夏の思い出──①
◆
冬吾と風呂に入り(あえて言うが何もなかった)、リビングで待っていた美南達と合流した。
「じーーーー……」
「じーーーー……」
……何でそんなに睨みつけてくるんだ?
「……ふむ。裕二君の処女は無事そうですね」
「とー君も大丈夫」
「待て、俺の処女ってどういう意味だ」
「玲緒菜、今の冗談だよね?」
おいコラ、目を逸らすなこっち見ろ。
てかどこを見て無事だって判断したんだよ。いや無事だけどね?
「はぁ……なんか疲れたし、今日は寝るか」
「そうだね。俺もちょっとはしゃぎ過ぎた……」
特に、時東さんと間宮先生の来襲。
あれのせいで精神的疲労が一気にピークに達した気がする。
明日もあるし、今日は寝たい。
「それじゃあ冬吾、伊原。おやすみ」
「おやすみなさい、お2人とも」
「ユウ、美南嬢。また明日ね」
「おやすみ」
2人と別れ、俺達は自分達に宛てがわれた寝室に入っていった。
2人で寝るにしても広すぎるベッドに横たわると、肉体的疲労と精神的疲労で全身に力が入らない。
「ふふ。お疲れですね、裕二君」
「ああ、ちょっと今日は疲れた……」
「私も初日から飛ばしすぎました。いい感じの疲労感が心地いいです」
寝転がる俺の上に乗っかる美南。
薄い生地の向こうに感じる、圧倒的なボリュームと柔らかさ。そして鼻をくすぐる風呂上がりのスメル。
更に目を美南に向けると、俺の腹でスライムのように変形している胸。
俺の太ももに、蛇のように絡ませる脚。
俺の服のボタンを外し、胸板に這わせてくる指。
これは、ヤバいっ。
美南も俺の変化を感じ取ったのか、頬を赤らめて擦り寄ってきた。
「むふふ。なんだ、元気じゃないですか」
「男は生存本能と種の保存本能があり疲れすぎると生理的に反応すると言うか好きな子の柔らかさが本能を刺激すると言いますか匂いが男の奥底を刺激して無理に反応せざるを得ないと──」
「つまり?」
「……正直、たまりません」
「えっち」
どの口がそれを言う??
さわさわとフェザータッチで這ってくる指。
絶妙な指加減に、思わず体が仰け反る。
悔しい、反応しちゃう。
「ほれほれ。ここがええんか? ここがええんか?」
「ちょ、おまっ、そこは……!」
「ぐふふっ。感じてる裕二君かわええのぅ、かわええのぅ。ほれほれほれ」
「あっ、待っ……!」
「ふひっ、ふひひひっ。さあ、仕上げはここを──」
「いい加減にしろっ」
「ひゃうんっ!?」
脳天チョップに悶絶する美南。
そのお陰で正気に戻ったが、涙目で睨みつけてきた。
いやまあ、可愛すぎて睨むというより見つめてくる感じになってるけど。
「何するんですか!」
「何するって……それ、ブーメランだって気付いてる?」
「私はいいんです! 私には明確な理由がありますから!」
「人の体をまさぐる明確な理由とは?」
「エッチしたい」
「…………」
「そんな目で見ないでください!」
いや、うん。だって……ねえ?
「わかってる、わかってる。美南はそういう子だもんな。うんうん」
「……あの、ごめんなさい。さっきのはボケでして……ツッコミ入れてくれないと恥ずかしいと言うか」
え? ……あ、ボケたの今。ごめん、いつも通りすぎて気付かなかった。
美南は起き上がると、俺の上で気まずそうに指をモジモジさせた。
「ほ、ほら。今日2人っきりになることって少なかったじゃないですか。……あ、玲緒菜ちゃん達との旅行が楽しくない訳じゃないですよ? ただ、寂しかったと言うか……」
…………。
「俺の嫁は可愛いなぁ……」
「んがっ……! か、からかわないでくださいっ」
「からかってないよ。おいで」
両手を美南に向かって伸ばす。
一瞬恥ずかしそうにしたが、倒れてきた美南を抱き締めた。
柔らかく、軽い。まるで羽根のようだけど、しっかりとそこに存在を認識できる。
「……落ち着きます……」
「そうだな。俺も何だかんだ、美南が腕の中にいると安心する」
「おや、デレましたね」
「俺はいつも美南にデレてるけど」
「裕二君はツンデレさんなので、ツンさんの時もありますからね。普段からデレさんでもいいんですよ?」
ツンデレに敬称を付けるな。
「では、私が下と上、どっちにいた方が安心しますか?」
「どちらかと言えば、上かな」
「なるほど、裕二君は騎乗位が好きと」
「おいコラ。そっちの話に無理やり持っていくな」
ジト目で見る。美南も確信犯なのか、舌を出しておどけた。全くこの子は……。
「明日のことも考えると今日はできませんけど、このまま寝落ちするまでイチャイチャしてたいです。……ダメ、ですか?」
「……いいよ。今日はとことん付き合う」
「ぬへへ」
結局この日は日付が変わってもイチャイチャし続け。
最後に3時と言うのを確認した記憶と共に、俺達の意識は夢の海に沈んだ。
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