お花見──⑤
◆
時刻は13時。話しながらゆっくり食べたとは言え、そろそろ腹いっぱいで食えなくなってきたな。
だけど予定通り、彩香と伊原の作った弁当はあらかた食べられた。彩香はもちろん、伊原の弁当も美味かったなぁ。
「ぐぅっ……! お、お腹いっぱいで、これ以上食べられません……!」
「ごめんユウ……残しちゃった……」
「兄さん、私ももう……」
「あ、安心して裕二。友人のお弁当も、すごく美味しかった……!」
え? ……あぁ、残したことに罪悪感を感じてるのか。
「大丈夫大丈夫。ウチここだし、冷蔵庫に入れて明日にでも食うよ。丁度柳谷も習い事とかだから、明日の昼飯作らなくて済むし」
なーんて言うと、4人は更に落ち込んでしまった。
別に気にしなくてもいいんだけど……みんな真面目でいい子だから、思うところがあるらしい。
「こ、こうなったら、吐いてでも食べきりますっ」
「流石に吐かれると困るから、無理しないでいいよ」
「あぅ……」
落ち込む柳谷の頭を撫でる。
そう思ってくれるだけで、俺は幸せ者だ。
「それにまだ時間もあるんだし、ゆっくり話しながらつまんで──」
「み、な、みーーーん!」
「ほげっ!」
……え?
突如飛来した何か。
それによって吹っ飛んだ柳谷。
……え、何が起こった?
「や、柳谷! ヒロインが口から出しちゃいけない声が出たぞ!?」
「いやユウ、ヒロイン云々より婚約者が吹っ飛んだことを心配しなよ!?」
あっ、確かに!
「あいたたた……あ、瑠々華ちゃん」
「みなみんっ、みなみんっ! 会いたかったよマイエンジェル!」
……る、るるか……LUCA!?
えっ、LUCAが柳谷に抱き着いてる!?
仕事が終わったのか、さっきとは違う服装にサングラスを掛けたLUCA。頭には帽子で、長い白銀の髪をその中に閉まっている。
パッと見じゃ、LUCAってわからないな。
「ど、どうどう瑠々華ちゃん。皆さん驚いていますから」
「あっ、そうね。めんごめんご☆」
イラッ☆
おっと、ついイラッとしちまった。
LUCAは柳谷と俺の間に無理に座ると、僅かにサングラスを下げた。
「どもどもー、初めまして! マイエンジェルみなみんの唯一無二の親友、瑠々華ちゃんです♪ あっ、LUCAの方がわかりやすいかな? よろしく☆」
おぉ……圧がすごい。
アイドルだからか、人見知りしないんだろうな。相手のパーソナルエリアにぐいぐい行くタイプみたいだ。
その点は素の柳谷に似てるところがあるかも。
そんなLUCAに、最初に話しかけたのは冬吾だった。
「初めましてLUCAさん。美南嬢の友達の高瀬冬吾です」
「……あっ! もしかして、Jリーグ注目のスーパー高校生、トーゴくん!? すごーい! はじめまして!」
「俺を知ってくれてるなんて、光栄です」
LUCAから差し出された手を取らず、隣にいる伊原の手を握った冬吾。
「それと、彼女の伊原玲緒奈です」
「はじめましてー。……とー君、この人有名人?」
「うん」
「へー」
流石伊原。全く興味なさげ。
LUCAも所在のなくなった手を困惑気味にウロウロさせ、更に超絶美少女の現役JKに知られていないというダブルパンチを食らって唖然としている。
「そ、そうなんだー。お、覚えていってね☆」
「気が向いたらねー」
あ、こいつ覚える気ないな。
だがそこはトップアイドルのLUCA。気を持ち直したのか今度は彩香に手を差し出した。
「はじめまして、LUCAです☆」
「はじめまして、丹波彩香です。……申し訳ありません、私も芸能の世界には疎くて……でもこんなに可愛いお嬢さんがいるのですね。驚きました」
「────ッ」
彩香も自分のことを知らないというショック。だが彩香のイケメンフェイスと、素で褒められたことに恥ずかしいくなったのか一瞬でメスの顔になった。
チョロすぎませんかねこの子。
と、最後に俺。
「はじめまして、LUCAで……あー! もしかしてマイエンジェルみなみんの旦那さん!?」
「あ、はい。はじめまして、丹波裕二です」
「はじめましてはじめまして! いやー、1度お話したかったんですよー! 何年も、みなみんがあなたのことを話してたので!」
年単位で俺のことをずっと話してた柳谷こわ……久々にストーカーの片鱗を味わった。
「それにしても、ここって美男美女の集まりですね! やっぱりエンジェルの元にはエンジェルが集まるんですねー! あ、私を含めて☆」
ウザい。
が、口にはしない。柳谷の親友らしいから、俺がここで目くじら立てて2人の仲を悪くしたくないからな。
「ほらユウ。ユウってLUCAさんのファンだったでしょ? サイン貰わなくていいの?」
「そうなんですかっ!? 書きます書きます! じゃんじゃん書いちゃいます!」
いや、別にこの人のファンってわけじゃないんだが……。
チラッと柳谷を見る。
柳谷はLUCAの死角で両手を合わせてウィンクをしていた。おのれお前の仕業か。
はぁ……仕方ないな。
「はい、実はそうなんです。LUCAさんの歌ってるCDは全部買ってます」
「おほーっ! ガチファンじゃないですか! みなみんの旦那さん、めっちゃいい人ですね!」
どこからか取り出した自前の色紙とペンで、サラサラーっとサインを書いていくLUCA。
止まることなく崩したサインに、最後はチュッとキスマークを付けて。
「はいっ、世界でたった1つ! LUCAちゃんキスマーク入りサインだよ☆」
「マジすか!」
これは素直に嬉しい。世界でたった1つって特別感があっていい。
LUCAからサインを受け取ろうと手を出すと──手を掴まれてグイッと引っ張られた。
えっ、いやっ、近っ……!
突然ドアップになった美少女の顔。
鼻息すら肌で感じられるほど近く、キラキラと輝く瞳が眩しく思える。
そんなLUCAは俺の耳に口元を寄せ。
「みなみんを泣かしたら、私が泣かせて……あ、げ、る♡」
甘くとろけるアニメ声。
そんな声を耳元で囁かれると──。
「ふふっ。じゃ、仕事戻るねっ。ばいばーい♪」
…………。
……………………。
………………………………。
…………「ていっ!」「ひでぶっ!」
はっ!? あ、あれ、俺は何を……?
「むぅ! 丹波君! 瑠々華ちゃんが可愛いのはわかりますが、デレデレしすぎです! 私オコです! ぷんぷんがおーです!」
頭の両側に人差し指を立て、頬を膨らませる柳谷。
全く怖くない。可愛い。
「わ、悪い悪い……」
でも……あれは確かに、ゾクッと来るものがあった。悪い意味ではなく、いい意味で。
ありゃあ、確かに人気が出るのも頷ける……。
「全くもう、全くもうっ」
「いや、マジでごめん」
「……次別の女の子に目移りしたら──」
グイッ。今度は柳谷の手が俺の頬を左右から包み込み、ムッとした顔で見下ろすと──。
「丹波君が誰のものか、わからせちゃいますよ?」
わからされちゃいました。
可愛いだけじゃない柳谷さん、素敵。
◆
「俺ら何を見せられてるんだろうね」
「この2人のノロケには誰も勝てない」
(何この2人尊い……推せる。兄さんも姉さんも可愛い)
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