荒療治──①

 美南と正式に結婚して1週間が経った。

 結婚しても、俺と美南の生活は殆ど変わらない。

 学校行って、一緒に飯食って、勉強する。


 いつもと同じだ。



「それで、2人はどこまでいったんだい?」

「……どこまで、とは?」



 昼休み、あえて目逸らし。

 冬吾は楽しそうにニヤニヤしながら、伊原の作ったらしい弁当をつまんだ。



「わかってるだろ? 2人は夫婦。もう同棲してかなり経つし、結婚して1週間だ。そろそろ卒業祝いでも送ろうかなって」

「やめろ」



 童貞卒業で卒業祝いなんか送られたら、羞恥で死ぬ。



「それで?」

「ぐ……言わなきゃダメか?」

「ダメ。俺にはユウの全てを知る権利がある」

「そんな権利は誰にもねーよ」



 美南? あいつは俺の公認ストーカーだから別。どれだけ隠しても、どっかしらから情報を仕入れてくるし。


 だがまあ、こんな恥ずかしいこと親友にも言いづらいんだが……。



「……ぶっちゃけ……」

「ふむふむ」

「……進んでない」

「…………………………………………は?」



 ははは、なんだその間抜け面でもイケメンは。ぶっ飛ばすぞ♡



「だから、進んでないんだって」

「そんな馬鹿な」

「マジで」

「……俺の親友がこんなヘタレだったなんて……はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜……」



 おい、なんだそのクソデカため息は。



「言っておくが、別に俺はヘタレじゃない。やる時はやる男だ」

「まあ、それは知ってるけど」

「で、だ。最近俺筋トレしてるって言ったろ?」

「ああ、美南嬢に似合う男になるってやつね」

「ああ。それで、最近体付きも変わって来たんだよ」

「そう言えば、体育で着替えてる時に見たけど、中々いい体になってたな」



 そんなまじまじ見んな。キモイぞ。



「それでな、まあ結婚初日にいい雰囲気になったのよ」

「ふむふむ」

「で、俺が脱いだら」

「おお!」

「……美南が鼻血出して気絶した」

「……………………は?」



 うん、そうなるよね。知ってた。

 わかるぞ、俺も気絶した美南を見てそんな気持ちだった。



「待って。美南嬢ってユウのストーカーだよね?」

「ああ」

「なら、着替えの写真とか持ってそうだけど」

「うん。俺もそれ聞いたんだ。そしたら」




『写真と生とじゃ違いすぎて……! それに筋肉値が全体的に11.56パーセントも上がってるためか興奮度合いが一気に天元突破してパーリーピーポーイェイイェイです!』




「らしい」

「よくわからない」



 だろ? 大丈夫、俺もよくわからない。



「ふむ……つまり、前のユウと今のユウじゃ違うから、興奮しすぎて意識が飛ぶと」

「まあ、そういうことらしい」



 確かに体付きが変わってる自覚はある。

 それを他の人の目でも分かるくらい変わってるのは、素直に嬉しい。

 でも、だ。



「それで気絶するってどんだけピュアなの、俺の嫁……」

「難儀な性格してるね、美南嬢も」



 お陰様(?)でまだ清らかな体ですよ、ええ。


 冬吾は今までの話を聞き、腕を組んで何かを考えている。



「……うん、それなら俺に1つ考えがある」

「お、さすが冬吾。無二の親友」

「ははは、もっと褒めたまえ。ま、今日の夜は楽しみにしてなよ」



 そういう冬吾は、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。


 と、直後に鳴り響く予鈴。

 そういや、次の時間は体育だったな。早く戻らないと──。



   ◆



「キャアーーーーーーーーッッッ!?!?」

「っ! 美南!?」



 夜、美南が習い事から帰ってきて風呂に入ってるとき、風呂場から断末魔のような悲鳴が響いてきた。

 くそっ、どうしたんだいったい!?


 強盗対策で念の為に5キロのダンベルを持ち、脱衣所に突入!



「裕二君! 裕二くぅん!」

「美南! 美南無事か!? 入るぞ!」



 ガチャッ!

 入ると、美南が湯船の横で自分の体を抱き締めてカタカタと震えていた。



「美南、どうした? 大丈夫か?」

「ゆ、ゆうじくん……ゆうじくぅん……!」



 水に濡れた美南が全裸で抱き着いてくる。

 正直ドキリとしたが、今はそれどころじゃない。


 髪は……濡れてはいるが、誤って水を被ったわけじゃなさそうだ。



「大丈夫、大丈夫だ。俺はここにいるぞ。何があったんだ?」

「う、うぅ……た、高瀬君が……」



 ……冬吾? なんであいつの名前が?

 ……ん? あれは……スマホ? 防水だから、風呂場に持ち込んでたのか。



「落ち着け美南。冬吾がどうしたんだ?」

「た、た、高瀬君が──私にエロ画像を送り付けてきたんです……!!」



 ──なん……だと……!?


 冬吾、が……? いったい、どういうことだ……!?



「お、お風呂に入ってたら、急にスマホが震えて……確認したら、半裸の画像が……!」



 怯えてる……あの野郎っ、俺の美南にいったい何を送り付けたんだ!

 決めた、明日会ったらぶん殴る! あのセクハラ野郎が!


 ……因みに、興味本位だがどんな画像を送ったのかは気になるところ。



「美南、一応どんなものか、確認してもいいか?」

「は、はい……どうぞ」



 美南に手渡されたスマホ。

 そこに映し出されていたのは……!






 教室で、俺が着替えてる写真だった。






 …………………………………………ん?



「美南、エロ画像はどこだ?」

「え……? ……う、映ってるじゃないですか! これですっ、これがエロ画像です!」



 …………………………あー……うん……うん?

 ごめん、理解できないのは俺だけかな?



「こっ、こんないやらしいエロ画像を送ってくるなんて……! 高瀬君を見損ないましたっ! えちちです! 玲緒奈ちゃんに言いつけてやります!」

「……ソーダネ」



 冬吾……まさかとは思うが、考えってこのことか? お前、そこまでアホだったか?


 俺の腕の中で何故か怯えている美南。


 とりあえず……そろそろ俺の息子が暴発しそうだから離してください。

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