ばか×2
というわけで、無事美南の矯正プログラムも終わり火曜日の昼休み。
珍しく俺は美南とではなく、冬吾と飯を食っていた。
中庭で美南と伊原が他の女子と楽しそうに食べているのを眺めながら、俺も卵焼きを食べる。
美南も好きなあまーい卵焼き。絶妙な甘さだ。
「へぇ……美南嬢とユウって昔出会ってたんだ」
当時のことを冬吾に話すと、驚いたように目を見開いた。
「ああ。父さんに確認してみたが、『バレたか! がはははは!』とか言ってた」
「オヤジさんらしいね」
殴りたい、あの笑顔。
まあ10年前に起こったことだ。父さん達は覚えてて当たり前か。
冬吾は味噌汁を飲みながら、ニヤニヤと俺の顔を見る。
「いいね。運命だ」
「いや、これは断じて運命じゃない」
「かたくなだな」
「お前は10年以上ストーカーしてきた相手が目の前に現れたら、それを運命だと思うか?」
「こわ」
「だろ?」
ヤナギヤ家具の力を使って、10年間ガチでストーカーして来たような子だぞ。
俺と美南がくっつく未来をがっつりとスリーパーホールドしてんじゃん。
ま、そんな所も愛おしく感じるレベルで俺も美南にゾッコンなんだけど……本当、人生何があるかわかったもんじゃない。
「そんな裏話があったんだねぇ。俺のユウが、知らないところで女の子とよろしくしてたなんて……ちょっと悲しいな」
「誰がお前のだ」
「俺に報告してくれてもよかったのに」
「いちいちお前に報告する必要ないだろ……」
「あるよ。俺はユウの保護者なんたから」
「誰が保護者だ」
俺の心のヤバいやつ。じゃなく、俺の周りのヤバいやつ。
あの時俺が声をかけたから、今こうして美南と一緒になれる訳だが……。
「そういうお前の方はどうなんだよ」
「んー……実は結婚を考えてる」
「へぇー、結婚……」
…………。
「ファッ!?」
「うっそぴょーん」
「しばいたろか」
くすくすとしてやったり顔で笑う冬吾。お前が言うとマジで冗談に聞こえんのじゃ。
だけど冬吾は、そっと伊原の方を見てから俺に顔を寄せてきた。
「でも、そう思ってるのは本当だよ」
「顔が近い」
「俺も2人に感化されてね。そう思うようになった」
「顔が近い」
「2人のように幸せな毎日を送りたいと──」
「顔が近いっつってんだろ話聞け」
グイッと顔を押しのける。そのやれやれ、みたいな顔やめろ。
「でもよ、普通に考えたら俺みたいに逆玉ならいいけど(?)、普通は親が許さないんじゃないか?」
「ああ、当然今すぐじゃないさ。そうだな……上手く行けば来年か、再来年だね」
「……まさかとは思うが……プロ内定か?」
「監督から、今年の活躍によっては東京エオスから話が来てるって言われてね」
東京エオス──!
サッカーに興味がない俺でも知ってる。ニュースで聞く名前だ……確か、J1で戦ってるプロチームだったはず。
「マジか……!」
「うん。そこで活躍したら、プロポーズするつもりだ」
「すげぇな……」
あまりに突拍子もない話で実感が湧かない。
「そっか……てことは、俺はプロの幼なじみか」
「あはは。まだ決まったわけじゃないけどね」
「いや、お前なら大丈夫だろ」
「その心は?」
知れたことを。
「俺がお前のことを1番よく見てきたから」
こいつが小さい頃から、どれだけサッカーに向き合ってきたのか知っている。
サッカーが好きで好きで、勉強も俺が付きっきりで見てやんないとやらないほどのサッカー馬鹿。
冬吾なら大丈夫。俺がよく知ってる。
「……ユウって……」
「なんだ?」
「俺のこと好きすぎじゃない?」
「それ、そっくりそのまま返していいか?」
…………。
「「……ぷっ……ははっ、あはははは!」」
どちらともなく笑い出す俺達。
別に俺は冬吾のことを好きでもない。
冬吾も、俺のことは好きじゃないだろう。
こう言った軽口を言い合えるのが、俺達のいい距離感なんだ。
「ま、人生長いんだ。気楽にいこうぜ」
「そうだね」
冬吾と拳を突き合わせる。
その直後。俺と冬吾のスマホが同時に鳴動した。
美南:同性との浮気もダメです!
美南:プンヾ(`・3・´)ノプン
玲緒奈:とー君。浮気ダメ、絶対
玲緒奈:(<●>ω<●>)ジー
2人をチラ見。
どっちも、さり気なく俺達の方を見てむすーっとした顔になっていた。
「はぁ……美南かわい」
「彼女は俺をキュン死にさせるつもりか……」
「いや美南の方が」
「いや彼女の方が」
「「…………」」
…………。
「「やんのかテメェこの野郎!」」
◆
「何やってるんでしょう、あの人達」
「……ばか」
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