ゲーセンデビュー──②
次にやって来たのは、クレーンゲームの中でもぬいぐるみが並んでいるコーナー。
アニメキャラのデフォルメぬいぐるみや、SNSで話題のもの。他にも昔から人気のゲームキャラのものもある。
その中で美南が目を付けたのは。
「裕二君、次はこれです!」
巨大猫ぬいぐるみのクレーンゲーム。
俗に言う確率機だ。
「これはやめた方がいいと思うが……」
「難しいんですか?」
「アームの強さが、確率で変化するんだ。ほら、あの人」
少し離れた場所で確率機で景品を狙うお姉さんを見る。
3つのアームで上手いこと狙うが、力が弱く持ち上げる前にぬるりと落ちてしまった。
「確率でアームの強さが変化するんだよ。普段はアームが弱くて、普通にやっても持ち上がらないんだ」
「ふむふむ、なるほど……」
じーーー。
お姉さんの動きやアームの動きをよく見る。
おいおい、そんな見てやるなよ。あの人もやりにくそうじゃん。
見ること数回。
美南は頷き。
「うん、大体わかりました」
「え?」
わかったって、何が?
美南は巨大猫ぬいぐるみに100円を入れると。
真剣な眼差しでアームと景品の位置を確認して、降下。
と、なんとぬいぐるみのタグの隙間に入り……そこを起点に、見事ゲットした。
俺、ドン引き。お姉さん、涙目。
えぇ……どゆこと……。
「わあぁ! 取れた! 取れましたよ裕二君!」
「お、おう……」
「おっきー! かわいー!」
猫に顔を埋めて満面の笑み。
いつもなら「美南の方が可愛いぞ」とか言っちゃう場面だが……とてもじゃないが言葉すら出てこない。
他人の動きを見て、景品の形状やアームの形状を把握し、的確に取る。
なんてやつだ……。
「むふーっ。クレーンゲーム恐るるに足らず! 次はわんこです!」
同じ要領で巨大犬ぬいぐるみ。SNSでバズったサメのぬいぐるみ。アニメキャラのデフォルメぬいぐるみ。
小さいのから大きいのまで、最大3手で多種多様な7種類12個ゲット。
もうなんでもありか、この子は。
「これでリビングが賑わいますね! これからももっと沢山お友達を増やしていきます!」
あんまやり過ぎると店員に目を付けられるんだが。
今だって、数人の店員が美南を警戒した目付きで見てるし。
「時計やモバイルバッテリーはどうする? まだ色々あるけど」
「やめておきます。あの坂道のやつ、多分時間かけないと取れないので。同じくフィギュアもやめておきましょう」
正解。脳内シミュレーションもばっちりだな。
クレーンゲームは満足したのか、次に来たのはメダルゲーム。
金をメダルに替え、メダルのタワーを作ってそいつを倒すものだ。
運がいいか、機械の設定がガバガバだとそれなりに長く遊べる。要はこいつも運ゲーだ。
なのだが……。
「おい、あれ見ろ……!」
「もう何回目のジャックポットだよ」
「大箱7つ分のメダルて……どんだけ課金したんだ」
「最初から見てたけど、最初はカップ1杯だけだったぞ」
「え、ウソほんと……!?」
「じゃあ、それからあそこまで増やしたのか……!」
「とんでもねぇ子だ」
「しかも可愛いし……!」
とんでもなく目立ってます。
だが美南は楽しいみたいで、周りを気にせずコインのタワーを嬉しそうに見上げて。
「ほいほいほいっ!」
コインを連投。
ジャラララララララララッ──!! 2000枚のコインタワーが音を立てて崩れた。
周囲から湧き上がるどよめき。
溢れんばかりのコインが戻ってくるが……もう大箱8つ分になるぞ。どうするよこれ……。
「み、美南。次行こう、次」
「そうですね、満足しました!」
「そいつはよかった」
店員に言って、コインバンクにコインを保管してもらうことに。
ホクホクの美南。げっそりの俺。
美南、運まで味方に付けてやがる……これが女神とまで言われる美南の力か。とんでもねーな……。
「む! あちらから面白そうな気配を感じます!」
「あ、おい走るなよ」
慌ててついて行くと、美南が見つけたのはパンチングマシン。
単純に、パンチ力を測るものだ。
「これをやります!」
「いいのか? これ殴るやつだぞ?」
「はい。まずは裕二君、お手本をお願いします」
お手本って言われても。
まあ、俺も筋トレしてそれなりに筋肉は付いてる。やってみるか。
「パンチングマシンのコツは強く殴るというより、パットを素早く倒すんだ」
「ふむふむ」
コインを入れてグローブを付ける。
最初だし、ノーマルモードで。
美南を守れるように、俺だって色々と調べたり時東さんに習ったりしてるんだ。だからいい所を見せれる……はず!
ゲームが始まり、画面に強面のキャラクターが現れる。
起き上がったパットへ向かい──全力で拳を振り抜いた。
【210キロ!】
「キャーッ! 裕二君かっこいー! 素敵ー!」
やめてっ、そんな騒がないで恥ずかしいから!
3回やり、トータル633キロ。平均211キロか俺の結果となった。
「とまあ、こんな感じだ」
「はいっ、わかりました! 私やってみます!」
「無理すんなよ」
100円を入れ、再びノーマルモード。
だが美南はグローブを付けず素手で構えた。
何の武術かはわからないが……すごく様になっている。
そういや、美南って護身術も習ってるって言ってたな……。
「って美南。グローブ付けないのか?」
「はい。スピードが落ちると思うので」
……美南がいいなら、いいけど。
と、可愛い女の子がパンチングマシンをやるのが珍しいのか、ちょっとイケイケなグループが野次を飛ばしてきた。
「ヒューッ! ねーちゃん頑張れェ!」
「つかカワイすぎじゃねー?」
「あれ? つかあの子、モデルの子じゃね?」
「マジ? 声掛けちゃう? 掛けちゃう?」
何だか面倒なことになりそうだなぁ……こりゃ、早めに別の場所に移った方がいいか。
「美南、頑張れよ」
「はい」
目を閉じ、深呼吸を数回。
最後に息を大きく吸い込むと。
「柳谷流格闘術」
……え、今なんて?
「──“赤芽柳”──!」
ドッ──パアアアアァァァッ!!
【295キロ! 新記録!】
………………………………へ? は? ……え?
俺、唖然。
陽キャグループ、唖然。
その他客、唖然。
だが美南は次に移り。
「──“雲龍柳”──!」
ズゴシャアアァッッ!!!
【308キロ! 新記録!】
「──“枝垂れ柳”──!」
ドゴアアアアアアアアアアッッッ!!!!
【322キロ! 新記録!】
トータル925キロ。平均308.3キロ。
当然というか何というか……見事、店内ランキング歴代1位。全国ランキング歴代2位を弾き出した。
「むっ! 全国2位……負けられません! こうなったら、柳谷流格闘術秘奥をお見せして……!」
「待った! も、もういいだろっ。ほら次、次行こう!」
「あぁんっ。もうちょっとぉ……」
いやいやいや、これ以上はマジで悪目立ちするだけだから!
後ろ髪引かれる美南の手を引いて、未だ唖然としてる客から逃げるように店の奥へと向かった。
今後は美南だけは怒らせないようにしよう、マジで……。
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