テスト──③

   ◆



 美南ちゃんスペシャルメニューを初めて3日。

 俺は1回やったからまだ耐えられる。


 が。



「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……」

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……」



 冬吾と伊原はご覧の通りだ。

 クラスメイトからも心配されるほどのガクブルっぷり。

 まあ、あんな勉強してたらな……。


 美南をチラ見。

 ホクホクツヤツヤした顔をしてやがるぜ。

 美南って見た目に反してドSなんだよな……色んな意味で、身をもって体感してる俺が言うんだ、間違いない。



「冬吾、大丈夫か? 耐えられそうか?」

「な……なんの……海のためなら、これくらい……海、砂浜、水着……ぐふふ」



 おいイケメンフェイスが欲望で歪んでるぞ。


 そんな冬吾を見て、この3日間のことを考えた。

 一緒に勉強して改めて思ったが、冬吾ってかなり要領はいいんだよな。

 決して勉強ができないわけじゃない。ただやらないだけだ。

 この調子なら、次のテストは本当にいい線行きそうだな。



「ま、あんまり気張るなよ」

「気張りたくもなるさ」

「お前気張ったら熱出すんだから。小学生のとき、それで遠足行けなくて泣いてたろ」

「ぐっ……」



 当時のことを思い出して顔を真っ赤にした冬吾。

 遠足が楽しみで楽しみで、1週間前からソワソワし……当日38度の熱を出して休んだ。

 帰ってきたら、わけもわからず号泣してたのを覚えてる。



「い、今はそんな子供じゃないしっ」

「ほーん? 中学の頃、修学旅行で──」

「ごめんなさいマジ許してください……!」



 うむ、よろしい。

 反省したのか、俯く冬吾の頭をぽんぽんと叩く。



「にへへ……ユウにこうして貰うのも久々だね」

「昔はよくやってたな。彩香にやってたら、僕も僕もって」

「だから昔の話はやめてって……っ!?」



 ん? どうしたんだ、冬吾。


 ──ゾクッ──


 なっ……こ、このフの視線は……!






「裕二君浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか浮気ですか許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……」


「ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ……」


「「「愚腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐腐……」」」



 ヒイィッ! 美南と伊原からの『負』の視線はともかく、貴腐人からの『腐』の視線までこっちを向いてやがる……!?


 ちょ、怖っ、怖いよっ!?



「はぁ〜い。皆さん席についてくださ……え、何ですかこの不穏な空気……?」



   ◆



 昼。

 いつもの空き教室にて。



「あ、あのぅ。美南さん?」

「あぐあぐ」

「ひぅっ……!」



 く、首筋の甘噛みやめれ……!


 現状、1つの椅子に正面座位で座って、脚と腕を背中に回されてがっちりとホールドされている。


 そう、いわゆるだいしゅきホールドと呼ばれるあれだ。



裕二君ゆうひふんはわらひのなのに……あむあむ」

「ひんっ……! わ、悪かったって。あれは昔からの癖というかノリというか……!」

「わらひらって……わらひらってぇ……! むぐむぐ〜!」

「ぁっ……! ちょっ、ほんとにだめ……!」



 首弱いんだよっ、本当に……!



「! あぐあぐっ」

「あんっ」

「もぐもぐ」

「ちょっ……!」

「あむあむ♪」

「調子乗んな!」

「ひゃうんっ」



 涙目でデコピンされた額を擦る美南。

 全く、直ぐ調子に乗るんだからこいつは。



「ぐぬぬ……! でもでもっ、これでも嫉妬してるんですよ、私! ぷんぷんがおーです!」

「う……いや、すまん。まさかあれで嫉妬するとは思わなかったんだ」

「しますよ! しまくりです!」



 むぎゅーっと俺を抱き締める力が強くなる。

 参ったな。俺と冬吾のいつものやり取りが、こんな風に嫉妬させてしまうなんて。


 まあ、嫉妬の仕方も子供っぽくて可愛いんだが。



「ごめんな、美南。どうしたら許してくれる?」

「……チュー」

「え? ネズミ? モルモット?」

「違いますっ! ……キス、してください」



 頬を染め、ムッとした顔で要求してきた。



「キス……で、いいのか?」

「もちろんそれだけじゃありません。高瀬君を撫でるのが癖なら、私にはキスをするのを癖にしてください」



 あぁ、なるほどそういう……。



「ここでか?」

「はい、今からスタートです!」

「……わかった」






 10分後。



「ん……どうだ?」

「バカぁ!」

「ええ!?」



 言われた通りにキスしたらバカ扱いされた! 解せぬ!

 見ると、美南は顔をとろけさせ、うっとりしたような表情で俺の制服にしがみついていた。



「私が裕二君をメロメロにして癖になるまでキスしようとしたのに……私の方が癖になっちゃったじゃないですかぁ、ばかぁ……!」

「えっと……ごめん?」

「本当ですよっ、もー! でも嬉しー! むぎゅー!」



 いや、これは俺が悪いんだろうか……?

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