テスト──④

「うぅ……裕二君を私のとりこにするはずが……」

「俺、十分美南の虜なんだが」

「とても嬉しいですが、そういう事じゃないのです! こう、身も心も胃袋も〇〇〇も掴みたいのが乙女心というものなんです!」



 乙女心複雑か。あと最後下ネタやめなさい。

 美南はだいしゅきホールドを緩めず、俺の首に顔を埋めて興奮気味にギャンギャン喚く。



「それがどうですか! 身も心も胃袋も、何もかも裕二君に掴まれてしまってます! もう私、裕二君なしじゃ生きて行けません!」



 何を自信満々に聞かされてるのだろう、俺は。

 ただ、悪い気はしない。

 美南は不本意かもしれないが、男の俺としては、美人な妻がこんなに好いてくれるって状況だけで幸せだ。


 だけど美南からしたら、立場が逆な方が理想的なようで。



「うぐぐ……! 私も、裕二君を私に依存させたい……!」

「待て。俺が美南に依存すると、くそヒモニート金食い虫ダメンズになりそうなんだが」

「……ふむ……」



 ……おい、何でそんなに真剣な顔で思案してんだ。いや、ならないからね?



「私は外で一生懸命働き、ヒモでニートな裕二君にお金を渡す……そして家ではいつでもエッチできるよう露出の高い服を強要され、私はそれに逆らえず……いいですね!」

「よくねーよ!?」



 妄想たくましいにもほどがあんだろ! 流石の俺もドン引きだわ!



「や、やですね。冗談ですよぅ」

「何割?」

「……7割?」

有罪ギルティ

「あぅん」



 当たり前だバカタレ。

 全くこの子は……。


 っと、そろそろ飯食わないと時間がなくなっちまう。



「美南、飯食おうぜ。腹減ったよ」

「あ、そうですね。もう少しこうして裕二君を堪能してたかったですが……致し方ありません」



 美南は残念そうに立ち上がろうとした。次の瞬間。



「あれ? 何か引っかかって……ぁ」



 やばっ……!


 急いで自分の股間を押さえるが時すでに遅し。

 美南は標的を見つけたような笑みで、俺の肩に手を置いた。



「おやおや? 裕二君、これは何ですか?」

「ぅ……しょ、しょうがないだろ。あんなに密着して、首舐められて、キスしたら……」

「むふふふふ。裕二君も男の子ですからねぇ」



 スルッ──まるで蛇が這うように、下腹部に触れようとしてきた……!



「ちょっ、触んな……! ほっといたら収まるから!」

「いえいえ。遠慮なさらずにっ。さあ、お口にする? お胸にする? それとも……あ、そ、こ?」

「調子に乗らないっ」

「にゃうんっ!」



 割とガチめチョップに悶える美南。学校で何しようとしてんだこいつは。



「うぅ……せっかく、教室エッチ童貞を捨てられると思ったのに……」

「一生大事に取っときな」

「……照れ屋さんなんですから。ぽっ♡」

「これ以上ふざけるならお前の弁当も食っちまうぞ」

「わー食べます! 食べます!」



 よろしい。

 素直に席に着いた美南は、手を合わせて唐揚げをもごもごと咀嚼そしゃくした。



「それにしても、今日の美南テンションおかしくないか?」

「ほーれふは?」

「口の中に食べ物入れたまま喋るんじゃありません」

「もぐもぐ、ごくん。そうですかね? 私はいつも通りを心掛けて……あ」



 ……いつも通りを心掛けてるってことは、やっぱり自覚はあったのね。

 美南は言いづらそうに目を伏せたり、俺を見たりと繰り返すと……椅子ごと俺に近付き肩に頭を乗せた。



「……嫌な子って、思いません?」

「俺が美南をそんな風に見るはずないだろ」

「……最近、高瀬君と玲緒奈ちゃんを家に呼んでて、その……一緒にいる時間が、少なかったから……」



 あ……確かに、最近ずっと2人に構ってて美南とイチャイチャしてない。

 今日だって本当に久々だ。

 なんてこった……こんなの、愛する妻のいる男失格じゃないか……!


 そっと美南の頭を撫でる。

 美南は気持ちよさそうに目を閉じ、更に頭を擦り寄せてきた。



「美南、ごめんな。俺……」

「いえ、いいんです。裕二君にとって、高瀬君は唯一無二の親友なんですから。……でも、私にも構ってくれないと……怒っちゃいますよ? ぷんぷんがおー、です」

「ああ、わかった」



 今、俺の中で明確な優先順位が決まった。

 本当はこんなことに優先順位なんて付けたくないし、失礼なんだろう。


 だけど俺は、そんなことを度外視するほど俺の嫁を……美南を愛している。


 それを認識し、美南の頭をゆっくり撫でてると。






 キーンコーンカーンコーン──






「「あ」」



 ……飯、食えてねえ……。

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