作戦──②
◆
ぼーーーーーーーーーーーーー。
「ゆっ、裕二君! 焦げてます! 焦げてます!」
「…………………………え? ……うお!?」
卵が真っ黒焦げに!
あーくそっ。完全に焦げ付いてやがる……。
「あのオムライス狂いの裕二君が、卵を焦がすだなんて……明日は雪ですかね」
誰のせいだと。
あとオムライス狂いとか不名誉な称号はやめてくれ。
はぁ……料理中に集中できてないなんて、最悪だ。下手すりゃ事故になるぞ。しっかりしろ、俺。
ゆっくりと頭を振る。忘れろ。忘れるのだ、俺よ。
…………。
いや忘れんのは無理だ。ぐぬぅ。
そんな俺を見た美南が、心配そうに傍によった。
「本当、どうしたんですか? 顔色も悪いみたいですが……」
そっと、俺の頬に手を添える。
……ここで変に濁して、あとで押し問答みたいになっても喧嘩の素だしなぁ……素直に気になってるって伝えよう。
「えっと……先に謝っとく。すまん」
「はい?」
「……さっき弁当箱出した時、ラブレターっぽいの見た」
「ぁ……み、見られちゃいましたか……」
気まずそうに目を逸らす美南。
やっぱりあれは……。
「あ、安心してください! あれは確かに下駄箱に入っていましたが、差出人も不明で……」
「……ほんと?」
「勿論です! なので告白されたという事実だけがあるだけで、何もやましいことはありません!」
そう言うと、美南はゆっくりと俺の頭を抱き、胸元に寄せた。
「よしよし。大丈夫、大丈夫です。私の全ては裕二君のものですよ」
バニラのような甘い香りと、顔いっぱいに広がる柔らかさ。
頭を一定のペースで撫でる手。
耳から脳に直接届いてるかのような透き通る声。
この1ヶ月の強制禁欲生活。
更に見知らぬ輩から美南へのラブレター。
この2つのせいで、俺の中の煮詰まった欲望が一気に噴き出した。
──ぷつん──
「美南、ベッド行こう」
「お昼はいいんです?」
「いい」
今俺はどんな顔をしているのか。どんな目をしているのか。
ただ美南は、そんな俺をゾクゾクした顔で見つめていた。
◆
やっちまった。
深夜どころじゃない。
既に朝日が寝室に差し込んでいる。
飯も食わず。水分だけ摂り。
ただただ、本能の赴くままに。
野生動物か俺は。
「すまん、美南。大丈夫か?」
「は、はい……すごかったです……」
お互い息も絶え絶えだ。
見た感じ、美南も満足した様子。よかったというか、申し訳ないというか……。
満足気に微笑んでいる美南。
だが直後、してやったりと言いたげな影のある笑顔に変わった。
「ふふ……ふふふ。まさかとは思いましたが、想像以上の効果……数年間、作戦を温めてきた甲斐がありました。まあ、裕二君が筋トレしたせいか、体力が予想を遥かに超えていましたが」
……どういうことだ?
意味がわからず首を傾げる。すると、美南は素早く立ち上がり、腰に手を当てて勝ち誇った顔をした。
「何を隠そう! あのラブレターは私が仕込んだものなのデェース!」
ぱんぱかぱーん!
………………………………は?
「で、でも筆跡が……」
「裕二君、忘れていませんか? 私は裕二君の筆跡を完璧に真似ることができるのだということを」
「……そういや、そんなこと言ってたな」
「そしてあの筆跡、実は裕二君のものなんです」
「……マジで?」
「マジです。内容が衝撃的すぎて、筆跡まで目の入らなかったのでしょう」
た、確かに。似たような文字って自覚はあったけど……。
いや、それ以前に。
「なんでこんなことを?」
「私の
サラッと犯罪宣言しないでほしい。今更だけど。
「そんな実は嫉妬深い裕二君。テスト勉強による強制禁欲とどこの誰とも知らない馬の骨からの偽ラブレターにより、欲望は爆発! 私の想像通り……いえ、想像以上の結果になりました!」
「……この作戦を、数年間温めてきたと?」
「
ダメだこいつ、狂ってやがる(ドン引き)。
でも好きなんだよなぁ。こんな狂ってるところも。
俺も俺で相当ダメだ。
「こういう趣向もいいですね! まだ色々と考えてますので、楽しみにしててください!」
しばらくはごめんだ……愛すべきアホ嫁め。
そう思い、俺は気を失うように意識を手放した。
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