎってるだけで、料理をしてるかは微妙だが。



「(くっ……落ち着け、落ち着くのです美南。まだその時じゃ……!)」

「何ボソボソ言ってるんだ?」

「え!? い、いやぁ、シン〇ヴァのネタバレを……」

「おいバカやめろ」



 それは色んな方面から怒られるやつだから。



「バカなことしてないで、飲み物も用意して」

「はーい。ジュース取ってきますね」



 全く、あの子は。

 そんな俺達のやり取りを見ていた冬吾が、くすくすと笑みを零した。



「ふふ。2人っていつもあんな感じなのかい?」

「まあな。困ったやつだ」

「そんなこと言ってるけど、嬉しそうだよ」

「嬉しくないわけないだろう。大切な嫁だぞ」

「はいはい、ノロケノロケ」



 うっせぇわ。



「どうせお前らも、結婚したらこうなるんだから」

「えっ」

「ぁぅ……」



 俺の発言に、2人の顔が真っ赤になった。

 ウブかこいつらは。



「うぅ……と、とー君……」

「あ、えと……」



 視線が合い、逸らし、また同じタイミングで見つめ、また逸らす。


 ウ ブ か。


 見てるこっちが恥ずかしくなるわ。



「はいはい、2人共。イチャイチャしてないで料理運んで運んで」

「し、してない!」

「裕二、心外っ」



 してんだろ、何言ってんだこいつら。

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