プライベートビーチ──③

「おぉ……すげえ綺麗なビーチだ」

「こんなに綺麗な海が日本にあるなんて、驚きだよ」



 一足先に着替えた俺と冬吾。

 まだ美南と伊原は準備中らしく、来ていない。

 女性の方が準備が大変って言うし、気長に待つか。



「それにしても……ユウ、見違える程体付きが変わったね」

「4月からほとんど筋トレしてたからな」



 胸板は厚く、腹筋も割れている。

 肩も張り出して、脚も中々太い。

 まさか3ヶ月程度の筋トレで、こんなに変わるとは思わなかった。



「どう? 何か変わった?」

「んー……いや、これと言って特に。体力は格段に上がったな」

「ユウ、勉強ばかりでぜんっぜん体力なかったもんね」

「プロ大注目のサッカー馬鹿と比べたら、そりゃあな」



 ようやく、人様に見せても恥ずかしくない位にはなったと思う。

 ぶっちゃけ、護身術をやってる美南より体力がなかったのは恥ずかしかったし……。



「にしても遅いな」

「女性の準備は手間取るもんだよ。気長に待とう」

「だな」



 予め柳谷家の使用人が準備してくれたというパラソルの下に座り込み、クーラーボックスのジュースを飲む。


 ……心地いいな。

 都会の喧騒が一切聞こえない。

 聞こえるのは鳥のさえずり。葉が風で擦れる音。寄せては返す波。



「こういうのを贅沢って言うんだろうな」

「自然に囲まれて、見たことがない豪邸で嫁さんや彼女と遊ぶとか、リア充かな」

「どっちかって言うと勝ち組だろ」



 なんて頭の悪い会話も普通に寛容できる。

 それほど、今の状況に感覚が麻痺していた。



「冬吾は、もう伊原の水着は見たのか?」

「まだだよ。着いてからのお楽しみって言われた」

「冬吾もか」



 俺も美南の水着姿は見ていない。

 一体どんな水着姿で来るのか。


 海を眺めてボーッとすることしばし。

 別荘の方から、キャイキャイとした声が聞こえてきた。



「2人共、まだ見ちゃいけません! 目をつぶっててください!」

「とー君、裕二。見ちゃダメ」



 ぐっ。ここまで来てまだお預け……!

 冬吾と目を合わせて、言われた通りに閉じる。


 大自然の音の中に、砂浜を踏みしめる2つの足音。

 それが俺達の目の前で止まった。



「はい、目を開けていいですよ」



 ようやくか。一体どんな水着を──。



「「…………」」



 ぽかーん。

 冬吾もぽかーん。


 全く声が出ない。

 似合ってるとか、綺麗とか、気の利いた言葉を出したいのに。


 まず美南。

 もう見慣れたと思っていた高校生離れした肉体美。

 それを隠しているのは、瞳と同じブルームーン色の水着。

 レースアップタイプで谷間がガッツリと開き、左右の腰も同じく紐が編まれている。


 一見下品にも見える露出の多さ。

 しかし、美南から溢れる清楚さと女神の雰囲気がそれを打ち消し、まとまった美を全面に出していた。


 次に伊原。

 こちらも高校生とは思えない体付き。

 水着の色は、ブロンドヘアーと色白い肌をを際立たせる黒の三角ビキニ。

 だが腰には花柄のパレオが巻かれていて、華々しさも忘れていない。

 頭には唾の広い麦わら帽子を被り、若干の少女感が出ている。


 美南と伊原。共に最高の水着姿で現れた。



「どうです? 似合います?」

「とー君のために頑張って選んだ」

「ぇ……あ、ああ。すごく……素敵だよ、美南……」

「……綺麗だ、玲緒奈」

「ふふふ。言葉が出ないみたいですねっ」

「大成功」



 いえいっ、とハイタッチする2人。

 まだ2人の水着姿に釘付けになり、動けない俺達。

 これ、プライベートビーチがあってよかった。2人のこんな姿、他の男には見せられない。



「さあ、遊びましょう! 海が私を呼んでいます!」

「とー君、裕二。行こっ」



 ああ、うん。行きたい。行きたいよ?



「もう少し待ってください」

「せめてあと10分」

「え? ……ぁ」

「……2人共、ムラムラ?」



 言うな、伊原……。



   ◆



 無事立ち上がれるようになり、いざ海へ。

 足を浸けると、波が心地よく足元を撫でる。

 そうそう、これ。これだよ海って言うのは。



「海ー!」

「波ー」



 いつもテンションの高い美南はともかく、あの伊原も今ばかりはテンションが高い。

 2人共腰まで海に入り、海水を掛け合って遊んでいた。



「裕二君、行きますよ! ほりゃ!」

「えっ。わぶっ!?」



 うわっ、しょっぱ!



「やったなコノヤロウ! せい!」

「なんの! 柳谷流格闘術──“柳水柱やなぎみずばしら”──!」



 水面を殴りつけ、突如現れる水の柱。

 それが、俺の掛けようとした水を阻んだ。


 柳谷家、なんでもありか!?



「おお〜、あれが動画で見た柳谷流格闘術」

「ミナミ、すごーい」



 呑気だな2人共。



「ここからは、男女別れて水の掛け合いです。そちらは鍛えている男の子2人。対して私達はか弱い女の子。そのことを踏まえて遊びましょう」

「か弱いって1度辞書で調べた方がいいぞ」

「むっ、失礼ですね裕二君。私達ほどか弱い女の子がどこにいると?」

「そーだそーだー」



 伊原はわかる。主に美南だよ。



「なら美南は、柳谷流格闘術禁止な」

「むう、仕方ないですね……わかりました。では、スタートです!」

「えいっ」



 美南の合図と共に、伊原が冬吾に水を描ける。

 冬吾は避けずにそれを受け、満面の笑みで伊原に向けて水を掛けた。



「きゃっ。ふふふ。とー君、しょっぱい」

「ああ、そうだね」



 うんうん。何とも微笑ましい光景。連れてきてよかった。



「裕二君。私達もっ、やあっ」

「ぶっ! やったな……そりゃ!」

「わひゃっ! しょっぱいです……!」



 水着美女と、海で水を掛け合う。

 それだけなのに、今俺は最高に満たされている。

 あぁ……美南と結婚できて、本当によかった。

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