結婚──①

 翌日。教室で授業の準備をしていると、登校してきた冬吾が俺の机の上に紙袋を置いた。



「おはよ、ユウ」

「おはよう。……これは?」

「誕プレ」



 あぁ、そういや毎年持って来てくれたな。

 毎年ちょっといいチョコレートとかマカロンとかのお菓子だったけど……今年のはやけにデカイな。

 普通に机からはみ出るくらいのデカさだ。



「開けてみてもいいか?」

「うん。喜ぶと思うよ」



 まあ、冬吾がくれたものなら何でも嬉しいんだけどさ。

 はてさて、どんなものが出てくるのやら。


 カッターでテープを切って、中の品を取り出す。と。



「……なにこれ?」

「赤ちゃん用の転倒防止リュック。頭にクッションも着いてるから安全だよ」



 …………。



「他は?」

「これはロンパース。これはパジャマ。これはベビー食器。これはぬいぐるみ。これはよだれかけ。これはソックスセット。これは積み木。これは──」

「気が早いッ!」



 余りにも気が早すぎて思わずツッコんでしまった。

 でもわかるだろう、俺の気持ち。



「おのれは子供の誕生を楽しみにしてる親戚か」

「だって結婚する2人なら、いつ間違いがあってもおかしくないだろ?」

「間違いなんておこさんわ」

「あの美南嬢と毎日一緒にいて、そう言いきれる?」

「…………………………言いきれ、ぬ」

「素直じゃないなぁ」



 ほっとけ。

 だってあの学園の女神である美南と四六時中一緒なんだぞ。

 そりゃあ、今までそういう思いがなかったと言えば嘘になる。

 というか思春期男子の性欲を考えてみろ。むしろ、今まで手を出さずにずっと我慢してきた俺の精神力と理性を褒め称えていただきたい。



「まあ、いつかは使うことになるか……ありがとう、ありがたくいただく」

「うん。……因みに名前とかってもう考えて──」

「気が早いっつってんだろ」



 俺の秘密のノートに、子供の名前を書いたことがあるのは秘密だ。

 ……秘密ったら秘密だ。



「男の子だったら裕真ゆうま。女の子だったら美琴みことですよね、裕二君」

「そうそう……ってうお!?」



 み、美南! いつからそこに!?



「なんだ、決めてるじゃないか」

「決めてない。決めてないぞ」

「裕二君のノートに書いてありました。他にも沢山候補がありましたよ」

「プライバシーッ!」



 久々にストーカーの片鱗を味わった!

 馬鹿な! あのノートは間違いなく破いて捨てたはずなのに!



「ああ、破いたノートの切れ端を全て回収し、繋ぎ合わせて今は実家の金庫に厳重に保管されていますよ。柳谷家の力を使えば余裕です」

「柳谷家って何屋だっけ?」

「家具屋ですが」

「嘘だッッッ!」

「本当ですよ!?」



 家具屋全力出しすぎ問題。

 これ裏ではスパイとか国の中枢を握ってるとか言われても信じられるレベル。



「あ、美南嬢。これ俺達からのプレゼント」

「わぁっ! ありがとうございます♪ 来年から使わせてもらいますね」



 そうそう、来年……来年?



「今晩からいっぱい……ね♡」

「美南、この間の話聞いてた?」

「聞いてましたよ。子供はサッカーができるくらい欲しいって話ですよね」

「ちげーよ。大学卒業するまで子供はなしって話だ。それと11人とか頑張りすぎだろ。死ぬぞ」

「何言ってるんです? 試合が出来るくらいですよ。ベンチも含めて」

「……冬吾、何人だ」

「高校サッカーではベンチ合わせて20人。敵味方合わせると40人だね」



 はは、ワロス。

 と、丁度俺のスマホが鳴動した。



 玲緒奈:誕生日おめ

 裕二:サンキュー

 玲緒奈:紙袋の底に、ミナミ用のプレゼントもある

 裕二:底に?

 玲緒奈:裕二は見ちゃダメ



 ふむ……?



「美南。紙袋の底に美南用のプレゼントがあるらしいぞ。伊原からだ」

「私用のですか? 何でしょう……」



 がさごそ。出てきたのは、薄い紙袋に入った何か。その紙袋にもロゴが入っていて、どっかのブランドの何からしい。

 美南がテープを開けて中を見る。と。



「ぶぼっ!?」

「美南嬢!?」

「ちょ、ヒロインが出しちゃいけない音出てんぞ……!」

「あ、あはは〜……ちょっとぉ……失礼しますっ」



 美南が紙袋を手に伊原の元に駆け寄る。



「レオ……んっ、これ……すか……!?」

「私の……スメのブラン……。こ……夜のセッ……いちころ」

「ききききわど……せんか……!?」

「とー……もこれで……メロ」

「ひゃあぁ……!?」



 ……何話してんのかはわからんけど、背筋がゾクゾクするのは気のせいだろうか。



「何の話しだろうな」

「さあ? 俺もたまに、あの子がわからない」

「ただでさえわかりづらい奴なのに、冬吾でもわからないのか」

「そんなところも可愛いんだけど」



 いきなりノロケんな。俺もノロケるぞ。


 ありがたくいただいた紙袋を机の横に置くと、丁度間宮先生が教室に入ってきた。



「はーい皆さ〜ん。席に座ってくださいね〜」



 相変わらずのゆったりした声でみんなの注目を集める間宮先生。

 日直が号令を掛けると、先生は今日の1日のスケジュールを伝え、簡単に朝のホームルームを終わらせる。


 と、俺と美南を呼んで廊下に出た。



「お2人共。いよいよ今日ですねぇ〜。おめでとうございま〜す」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとうございます。間宮先生」



 まさか、それを言うためにわざわざ呼んだのか? 律儀というか……。

 だけど違ったらしく、間宮先生は普段見せない鋭い目で周りを見ると。



「お2人共、注意してください。今はなんともありませんが、恐らく2人の結婚をよく思ってない人が生徒の中にも一定数います。何もないように私達も動きますが、気を抜かないでください」



 うっ……やっぱりそういう奴もいる……よなぁ……。



「わかりました、ありがとうございます」

「注意します」

「ふふふ〜。私はお2人の味方ですからねぇ〜」



 と言うと、間宮先生は鼻歌を歌いながら去っていった。

 はてさて、どうなることやら。

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