お花見──②

 翌朝。外を見ると超快晴。

 日差しも暖かく、ニュースを見る限り風もほとんど吹かないみたいだ。


 まさに花見日和。

 清々しい朝だ。


 リビングのカーテンを開け、バルコニーに出た。

 1日の始まりは朝の体操にあり。寝起きのストレッチは、筋トレを始めてからの日課にしている。


 バルコニーでストレッチをしながら、眼下に広がる住宅街や海を見渡した。



「あぁ……陽光が気持ちいいなぁ……」



 俺は花粉症ではないから、春が1番好きな季節だ。

 俺が春生まれってのもあるかもしれないけど、春特有の暖かい気温と、何かの『始まり』の空気で心が踊る。


 んーーーー……! っし、目も冷めたし、弁当の準備をしなきゃなっ。


 弁当は俺、彩香、伊原が作ることになってる。3人も作るから量が量だ。正直朝飯は抜いてもいいが……全く食べないってのは胃に良くない。


 特に柳谷。あの子は日本で1番可愛いと言われている女子高生読モだ。1週間一緒に生活してきてわかったが、柳谷の美容への意識はかなり高い。


 その柳谷の体を、俺が作った飯で作る……一気に責任重大になってきた……。


 そうだな……スムージーくらい作ってやるか。

 スムージーは健康や美容にいいって聞くし、芸能人も飲んでるって聞いたことがある。


 野菜室から取り出した小松菜とリンゴを刻み。

 切った食材と水、レモン汁を一緒にミキサーに入れ、スイッチオン。

 モーター音と共に中の食材が砕かれ、色鮮やかな液体に変わっていった。


 それを2つのグラスに分け、完成。


 と、丁度リビングが開いて寝ぼけ眼の柳谷が起きてきた。



「ふあぁ〜……おふぁよーごじゃいましゅ……」

「おはよう。もう9時だぞ。顔洗って来なさい」

「あぁーぃ……」



 そういや昨日、今日が楽しみすぎて中々寝付けずにいたな。遠足前の子供か。


 弁当の支度をしながらしばらく待つと、未だに目が開き切ってない柳谷が戻ってきた。



「はい、スムージー」

「んー……」

「ほらもう、髪の毛跳ねてるぞ」

「とかしてぇ……」

「自分でやりなさい。全くもう……ブラシは洗面所?」

「むにゅ」

「……持ってきた。ほら、梳かしといてあげるから、スムージー飲んじゃいなさい」

「ありがとママ」

「誰がママだ」



 寝癖直しウォーターを振りかけ、ブラシで梳かす。

 最後にコードレスドライヤーで綺麗に乾かすと、艶が出て真っ直ぐになった。

 試しに手ぐしを通してみる。


 ……おぉ……なんか、気持ちいい……。

 改めて見ると、本当めちゃめちゃ綺麗な髪だな……。

 枝毛1本。傷み1つない。

 これが、今日本で1番可愛い女子高生読モの髪……。


 ……ごくり。


 ……予め言っておくが、俺は別に髪フェチではない。

 髪で首を絞められて興奮したり、髪ビンタされて喜んだり、フェチで始まるカップル的要素は皆無に等しい。


 だけど、この髪質は……そそられる。


 そう。言うなれば髪フェチではなく、美南フェチ。柳谷美南という存在全てが愛おしく、全てが可愛く、全てが好き。


 だから……これは不可抗力なわけで、決して意図的というか欲求に抗えないとかそういう訳ではない。


 …………。


 なで。



「んっ……?」



 なで……なでなで……なでなでなでなで。



「ぁぅ……」



 わしゃ、わしゃ、わしゃわしゃ。



「へぅっ……!」



 もふもふ、もふもふ。



「んんっ……!」



 くん……くんかくんか。



「ひゃあぁ〜……!?」



 くんかくんかくんかくんかくん──。



「ああああああのあのあのあのっ! た、丹波、君……!?」

「……はっ! ご、ごめんっ、つい!」



 今俺、めっちゃトリップしてた……!



「い、いえ、大丈夫です……で、でも、いきなりは恥ずかしいですよ……」



 どうやら、さっきので目が覚めたらしい。

 頬どころか耳や首、鎖骨あたりまで真っ赤になり、とろ目で恥ずかしがっている……!



「私、自分自身を丹波君限定の変態だと思ってましたが」

「気付いてたなら改めてくれ」

「丹波君も人のこと言えませんね」

「うぐっ」



 は、反論できねぇ。

 確かに俺、思ってた以上に柳谷のことが好きすぎるみたいだ。



「丹波君フェチの私と、柳谷フェチの丹波君……これはもうフェチップ──」

「おいコラやめろ」



 俺がついさっきギリギリを攻めたんだから、わざわざ言い直すな。


 柳谷は立ち上がると、真正面から抱きついてきた。



「えへへ」

「な、なんだ?」

「幸せを感じています」

「……俺も」



 俺も柳谷の背中に手を回し、更に体を密着させた。

 一瞬体を硬直させた。けど、直ぐに体の力が抜けて俺に体を預けてくる。



「……ふひ」

「ん?」

「ふひ……ふひひ……丹波君の雄っぱい……ふひ」



 はっ倒すぞ。

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