テスト──⑤

   ◆



 時は過ぎ、テスト1週間前。

 今日からテスト期間に入り、テスト終了まで部活動を禁止される。

 美南も今日から習い事の類いは休み。

 つまり、帰宅した16時からみっちり勉強会だ。


 リビングにてテーブルに座る俺、冬吾、伊原。

 そして俺たちの前に立つ美南は、女教師風スーツに伊達メガネを掛け、教鞭を持っている。

 胸ははだけさせず、ちゃんとボタンを上まで閉めていて、正に理想の女教師。


 ただ、如何せん胸がデカすぎて……。



「ふふん。どうです? 似合います?」

「エロい」

「ミナミ、AV女優みたい」

「あはは……」

「酷評!?」



 いやまあ、正直リアルで勉強を教える感じではないよなぁ。

 美南はガッカリしたように肩を落とすが、直ぐに気持ちを切り替えて頭を振る。



「まあいいです。私としてはこの方が気合いが入るので」



 ピシッ! 教鞭を振るってテーブルを叩く。



「この2週間、皆さんよく耐えてきたと思います。特に高瀬君。私の指導の元、目覚しい成果が現れていますね」

「本当に何回も逃げ出しそうになったけどね……」



 冬吾が遠い目をしている。

 だけど美南の言う通り、最近は授業にもついていけていて、先生にも積極的に質問するようになった。

 美南ちゃんスペシャルメニュー、恐るべし。



「裕二君も玲緒奈ちゃんも、恐らく今回のテストは今まで以上にいい成績を残せるはずです。素晴らしいです。ですが……」



 とか言いつつ腕を組み、目を閉じる。

 が、次の瞬間、カッッッと目を見開き教鞭でテーブルを叩いた。



「お遊びはここまでだ!」



 どこの生徒会長だ己は。



「美南嬢、お遊びって?」

「よくぞ聞いてくれました高瀬君。今までは準備期間。基礎的な土台を作るパートでした。これでも十分、ミスさえしなければ半分は取れるでしょう」



 マジか。つい2週間前まで8点とか5点とか、高くて23点しか取れなかった冬吾だぞ。そんなに学力が上がってんのか。


 そんな美南の評価に、冬吾ではなく伊原が得意げな顔をした。



「当然。とー君はやればできる子」

「ふふふ。半分も取れれば上出来じゃないかな?」

「高瀬君は甘すぎです。アマアマの実を食べた全身メープルシロップ人間です」



 何それ嫌すぎる能力者。

 だけど美南の言い分もわかる。


 高校3年生は、普段の勉強の他に受験勉強を行っている。

 特にウチは進学校。下手な高校より勉強に費やしてる奴が圧倒的に多い中、定期テストは確実に今までよりレベルが上がってるだろう。


 美南が似たような説明をすると、冬吾も納得したように頷いた。



「という訳で、高瀬君には次のテストで6割……できれば7割取ってもらいます」

「あと1週間でそこまでできるかな……?」

「高瀬君の努力次第です。それに……やらなきゃいけないんですよね?」



 その言葉に、冬吾はハッとした顔をした。

 今回冬吾は、伊原のためにテストを頑張ってる。ここで折れたら、下手すると伊原との仲に亀裂が入るかもしれないんだ。



「……美南嬢。俺、やるよ」

「はい。私もお手伝いしますので、頑張りましょう」



 美南は教鞭を振るい、再びテーブルを叩いた。



「さあ皆さん! 残り1週間、ビシバシ行きますよ!」

「「おー!」」



 冬吾と伊原がやる気満々といった風に手を突き上げた。

 ……まあ、それはいいんだが。



「美南、テーブルが傷付くから叩くのやめなさい」

「あい!」



   ◆



 数時間後。



「「「…………」」」



 し……死ぬ……死ぬる……。

 何やこれ。何で勉強でこんなに体力や気力を持ってかれるんや……もう訳わからんすぎてエセ関西弁になっとるがな……。



「19時ですか。そろそろご飯にしましょう。裕二君は流石に動けなさそうなので、今日は出前でいいですよね」

「ピザ」

「肉!」

「お寿司……!」



 俺、冬吾、伊原が思い思いに欲してるものを口にした。

 うん、カロリー大事。カロリー欲しい。



「ふふふ、わかりました」



 美南はスマホからマンションの下にあるレストランに連絡すると、ピザとステーキ丼と寿司を頼んだ。

 あのレストラン、何でもあるんだよな。しかもどれも最高に美味いし。



「あ、そうだ美南。今日は何時までやる予定だ?」

「そうですね……20時まで休憩したとして、あと2時間はやりたいところです」

「となると、22時か……冬吾と伊原の家って、確か電車で30分のところだったよな」

「うん。俺と玲緒奈は、最寄りも同じ駅だ」



 うーん。流石にそんな時間まで拘束するのもな……。



「なら、今日はうちに泊まっていかないか? これからまた2時間も勉強するし、疲れたまま帰らせるのも忍びないからな」

「え……いいのかい?」

「ミナミ、いいの?」

「勿論です! ゲストルームもあるので、全然問題ないですよ!」



 むしろこの状態で帰らせて、未来の日本サッカーの宝を怪我させたら、そっちの方が申し訳なくて鬱になる。



「じゃあ、お世話になろうかな。親に連絡してみる」

「わ、私も」



 2人はリビングを出ると、数分で直ぐに戻ってきた。



「ユウの家に泊まるって言ったら、二つ返事でオーケーだって」

「私も、ミナミの家に泊まるって言ったらむしろオーケーって言われた」



 まあ、あの柳谷家のご令嬢と懇意にできる可能性があるなら、そりゃオーケーも出すから。

 ここで下手に拒否しても、伊原の家の心象が悪くなるだけだし。……美南に限って、そんなことさ無いとは思うけど。



「ふふふ。お泊まり会ですね!」

「美南。元はと言えば、無茶な勉強メニューを組んだのが悪いんだからな。明日からは少し自重しなさい」

「あぅ……ごめんなさい……」

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