お花見──④
コップの中のジュースを飲み干し、各々の作って来た弁当を広げた。
俺は宣言した通り唐揚げ、アスパラの肉巻き、ポテトサラダ、ミニトマト、ゆで卵、いなり寿司。
彩香はシンプルにサンドイッチ。
ハムレタス、卵、ツナ、カツとオーソドックスなものだ。
なんでも、俺がおかずを作ってくると踏んだらしい。よくわかってらっしゃる。
最後に伊原は、またもや意外。お重に詰めた中華料理だった。
エビチリ、チンジャオロース、ローストビーフ、シューマイ。
……シューマイ?
「このシューマイは出来合いのものか?」
「んー、作った」
作った……作った!?
えっ、このシューマイ手作りなの!? 柳谷から料理はできると聞かされてたけど、まさかの変化球すぎる……!
「玲緒奈の料理は絶品だよ。特に中華料理が」
「……気のせいだったらすまん。伊原の親って、父親がアメリカ人で母親が日本人じゃなかったか?」
「あってる。でも好きな料理は中華」
まさかの和洋中そろい踏み美少女だった。なんだそれ。
「ま、まあいいか……じゃあ、いただきます」
「「「「いただきます」」」」
手を合わせ、まずは彩香のカツサンドから。
「あむっ。んーっ! うまぁ……!」
「ふふ。兄さん、昔から私のカツ好きだったよね」
「ああ! わかんないけど、彩香のカツは真似できないくらいうまいんだよな」
柔らかさ。肉の旨み。程よく揚がったコロモに彩香の作った自家製ソース。
そのソースがサンドイッチに染み、とろける美味さになって……はぁ、さいこぉだぁ……。
「……ゎぃぃ……」
「ん? 彩香、何か言ったか?」
「なにも?」
そっか? ま、気のせいか。
柳谷は伊原の作ったシューマイを。伊原は俺の唐揚げを。冬吾は皿に何でもかんでも乗っけてめちゃめちゃ食っている。
「んっ! このシューマイおいしすぎます……!」
「ありがと。この唐揚げも最高」
「ふふふ。私もモミモミしたんですよ。唐揚げ美味しく作るならモミモミです♪」
随分と古いネタを。
しかしこう見ると、みんな結構な量を作って来たな。最悪俺のは残ってもいいし、彩香と伊原の作った方から食べていくか。
「んーっ。やっぱり兄さんの作るいなり寿司は美味しいね」
「おー。裕二、やるね」
「ああ。中は酢飯じゃなくて、五目ごはんを詰めるんだ。大葉と梅の混ぜご飯を混ぜてもいいしな」
意外と変化球でもうまいいなり寿司。俺の好物の1つである。
「いやもう全部美味しいねぇ。俺も何か作ってくればよかったかな」
「やめろ冬吾。お前が料理をすると死人が出る」
「「死人!?」」
柳谷と伊原が驚愕の声をあげた。
なんだ、知らんのか。
「冬吾が包丁を持つと訳わからん方向に飛び、火を使おうとするとコンロが燃えるレベルだ」
「冬吾君のあれを思い出しただけで……ガタガタガタ……」
わかる、わかるぞ彩香。あれは恐怖を超えてトラウマレベルの光景だ。
こいつはキッチンに立たせちゃダメ、絶対。
「ははは、大袈裟だよ。それ小学生の頃だよ?」
「袋ラーメンを作ろうとして炭を作ったの、去年だぞ」
「あれ?」
このサッカーバカめ。
「とー君。これからも絶対キッチンには立たないで。私がやるから」
「……プロポーズ?」
「ばっ!? ……ばか……」
お前らもう結婚しちゃえば?
和やかに進む花見。
周囲からの視線も気にならない。意外とみんな、ちゃんと花見をしてるみたいだ。
ある程度腹が
程よい風で揺らめく桜が花びらを散らし、綺麗な桜吹雪を作った。
……ん? あ、時東さんだ。
少し離れた位置で、時東さんが私服姿で立っていた。
鋭い目で周囲を見渡し、インカムで誰かと話している。何してんのあの人?
と、そこに近付いた女性が1人。
……間宮先生? なんでここに……?
……もしかしたら、時東さんと友達で招待されたのかもな……でも、間宮先生もインカムを付けてる……?
「丹波君、どうしました?」
「あ、ああ。あそこ……あれ?」
……消えた……?
「? 誰かお知り合いでも?」
「……いや、なんでもない」
ま、2人が何をしてても俺達には関係ないか。もしかしたら、大人達の何かがあるのかもしれないし。
気にせず伊原の作ったチンジャオロースを皿に乗せて食べる。
美味い。得意と言ってるだけあって、流石の美味さだ。
みんなが楽しく話したり飯を食ってるのを見ていると──正門の方が、急に騒がしくなった。
「誰か来たんでしょうか?」
「さあ……?」
見た感じ、でっかいカメラとかあるな。撮影か何からしいけど……。
「あれ? ユウ、あれってLUCAじゃない?」
「え?」
るか……LUCA?
立ち上がって確認すると……おおっ、確かにLUCAだ。
春っぽいコーデのLUCAが、カメラの前で笑顔を振りまいていた。
そういや昨日のテレビで、どこかの花見スポットに行くって言ってたな。それがここだったのか。
「おおっ、確かに
「姉さん、知り合いなの?」
「はい。私と同じ雑誌に出てる子ですよ」
「へぇ。私、芸能人には疎いからな……見たことも聞いたこともない」
それは余りに俗世に疎すぎないかね彩香さんや?
LUCAが桜の紹介をしたり、近くにいる人にインタビューしたりしている。
彼女の笑顔の前に、おっさん達はたじたじだ。
「はいっ、ありがとうございました! では次の方……ぁ……?」
LUCAがこっちを見て硬直。
柳谷も彼女に向かい、笑顔で何かジェスチャーをした。
それを見たLUCA。察知したようにカメラの向きをさりげなく誘導。
多分だが、カメラに俺達が映らないようにしてくれたみたいだ。確かに俺達がここにいるのが放送されたら、変な輩が凸してくるかもしれないし。
今の一瞬のやり取りで察してくれるなんて、流石トップアイドル。
「まさか、花見に来たらトップアイドルを見れるなんてね。得した気分だ」
「ああ。しかも今話題のLUCAだもんな」
歳も、確か今年で19歳だったか。同年代でとんでもない子がいるんだなぁ。
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