荒療治──②
◆
「おい冬吾、歯を食いしばれ」
「ん? おっと」
パシッ。
こいつっ、俺のパンチを平然と片手で受け止めやがった……!?
「危ないなぁ。いきなり何するんだい?」
「お前絶対わかって言ってるだろ」
「ぼくたかせとーご、じゅーななちゃい。むずかしいこと、わかんない」
「シバくぞ17歳児」
くすくすと笑い、鞄からペットボトルを取り出して口をつける。
全く、このクソ野郎め。
「ぷは。……あれ? 美南嬢は?」
「あの後ぶっ倒れて熱出した。今日は念の為休み」
「ワォ、想像以上にピュアだ」
それは思った。
筋トレして体付きが変わっただけで、こんなにも耐性がなくなるのか……美南、俺のこと好きすぎだろ。……嬉しいけど。
「うーん……このままじゃ、夏は海に行けないね」
「……海?」
「夏と言えば海でしょ」
「いや俺ら受験生だからな? わかってます?」
「ユウ……」
おい、その残念なものを見るような目で見てくるのやめろ。
「ユウ。1つ聞くが、受験が終わるまでずっと休みなく勉強をするつもりか?」
「いや、それはないが……」
「そう、たまには休みを取らないと、どこかで必ずぶっ倒れる。その休みを利用して皆で海に行こう」
ふむ、確かに。
俺も筋トレを始めてから、始める前より今の方が勉強に集中できてる気がする。
要は息抜きが大切ということだ。
美南と海か……。
昨日、不可抗力ながらも美南の裸体を見てしまった。
あの体で、水着着て、海……。
どうしよう、凄く……凄くそそるッ!
「行きたいな」
「だろ? でもそれには障害がある」
「な、何だ?」
「美南嬢が、ユウの体に慣れてないと、海で気絶する。と言うことは……遊ぶところじゃなくなる」
た……確かに……!?
美南が俺のことを直視できない。それはつまり、白い砂浜、青い海で遊ぶビキニ姿の美南を見ることができないということ!
なんということだ! あんな美少女のキャッキャウフフを見れないなんてあってはならない!
やってやる……美南を俺の体に慣れさせる……!
玲緒奈:とー君。顔ニヤけてる
冬吾:2人のウブさが可愛くて
玲緒奈:人が悪い
冬吾:でも?
玲緒奈:……好き
冬吾:ありがとう、俺も好きだよ
玲緒奈:あう
◆
「という訳で、美南には俺の体に慣れてもらう」
「裕二君、知能指数下がってるのに気付いてますか?」
失礼な。これのどこが下がってるっていうんだ。
土曜日は何もせずのんびりする日。
ということで、朝の8時から2人で飯を食いながら、先日のことについて話し合っていた。
「美南。俺はこれからも筋トレを続ける。そうすれば今以上に体付きが変わってくるだろう」
「う……そ、そうですね」
「そうなると、美南は一生俺と海には行けず、また一生エッチもできない」
「それは困るます!」
困るますって日本語おかしいぞ。
だけど美南もことの重大さを受け止めたらしく、ふんすっと鼻息を荒くした。
「思えば、裕二君を散々誘惑していたのは私です。その私が、裸を見ただけで気絶するなんて裕二君に失礼です!」
「失礼ではないけど、毎回気絶されるとやっぱり困るからな」
「まあ、個人的には眠ってる間とか目隠しとか裕二君限定でとても興奮しますが」
「やらないからな。絶対やらないからな」
だが美南はそんな俺を見つめ、ニヤリと口角を上げた。
「ふふふ……忘れたんですか?」
「な、何を」
「私、裕二君の性癖を全て熟知し──」
「あーあー聞こえなーい」
こいつ、俺の秘蔵のコレクションのことまで知ってんのか。やめて、これ以上俺の深くに入ってこないで……!
羞恥で俺の心がぐちゃぐちゃになってると、美南は「まあ……」と照れくさそうに頬をかいた。
「それでもやっぱり初めては、お互い意識があるときがいいですけどね」
「美南……ああ、一緒に乗り越えていこう」
「はい!」
じゃあ早速。
「はい、腹筋 (ぺら)」
「ブバッ!」
おぅ、綺麗な赤い噴水。
「きゅっ、急にお腹を見せるなんてっ、裕二君は露出狂なんですか! 新しい裕二君が見れて嬉しいですけど、もうちょっと節度ある行動を取ってください!」
「いや、たかが腹だろ」
「たかが!? 裕二君の腹筋はあのダビデ像をも超える世界の芸術品なのです! たかがなんて言ったら怒りますよ!」
「お、おう……? ご、ごめん」
「全くもうっ、全くもうっ」
腕を組んでぷんぷん怒ってる美南。
いや何で俺が怒られてるのん?
あと、俺の腹筋がダビデ像並とかミケランジェロに謝ろうな。
「じゃあ前腕はどうだ?」
「それなら……」
「ほい(ぺら)」
「ぶばはっ!?」
また赤い噴水。
こりゃあ、時間がかかりそうだな。
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