夏に向けて──③

 いくつかの水着を持って去っていく時東さん。

 やっぱこんな所で買い物するだけあって、金持ちなんだろうな。

 同じマンションに住んでるから、そうだとは思ってたけど。


 筋トレしてて、お金持ちで、美人……どんな仕事してんのか気になるところではあるが。



「……気を取り直して、買い物の続きするか」

「そ、そうですね。……あの、さっきのは違うんですよ? 本当ですからね?」

「わかった、わかった」

「本当ですよ!?」



   ◆



 この日は美南の水着を数着と、俺の水着を1つ買って店を出た。


 因みに、美南の試着姿は見ていない。

 海の日まで秘密、ということだ。

 3泊4日だから、3日分の水着。どんだけ海に入るつもりだ。


 美南は水着の入った紙袋を手にご満悦。ずっとにこにこしている。



「むふー、掘り出し物ばかりでした!」

「悪いな、俺の分も出してもらっちゃって」

「何を言ってますやら。今は私が沢山稼いで銭持ちなんですから、お気になさらず!」

今日日きょうび、銭持ちなんて初めて聞いた」



 場所は変わりファミレス。

 時間は既に12時。今から帰ると時間が時間だから、この場で終わらそうってことになったんだが。



「あら。また会ったわね」

「あ、時東さん」



 さっきと同じ姿で、ファミレスのテーブル席に腰掛けている時東さん。

 俺達より一足先に来てたのか、テーブルの上のコーヒーが湯気を立てて踊っていた。



「何でここに……って、食事以外ありえませんよね」

「ふふ。残念、待ち合わせなのよ」



 待ち合わせ?

 俺と美南、2人で首を傾げてると。



「ネネさ〜ん。お待たせしました〜。……あらぁ?」



 ……ん? このおっとりとした特徴的な喋り方は……。



「あれ、間宮先生。こんにちは」

「先生、こんちゃす」

「こんにちは〜。柳谷さん、丹波くん」



 仕事終わりなのか、いつものほんわかした服装の上に薄手のカーディガンを着た間宮先生。

 学校外でも相変わらずのほんわか具合だ。



「時東さんの待ち合わせ空いてって、間宮先生だったのか……お知り合いだったんですね」

「ええ、まあ」

「そうですねぇ〜」



 ……なんでそんな微妙な反応を?

 だが美南は何か察したらしく、俺の服をちょいちょいと引っ張った。



「裕二君、もう行きましょう。お2人の邪魔をしちゃいけません」

「え、何で?」

「何でもですっ」



 ……? よくわからないが……。



「じゃ、行くか。それじゃあ時東さん、間宮先生。また」

「失礼致します」



 2人にお辞儀して、俺達は少し離れた場所に座った。


 席に着くと、美南はずずいっと顔を寄せて小さな声で俺を窘めた。



「全くもう、お2人の邪魔をしちゃいけません。めっ」

「え、邪魔?」

「お知り合いと言った時、お2人は微妙な反応をしました。つまりお知り合い以上の関係ということ……!」

「……知り合い以上の関係……友達?」

「ちっがいますよっ、察しが悪いですね……! これです、これっ」



 小指? ……あ。



「え、マジ?」

「恐らく。私の長年培ってきた洞察力と考察力の結果です」



 その2つ、俺のストーキングで身についたものじゃねーか。

 だけどそうか。確かに花見のときも2人って一緒にいたな。そういう事情があったのか。

 2人の未来に幸せが訪れますように。



「私の勘ですが」

「いや勘かい」

「ふふ、でもそうだったら素敵じゃないですか。性別の垣根を越えた愛……!」



 ……はは、確かにな。

 そつだったら、本当に素敵な関係だ。



「ふむ……どっちがネコなのでしょうか。やはり間宮先生……いや、時東さんがネコの方が……濡れますね」

「おいやめろ」

「だって気になりません?」

「…………………………なら、ない……」

「なってるじゃないですか」



 だってあの超絶美人な2人がそうだって考えると……考えると……。



「やばいな」

「でしょ!?」

「こら、2人共〜」

「「わっ……!?」」



 ま、間宮先生っ、いつの間にここに……!?



「私達で変なこと考えないでくださ〜い。めっ」

「「す、すみません」」

「私達はもう行きますけど、お2人も早く帰るんですよ〜」

「「はーい」」



 手を振り、時東さんと並んで店を出る間宮先生。

 ……変なこと考えないで、とか言いつつめちゃめちゃ距離近くないです?



「……できてるな」

「ですよねっ」



 とてもよいものを見せていただきました。合唱。

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