ゲーセンデビュー──①
夏休みと言うのは時間泥棒である。
朝から美南と一緒に勉強し、午後も勉強し、夕方からは俺は筋トレで美南は習い事や仕事。
そりゃあ、夫婦なんだしやるべきことはやってる。
イチャイチャだって飽きないし、ずっとしてたいとは思うが。
代わり映えのない毎日。
ぶっちゃけ既に飽きていた。
午前の休憩時間。
美南は幸せそうに俺に寄り添うが、やはりどこか行きたい気持ちは拭えない。
というか外出したい。外に出たい。
「美南、ちょっとくらい外に遊びに行こう。流石に暇なんだが」
「そうですねぇ。ずっと家の中に引きこもってるだけだとあれですし……今日はもうおやすみにして、ぱーっと遊びに行きましょう!」
「おお、珍しくノリがまともだ」
「まともってどういうことです!?」
「いや、いつもなら『それならベッド行きましょう!』って言うじゃん」
「そんなこと! ……否定しきれません」
せめて否定だけはしてほしかった。
だけどせっかく美南も乗り気なんだ。どこかいい所に……って、美南の方が金持ちなんだから、いい所って言ってもほとんど行ったことあるか。うーむ。
「こほんっ。それでは気を取り直して。私行ってみたい場所があるんです」
「行ってみたい場所?」
「はい! 人生で1度も行ったことがなくて、気になってたんです!」
あの柳谷家のご令嬢でも行ったことない場所……?
「まさか超高級クラブとか、パーリーでピーポーな人達があつまるナイトクラブとか……?」
「そ、そんな場所じゃありませんよ。もっと健全な所です」
健全な……?
ダメだ、わからない。美南が行きたくて、健全な場所……くっ、どこだ……!
「あのー、そんなに悩まれるとちょっと悲しいんですけど……」
「普段の美南からしたら、高級ラブホとか言いそうだが……健全と言われたらお手上げだ」
「……私、もう少しイメージアップに努めます」
あら、落ち込んでしまった。
だけど直ぐに頭を振り、若干のドヤ顔で。
「ふふんっ。私の下がったイメージをアップさせる算段は、既についているのです。そんなことより、私の行きたい場所ですが」
「ああ、その話だったな。俺が連れてってやれるところなら、連れてってやるぞ」
「大丈夫です。駅前にあるので」
駅前?
「ゲームセンターです!」
◆
というわけで、場所は変わって駅前。
この付近では最大級のゲームセンターである『タントーステーション』は、夏休みということもあり人で賑わっていた。
「おおおぉ〜……! これがゲームセンター……!」
ゲーセンでここまでテンション上がる子初めて見た。
初めて遊園地に来た子供みたいだ。
「ど、どうしますっ? どれやったらいいですかねっ?」
俺の腕に抱き着き、満面の笑みで周囲を見渡す美南。
テンションあげあげだなぁ。
「美南は気になるやつとかないのか?」
「んー、そうですねぇ……クレーンゲームというのをやってみたいです」
「お、いいね。俺結構得意なんだよ」
「彩香ちゃんに取ってあげてたんですか?」
「出たな、ストーカー」
「違いますよ。単純にそうかなーって思っただけです。裕二君は根っからのお兄ちゃんですから」
そう言われると悪い気はしない。
けど、からかわれてるみたいで気恥しい。
恥ずかしさを紛らわせるため足早に歩く。
と、少し奥ばった場所にあるクレーンゲームコーナーへとやって来た。
ぬいぐるみ、お菓子、雑貨、フィギュア、更にはゲーム等々。様々なクレーンゲームがあるここは、大人から子供まで狙いの景品を手に入れようと躍起になっている。
だけど美南は、初めて来たクレーンゲームコーナーに圧倒されて動けなくなっていた。
「すごい……あの、裕二君。どうすれば……」
「ああ。じゃ、お手本見せるから、見てて」
「は、はいっ」
そうだな……よし、あれにしよう。
向かったのはチューインガムのクレーンゲーム。奥に乱雑に山積みになっていて、うまく落とせば大量ゲットできるものだ。
「これ、簡単に取れそうですね」
「と思うだろ」
「違うんですか?」
「ここのゲーセンのスタッフは結構曲者でな。乱雑なようでうまく計算されて積まれてるんだ。下手な所を取りに行っても、ビクともしないくらい」
だがしかし。俺だって伊達にクレーンゲームをやって来ているわけじゃない。
彩香にいい所を見せるべく鍛えられた技を見せてやる。
「ふむ……これなら3手だな」
「さん?」
ここを1回。ここを1回。そして最後にここを引っこ抜くと。
ドドドドドドッ。ガムの山が崩れ、一気に10個以上手に入った。
「おおおおっ! 300円でこんなにガムが落ちましたよ!」
「ゲーセンのクレーンゲームは、いかに安く大量に手に入れるかだ。やってみるか?」
「はい!」
俺と交代して美南が100円を台に入れる。
真剣な眼差しで狙いを定め。
アームを動かし……俺も想定した場所にドンピシャで止めた。
と。俺が取った数の倍以上のガムが、正に雪崩のように落下した。
「わあぁ! 取れた! 取れましたよ!」
「凄いな、1発でこんなに……」
「むふふっ。重心をよく見て、どこを狙ったらいいか計算すれば余裕ですね!」
何この子天才かなにか? クレーンゲームの申し子ですか?
「さあ裕二君! 次に行きましょう!」
「お、おう」
こりゃあ、このゲーセン荒らされるな……。
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