プライベートビーチ──①

 ピンポーン。


 お、来たな来たな。

 モニター付きインターホンを見る。

 モニターに映っていたのは爽やかな笑みを浮かべている冬吾と、そわそわを隠せないでいる伊原。

 手には大きな荷物を持っていて、準備万端みたいだ。



「おっす。今から降りるわ」

『うん。待ってるよ』



 背後を振り返ると、既に準備万端の美南がキャリーケースとボストンバックを持って待っていた。

 服は腰の括れと胸を強調したような白いワンピース。

 頭には麦わら帽子。

 完全に夏使用の美南だ。


 満面の笑顔の美南は、うきうきと言った感じで俺の腕に抱き着く。

 ちょ、待って凄いたわわ……!

 だけど美南は子供みたいに笑い気にしてない様子。

 ま、今更か。



「えへへ。遂に来ましたね、今日と言う日が! 私、本当に楽しみにしてました!」

「ああ。俺もすっげえ楽しみだ。冬吾と伊原も楽しみにしてるだろうし、早く下に行こう」

「はいっ」



 そう。今日から俺達は、柳谷家のプライベートビーチに3泊4日でお世話になる。

 美南曰く、柳谷家の所有地だから専門のドライバー以外場所を知らないらしい。

 かく言う美南も、正確な場所はわかってないんだとか。

 柳谷家所有のプライベートビーチと別荘……これが楽しみじゃなくて、何を楽しめと言うんだ。


 エントランスに下りると、2人はエントランスに備え付けられているソファーでくつろいでいた。



「高瀬君、玲緒奈ちゃん。お待たせしました」

「やあ、ユウ、美南嬢。今回はお招きありがとう」

「ミナミ。その服すっごく似合ってる。可愛い」

「ふふ。ありがとうございます」



 そういう伊原はかなり露出が多めと言うか、かなりギャルっぽい服装だ。

 ホットパンツにオフショルダーのシャツ。冬吾に見せるためにかなり気合を入れて選んだんだろうな。可愛いやつめ。



「見てごらんユウ。女神達が遊んでるよ」

「ここが楽園か……」



 美少女2人の遊んでる姿はとても絵になる。

 これが、水着を着て砂浜や海で遊ぶのを想像すると……かなり、来るものがある。

 とてもいい。興奮してくる。



「さて、皆さん揃ったところで、車に向かいましょう。地下の駐車場に運転手を待たせていますので」

「「「はーい」」」



 美南の後に続き地下へ降りる。

 うわ……地下の駐車場に来たことなかったけど、やっぱりヤバい車ばかり停まってんな。

 ベンツ、フェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニ、マクラーレン、ベントレー、ロールスロイス。高級車の展覧会みたいになってる。



「うわ、見てよユウ。ランボルギーニのロードスターだ……! 世界限定9台しか販売されなかった超激レア車だよ……!」

「こんなもんまで置いてあんのか、ここの地下駐車場は……」



 こんな場所、少しでもこすったらと思うと怖すぎで車なんか乗れないぞ。

 車に割と詳しい俺と冬吾は若干興奮気味に(戦々恐々と?)駐車場を歩くが、美南と伊原は車には興味ないのかガールズトークに花を咲かせている。


 そんな温度差の俺達だが、その直後には口をあんぐりと開けて唖然とした。



「さあ皆さん。今からプライベートビーチへ向かう車は、これです!」

「おお。私知ってる。リムジンってやつだ」

「そうです玲緒奈ちゃん。その通りです。パパがこの日の為に用意してくれたんですよ」

「流石ミナミのお父さん」



 …………。



「ユウ。見間違えてなければ、あれってマイバッハのリムジンじゃ……」

「見間違えてない。ありゃ本物のS600プルマンだ」



 俺と冬吾、戦慄。

 このレベルの車を、この日の為だけに用意してくれたって言ったか、今。



「……今度色んな意味で土下座しに行こう。本当に」

「俺も付き添うよ、ユウ」



 この車の価値がイマイチわかってないのか、そもそも興味ないのか。美南と伊原はずかずかと入っていった。

 これ、靴とか脱がなくていい? え、土足オーケーですか?

 こんな超超超高級車、乗ったことないから本当に不安になるんだけど。



「裕二君、どうしました? 早く行きましょう!」

「お……おう」



 恐る恐る乗車。

 俺の横には美南が。対面には冬吾が。斜向かいには伊原が座る。

 シートベルトを締めると、音も立てずゆっくりと動き出した。



「ここからおよそ4時間の移動になります。今日は高速道路も混んでないみたいですし、悠々と車の旅を満喫しましょう」

「おーっ」

「「お、おー……」」



 こんなもんくつろぐどころか緊張で気疲れを起こすわ。


 だが美南と伊原はさっそく鞄からお菓子を取り出して食べている。



「……ま、せっかくの超超超高級車での旅なんだ。楽しまなかったら、そっちの方が損だよな」

「それもそうだね。備え付けのジュースがあるし、今はこの時間をゆっくり楽しもう」



 冬吾がグラスにみんなの分のジュースを注ぐ。



「じゃ、ユウ。音頭とって」

「花見のときも俺だったろ。今日は美南で」

「わ、私ですか!? うぅ……で、では僭越ながら……」



 覚悟を決め、コホンと咳払い。



「この度、このメンバーで旅行に行けること、とても喜ばしく思います。この数日、一生に残る思い出の旅行に致しましょう。乾杯!」

「「「乾杯!」」」



 目指せ、柳谷家所有プライベートビーチ!

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