プライベートビーチ──②

 車で移動すること4時間。

 最初こそ緊張しっぱなしの俺と冬吾も、今ではすっかりリラックス出来ている。


 海を左手に、夏休みだと言うのに全く混んでない高速道路を、猛スピードで走り抜ける。

 だと言うのに全く揺れを感じない。

 音も静かだし、なんならリラックス用にBGMまで流れている。

 椅子もまるで高級ソファーだし、至れり尽くせりだな。



「おぉ。速い」

「本当、とんでもない速さだね。流石マイバッハ」



 伊原と冬吾は窓からの景色にご満悦の様子。

 美南も、遠慮なしにばりぼりポテチを食べていて、ずっとニコニコしている。



「なあ美南。そういや俺達ってプライベートとは聞かされてるけど、どんな場所なのか聞いてなかったよな。どうなんだ?」

「ふふ。着いたらのお楽しみです。きっとビックリしますよ♪ もうそろそろ高速を降りますので」



 そんなに勿体ぶられると、ハードルめちゃめちゃ上がるんだが……大丈夫か?


 リクライニングでのんびりすることしばし。

 スピードが下がり、高速道路の出口から一般道に降りる。

 その時、チラッと見えた看板には【柳谷】の文字が。

 ……やなぎや? 聞いたことある名前だな。


 ……………………………………。


 え?



「美南嬢。今の看板、柳谷って……」

「はい。ここは柳谷家が生まれた土地とされています。ヤナギヤ家具の最初の本社がここにあったんですよ」



 柳谷家って何者?



「「「…………」」」



 とりあえず俺達は、考えることを止めた。


 というわけで、無心のまま乗り続けることさらに30分。

 何やら交通規制の掛かっている怪しげなトンネル前で検問を受け、何事もなく通過。


 長い、長いトンネルを抜けると。


 燦々と照りつける太陽。

 眩いばかりの白い砂浜。

 アクアマリン色の海。

 そしてそんな大自然を蹂躙するかのように、純白の超巨大な建物が建っていた。



「うわあぁ……!」

「凄いね、これは……!」

「これが柳谷家所有のプライベートビーチ……日本にこんなところがあったんだな」



 絶景とは正にこのことか。

 あの普段アンニュイな伊原でさえ、目を爛々と輝かせている。



「ふふ、喜んでくれたみたいでよかったです。ここは入江のような構造かつ、柳谷家が財力を掛けて水質を綺麗にしたので、思う存分遊べますよ」



 柳谷家って以下略。


 舗装された道路を進み、別荘へと到着。

 別荘は2階建て。玄関は2階にあり、ルーフバルコニーから直接ビーチに降りれるらしい。

 部屋数は8LDK。正に大豪邸だ。


 マンションの部屋でさえ、最近ようやく慣れてきたんだが……こりゃまた感覚がバグるな。


 運転手さんが、俺達の荷物を運んでくれることに。

 手ぶらで別荘の中に入っていった。



「すっごい……」

「どんな悪いことすればこんな家が建てられるんだろうな」

「ユウ、気持ちはわかるけどそれは失礼だよ」



 だってそう思わないと、俺達庶民との乖離が激しすぎて。


 中に入ると、そこに広がるのは広大な玄関と玄関ホール。

 正面廊下から先はメインリビングとダイニングキッチン。そこからルーフバルコニーに出られる。

 右廊下奥には露天風呂。左廊下奥には客室。

 階段を降りると下にも客室があり、更衣室とシャワールームが付いているらしい。


 シンプルな作りだが、洗練された美しさがある。


 ここに3泊4日もできるのか……何だか申し訳なく感じる。



「部屋割りは私と裕二君。玲緒奈ちゃんと高瀬君です。荷物はもう運ばれていますので、まずは海で遊びましょう」

「「「はい、みなみせんせー」」」

「ふふ、よろしい」



 お昼もまだ食べてないが、こんな絶景を見せられたらまずは飯より遊びだ。


 急ぐ心を抑えて、部屋に入る。

 まず、目に飛び込んで来たのはオーシャンビュー。

 1面の窓ガラスにベランダがあり、リクライニングチェアにテーブルが置かれている。


 そして部屋の中にはベッド。冷蔵庫。テーブル。ソファー。壁掛けのテレビ等々。

 この部屋だけでも、上手くやりくりすれば数日は生きていけそうだ。



「すげぇ……柳谷家ハンパねぇな」

「将来的にはここも裕二君の資産になるんですよ。今からそんなに驚いてたら、気が持ちませんからね」

「……資産?」

「はい。ここは今はパパの名義ですが、将来裕二君がウチを継ぐとなると、ここも継ぐことになります。当然、世界各地にある別の土地や建物も」



 やべぇ。一気にプレッシャーがのしかかって来て、胃がキリキリして来ましたけど。


 世界中にあるこんな場所を継ぐって……今まで考えたことなかったけど、冷静になってみるとえげつないな。


 もっと頑張らなきゃ……。



「さ、裕二君! 早く水着を持って下に行きましょう!」

「お、おう……」



 そ、そうだ。今は将来のことを憂うより、目先のことを楽しもうっ。

 せっかくこんな素晴らしい場所に来れたんだ。遊ばなきゃ損だよ、うん。


 ……現実逃避してる訳じゃないよ? 違うからね?

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