テスト──⑥

   ◆



 勉強、飯、風呂を終えて時刻は23時前。

 冬吾と伊原は俺達の貸した寝間着に袖を通し、疲れた顔でこくりこくりと船を漕いでいた。


 まあ、その気持ちはわかるぞ。俺も最初似たような感じだった。



「お疲れさん、2人共」

「あ、うん……ごめん、眠くて……」

「しゅぴぃ……」



 伊原の奴、完全に意識が飛んでやがる。

 美南ズブートキャンプ、トラウマにならなきゃいいけど。


 俺は冬吾に肩を貸し、伊原は美南がおんぶしてゲストルームへ運んだ。


 ゲストルームは基本的には入らないけど、ゲストルーム専用のトイレやシャワールームも完備されていて、俺の背丈くらいの冷蔵庫も付いている。

 正直、この部屋だけでも普通に生活出来る環境は整っていた。


 ゲストルームのベッドに2人を並んで寝させる。

 冬吾も相当眠かったのか、直ぐに寝息を立てた。

 そんな中伊原がもぞもぞと動いて冬吾の腕に抱きつく。

 冬吾も伊原の熱を感じたのか伊原を抱き寄せるように腕を回した。



「しゅぴぃ……しゅぴぃ……」

「すぅ……すぅ……」



 ……寝てても仲良いな、こいつら。

 美南も同じことを思ったのか、頬を緩ませて口を開いた。



「2人共、可愛すぎます……!」

「自分にはこの人しかいないって雰囲気だな。いいカップルだ」



 取り敢えず写真パシャリ。

 あとで2人にLIMEで送ってやろう。


 ゲストルームを出た俺達も、寝室に入ってベッドに横になった。

 美南も流石に疲れたのか、俺の腕を枕にウトウトと眠そうにしてる。



「お疲れ、美南」

「ありがとうございます。でも、今日は反省ですね」

「ああ。2人の疲弊っぷりを見たらな」



 思わず苦笑い。

 美南も俺に釣られて苦笑いを浮かべ。

 けど、直ぐに不安そうに目を伏せた。



「……私は、やり過ぎてるんでしょうか?」

「いや、全く」

「そ、即答ですね……」

「元々勉強をして来なかった冬吾の責任だし、冬吾自身もそれをわかった上で俺達にすがった。自業自得だ」



 だからあれだけ勉強しろと何度も言ったのに。



「中々辛辣なこと言いますね。親友とは思えません」

「親友こそだろ」

「まあ、色々言い合えるのが親友だとは言いますが……」

「違う、そうじゃない」

「え?」



 美南が不思議そうに首を傾げた。






「簡単だ。冬吾はやればできる奴だって、誰より俺が1番わかってるから」






 そう、あいつはこんな事で音を上げる様な奴じゃない。

 誰よりも……誰よりもあいつと一緒にいたんだ。

 あいつはやれる。できる。間違いない。



「……信頼してるんですね」

「まあな」

「……いいなぁ」



 服の裾を摘み、より密着するように抱きしめてくる美南。

 そんな彼女が可愛くて、つい頭をそっと撫でる。

 風呂上がりで全く引っ掛かりのない髪。撫で心地最高。



「うがぅ。なんですかぁ〜」

「いや、可愛いと思って。いつもだけど」

「うぅ〜」



 頭を脇腹にぐりぐりすんのやめれ。痛い。

 美南は頭ぐりぐりに満足したのか、急にピタッと動きを止めた。

 ……いや、止めたってより……動かないな。



「美南?」

「……しゅぴ〜……すぅ〜……」



 さっきの今でもう寝てんのか!?

 ノビくんもびっくりの早寝だな!



「全く……おやすみ、美南」



   ◆



 そうして、1週間が過ぎ──。



「ついに来たな、今日が」

「ですねぇ。やれることは全てやりました」



 今日から5日間かけて中間テストが行われる。

 俺と美南、あと伊原は普段から勉強しているだけありそこまで緊張はしてない。

 が。



「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ……」



 当の本人である冬吾はこんな状態である。



「冬吾、大丈夫か?」

「は、話しかけないで……勉強したことが頭から抜ける……」

「お、おう……」



 そんなに不安がる必要もないとは思うが……。


 でも気持ちはわかる。

 勉強ってのは中途半端にやれば、それだけで完璧になったつもりになるからか根拠のない自信が生まれる。

 これだけ不安になってるってことは、それだけ本気で勉強したってことだ。


 大丈夫だ冬吾。お前の努力は俺達が知ってる。

 だから自信もってテストに臨め……!


 密かにエールを送っていると、教室の前から間宮先生が入ってきた。



「皆さ〜ん。おはようございま〜す」



 相変わらずのまったりおっとりした声だ。



「今日から中間テストが始まりますねぇ〜。準備はしましたか〜? 神様にお祈りは〜? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はオーケーです〜?」

「「「「「………………????」」」」」

「……あぁ、このネタはもう通じない世代なんですねぇ〜……」



 寂しそうに遠い目をする間宮先生。

 大丈夫です。俺と美南はわかってますよ。美南、爆笑を堪えてますから。



「こほん。では、今日から5日間かけて中間テストが行われます〜。バッチバチに内申に関わって来ますので、いい大学に行きたい人は頑張ってくださ〜い」



 その一言に、クラスの空気が引き締まった。気がした。

 進学校に来てる生徒ばかりなんだ。そりゃあ少しでもいい大学に行きたいって思うに決まってる。

 俺も、ヤナギヤ家具に恥じない人材になる為に少しでもいい大学に……!



「それでは、本日は必須科目で〜す。皆さん、頑張ってくださいね〜。えいえいおー、だよ〜」

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