結婚──③
◆
そのまま放課後まで、何事もなく1日を過ごせた。
多分、美南の牽制が効いたんだろうな。
チラチラと俺を睨みつけてくる奴はいたけど、何も起きずに済んだ。
そして、帰りのホームルームも終了。
ここからが、今日のメインイベントだ。
「裕二君、行きましょう!」
「ああ、わかってる。わかってるから落ち着け。俺も帰りの支度がまだだから、もうちょい待ってて」
「待てませぬ!」
「ぬ」
るんるんという効果音が見えるくらい、ずっとにっこにっこにーって感じだ。
そうか……美南からしたら、10年間ずっと待ち望んでいた日だ。そりゃあ顔もニヤけるか。
そんな美南のためだ。俺も急いで準備を──。
「包囲ィ!」
えっ? うお!?
きゅ、急に囲まれた!? 何これデジャブ!?
数十人に及ぶ男子生徒が、鬼気迫る顔で俺と美南を囲む。
これ、まさかとは思うが……俺と美南を結婚させないため、か……!?
馬鹿かこいつら! こんなことのためにガチになりすぎだろ!
「裕二君……」
「安心しろ、美南。絶対守ってやるから」
俺の手を握り、不安げな顔で後ろに隠れる美南。
震えてる……そりゃそうか。
如何に美南と言えど、この量の野郎共に囲まれたらそりゃ怖いに決まってる。
油断せず集団を睨み付けていると、その中から1人の男が出てきた。
……見たことない奴だな。誰だ……?
「よう。久々だな、丹波裕二」
…………?
「裕二君、お知り合いですか?」
「いやぁ……わからん」
「なっ! 忘れたとは言わせねーぞゴルァ!」
……あっ、このヤンキー声!
「あの時のヤンキー後輩!」
「倉持健也だコラ!」
そうそう、そんな名前だった。
あれは確か始業式の日。集団で俺を囲い、俺に美南と別れるよう脅しをかけてきた奴だ。
「……お前、そんな頭だっけ?」
「うっ……ううううっせぇわい!」
丸坊主だ。しかもタダの丸坊主じゃない。
つるっっっっっつるのてっっっっっかてか。球児なんか目じゃない。まさにカミソリで剃られたかのようにツルツルである。
「……冬吾にやられたのか? さすがに叱っておいてやろうか?」
ちょっとこれは可哀想な気も……。
「じゃかあしぃ! 今日はそんな話をしに来たんじゃねぇ!」
ヤンキー後輩は更に1歩前に出る。
その気迫に思わず下がりそうになるが……ここで下がる訳にはいかない。
美南は、俺が守るんだ。
「丹波裕二ェ……!」
く、来るか……!
ヤンキー後輩は腕まくりをし、腕を高々と振り上げ──。
「あん時はすんませんでしたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「「「「「すんませんでしたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」
──周りの奴らも合わせて土下座した。
……………………………………え?
「おっ、俺……いや、俺達は女神のファンクラブの会員で、今までずっと結婚断固反対だったんです……!」
「でもっ、ここずっと女神が幸せそうで……可愛くて可愛くて……!」
「女神がこんなに幸せそうな顔ができるのも、丹波さんのお陰だって気付いたんです!」
「今までずっと恨んでてすんませんでしたぁ!」
……え、ええっと……?
「お前ら、俺と美南の結婚を引き止めにきたんじゃ?」
「まさかっ!」
「俺らの幸せは女神の幸せ!」
「女神の幸せは丹波さんと結婚すること!」
「俺らは止めに来たんじゃない! 祝福に来たんだ!」
…………。
紛らわしすぎんだろおおおおお!?!?
ヤンキー後輩は立ち上がると、嬉々とした顔で1枚のカードを掲げた。
そこには、『女神・柳谷美南ファンクラブ』と刻まれている。
「今ここに、『女神・柳谷美南ファンクラブ』を、会長権限で解散し!」
「お前が会長なんかい」
ヤンキー後輩はカードを来るっと裏返し。
「『丹波夫妻を見守る会』の設立を宣言する!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
「「…………」」
美南を見る。
美南も俺を見る。
…………。
「「解散で」」
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