テスト──②

   ◆



「絶望的だ……」

「申し訳ないです……」



 夜、20時。飯も食い終え、現在の冬吾の実力を知るべく小テストをしたんだが。

 想像を超えて点数が低い。これは舐めてた。



「大丈夫だよ、とー君。私はどんなにバカなとー君でも、絶対に嫌いにならないから」

「玲緒奈、ありが……あれ? 今ものすごくバカにされた? それとも愛を囁かれた?」

「もちろん、愛を囁いてるよ」

「だよねっ」



 何このバカップル。


 改めて小テストの点数を確認する。



「だけど、こうも点数が低いとな」

「裕二。とー君なら大丈夫」

「何を根拠に」

「ほら、バカとー君と天才は紙一重って言う。だから大丈夫」

「それ大丈夫じゃないよな。……おい冬吾、お前褒められてないからな。照れたような顔するんじゃない」



 こいつも伊原にベタ惚れだし、気持ちはわからんでもないが。

 しかし、こいつはどうするか……。



「美南、これどうにかなるか?」



 全教科軒並み低い点数に愕然としていると、美南がテスト結果を見て分析を始めた。



「ふむふむ……軒並み基礎は出来てますね。あとは応用力をつければ問題ないかと」



 その言葉に、冬吾が首を傾げた。



「応用って、そんなに簡単に身に付くものなの?」

「はい。基礎ができてないと難しいですけど、ここから3週間もあれば十分に挽回できます。……まあ、美南ちゃんスペシャルメニューをこなせば、ですけど」



 なっ……!? 美南ちゃんスペシャルメニュー、だと……!?

 俺も1週間だけ受けたことのある勉強コース、美南ちゃんスペシャルメニュー。

 それをするということは……!



「冬吾……生きて乗り切ったら、寿司奢ってやるからな」

「待って、そんな死亡フラグを立てるくらい厳しいメニューなの!?」

「それくらいお前の勉強ができてないってことだ。諦めろ」

「鬼め……」



 俺が鬼なら美南は閻魔だな……それくらい、あれはヤバい。

 まあそのおかげで、俺も1週間で爆発的に学力は上がったんだけどな。



「とー君、死ぬときは私も一緒だよ。一緒にがんばろ?」

「玲緒奈……だ、ダメだっ。玲緒奈は絶対死なせない! だから俺、頑張るよ!」

「とー君……!」



 ダキッ! 熱い抱擁を交わす2人。何このバカップル(2回目)。

 俺と美南だって、もっと節度あるイチャイチャをしてると言うのに。

 ……してるよね?



「なんという美しい想い……! ゆ、裕二君っ、私達も負けてはいられません! 私と裕二君の愛の深さを見せつけるときです!」

「おいコラ脱ぐな!」



 親友とその彼女に見せつけプレイとか、そんなハードな性癖は持ってないからな!?

 と言うかそんなことしたら、その時点で負けな気がする!


 ごめん、冬吾。俺らも人のこと言えないくらいバカップルだったわ……。



「まあ8割の冗談はこれくらいにして」



 2割は本気だったんかい。



「今回のテスト、皆さんが無事赤点を回避した暁には、豪華プレゼントを用意しちゃいまーす!」



 ぱんぱかぱーん!


 ……豪華プレゼント?

 俺達全員、首を傾げた。

 皆が赤点を取らなかったらってどういう意味だろう。



「ミナミ、プレゼントって?」

「むふふ〜。まあ、秘密にしすぎて逆に勉強に手が付かなくなるのはまずいですし、あえて先に言います。プレゼントとは……これです!」



 取り出したのは1枚の紙。

 そこに書いてあるものとは。



「柳谷家プライベートビーチ借用書……は!?」

「いやー、取るの苦労したんですよ? なんと言っても日本全国にいる柳谷家の親族が、こぞって予約するんですから」



 えっへん、と胸を張る美南。

 世界のヤナギヤ家具だとは思ってたが……まさかまさか、プライベートビーチまで持ってるなんて。


 改めて、柳谷家やべーな。



「今回、私と裕二君の結婚祝いということで、優先的に予約取らせてもらいました。高瀬君と玲緒奈ちゃんは付き合ってることを隠してることから、海とか行ったことありませんよね? 高校生最後の夏、皆で思いっきり楽しみましょう!」

「美南嬢……やはりあなたが女神だったか」

「ミナミ、大好き!」



 ああ。今は美南が本当の女神に見える……!



「さあ、そうと決まればお勉強ですよ」

「「おー!」」



 冬吾と伊原が、ニッコニコで勉強を始めた。

 2人共やる気マックス。凄い集中力だ。



「ありがとな、美南。2人のために」

「いえいえ。これは私のためでもあります」

「美南のため?」






「1回でいいから、ビーチセ〇〇スしてみたくて。えへへ」






 あぁ、いつもの美南だ。

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