プライベートビーチ──④

   ◆



 うえっぷ。海水飲みすぎた。


 男子対女子での水掛け合戦は、主に俺と美南、冬吾と伊原のイチャイチャタイムとなり。

 向こう2人は楽しそうにしていたが、こっちは割とガチで水の掛け合いをしていた。

 と言うか、主に俺が水を掛けられまくった。


 これが俺達なりのイチャイチャだから、それでいいんだけど。


 海から上がり、パラソルの下でしばし休憩。

 伊原は興奮しっぱなしみたいだ。

 ずっと冬吾の腕をぺちぺちと叩いてる。



「むふーっ。海、楽しい」

「うん。まさか高校在学中に、玲緒奈とこんなに海を満喫できるだなんて思ってもみなかった」



 俺も、海なんて数年ぶりだ。

 主に冬吾や彩香と来てたけど、それも人がごった返した汚い海だったし。



「彩香も来れればよかったんだけどな」

「仕方ないですよ。剣道部の若きエースなんですから」



 誘ったんだが、練習やら試合やら合宿やらで断られた。

 昔からそうだが、特に夏は至る所の試合に招待されたり、自分から乗り込んだりと、とにかく剣道漬けの毎日を送ることになっている。


 それでも2日くらいは連休もあるし、その時にあいつをいい所に連れて行ってやることにはなってるけどな。



「さて、俺はもう少し遊んでこようかな。みんなはどうする?」

「行きます!」

「俺は少し休むよ」

「とー君に同じく」



 となると、2人で遊べることか。



「ビーチバレーでもするか。トスラリーなら、2人でできるだろ」

「いいですね。倉庫にあったと思うので、取ってきます」

「俺も一緒に行くよ」



 冬吾と伊原に見送られ、1階の奥にある倉庫に向かった。

 と言っても雑多な感じではなく、完璧に整備されたビーチ用の遊び道具が陳列されている。

 倉庫と言うより、ビーチ専門店みたいな感じ。



「うおっ、これジェットスキーか?」

「はい。私は乗れませんけど、パパの趣味なんです」

「お義父さん、多才だなぁ」



 流石、美南のパパってところか。


 その他にも浮き輪、ウォータートランポリン、サーフボード、ビーチテニス、スラックライン、水鉄砲、フライボード、ジェットパックなんかも置いてある。


 だけど俺達の目的は、ビーチバレーボールのボールだ。

 えっと……。



「お、あった」



 籠の中にいくつものボールが入ってる。

 ま、1個しか使わないけど。



「裕二君」

「ん? 美南、どうし……ぬおっ」



 うっ、えっ。こ、この背中に当たる感触と、胴体に回されたひんやりとした腕……俺、今後ろから抱きしめられてる……!?



「裕二君……」

「み、み、美南。どうした……?」

「……実はずっと抱き着きたかったです」



 ぎゅむにゅん。

 抱き締めるときの『ぎゅっ』と。

 背中に当たる胸の『むにゅん』が合わさった。

 そんな効果音が聞こえる(気がする)。



「筋肉しゅごい……」

「い、いつも見てるだろ」

「違います。外ですよ。野外ですよ。お日様の下で見る筋肉ですよ。これはもう合法露出と言っても過言ではありません」

「人を露出狂みたいに言うな」



 そんな趣味は断じてない。



「興奮しません?」

「しない」

「……私は、少しドキドキしています」

「……え?」



 思わず振り返る。

 が、美南が額を背中に押し付けて顔が見えなかった。



「裕二君と一緒に半裸で外にいる……その現実が、私の鼓動を早めています」

「それ、は……」

「家やホテルじゃない。大自然中で誰かに見られるかもしれないという非日常感もあって……どうしましょう。体が火照ってきました」

「っ……ま、まさか美南。露出趣味が……?」

「……わかりません。でも、読者モデルで仕事をしているときはこんな胸の高鳴りはありませんでした」



 背中の感触が僅かに離れた。

 ゆっくりと振り返ると、セクシーな水着と水に濡れた髪、そしていつ2人に見られるかもしれないという非日常感で……。



「美南……」

「裕二君……」



 美南が俺の首に腕を回す。

 俺も、美南の腰に手を回す。


 細くて、華奢で、柔らかくて。

 それでも、鍛えているからしっかりとした弾力があって。


 何も言わず、でもぴったりのタイミングで、口付けを交わした。



「ん……ゆうひ、ふん……」

「みなみ……」



 ゆっくりと、欲望がもたげてくる。

 ここがどうとか、もう知ったことか。


 ここで……。


 ガタッ。



「──誰だッ!!」



 突如耳に聞こえた異音。

 見ると、窓の外に一瞬だけ影が見えた。


 慌てて窓を開けるが、誰もいない。

 それどころか、この部屋の窓は海側にせり出しているからそこから、ここから中を覗くのは不可能だ。



「誰でしょう……?」

「わからない。……一旦2人の所に戻ろう」



 目的のボールを手に、2人の所に戻る。



「冬吾、伊原。さっき向こうに来たか?」

「いや、ここから1歩も動いてないよ」

「私も。とー君と一緒だった」



 え……そんな馬鹿な……。



「美南、ドライバーさんは?」

「もう帰りました。3泊4日、帰るまでここには私達しかいないはずです」



 おいおい。何このホラー展開。


 ここに……俺達以外の、誰かがいる……!

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