お花見──①

「ついに明日ですね、お花見!」



 金曜日の夕方。

 夕飯を食べ終え、食器を洗っている俺の横。

 さっきからニコニコしている柳谷が、高めのテンションでずっと同じことを言っていた。



「今年は例年にないほど桜が残ってるらしいからな。まだ満開だなんて驚きだ」

「ふふっ。まるで私達の結婚をお祝いしているみたいですね!」



 俺が洗った食器を拭いている柳谷が、幸せそうな顔で俺の肩に頭を乗せた。


 長い髪をお団子にして、水色のエプロンを付けている柳谷。

 流石に裸エプロンという古き良き伝統衣装ではなく、厚手のもこもこ生地の寝間着の上に着ているが。それでも、柳谷のたわわは『我ここにあり』と主張している。


 最近俺がキッチンに立つとき、柳谷は基本こんな格好で隣にいた。


 柳谷曰く。



『女の子がもこもこしてる服着てるの、性癖ですよね?』



 とのこと。深くツッコミはしなかったが、ちきしょう。よくわかってらっしゃる。


 横目でチラ見。



「〜〜〜〜♪ 〜〜♪ 〜〜〜♪」



 ……可愛い。

 普段見ないお団子ヘアーも、もこもこの服も、水色エプロンも超似合ってる。

 それにご機嫌な鼻歌。

 いつもはクールでお淑やかなのに、着ている寝間着の子供っぽさと相まってグッとくる。


 このまま意識し続けるとまずい。色々とまずい。


 俺は皿洗いに集中し、明日の花見について口を開いた。



「た、確か11時にマンション前に集合だったよな。今から弁当の準備もしないと」

「彩ちゃんとレオナちゃんも作ってくるんですよね。楽しみです〜」

「彩香はともかく、伊原って料理できるのか?」



 冬吾からもその手の話は聞いたことがないし、あの伊原がキッチンに立つ姿も想像できない。

 エプロン姿で、やる気皆無の空気感で包丁を持つ伊原か……。

 ……そこはかとないヤンデレ臭がする。



「レオナちゃん、すごく料理上手なんですよ。家庭科の料理実習で一緒になりましたけど、あっという間にぱぱぱーって!」

「そ、そうなのか?」



 それこそイメージできないけど……まあ、柳谷が言うなら本当なんだろうな。

 これは、俺もうかうかしてられん。


 まあ会場はマンションの目の前だから、出来たてを食べられるようにある程度の下ごしらえをすればいいか。



「っと、そう言えば明日の天気、確認してないな。柳谷、テレビ付けてくれないか?」

「了解ですっ」



 テレビが付くと、ちょうど天気予報がやっていた。

 最近話題のアイドル天気予報士が、明日の天気を予報している。

 文字通り、アイドルが天気予報士の試験に合格したらしく、最近売り出し中のアイドルだ。


 しかも俺の好きなアイドル。名前は──。



「あ、瑠々華るるかちゃん」

「そうそう、LUCA……え? るるか?」

「はい。よく一緒に仕事する子です。可愛いですよねぇ」



 そう言えば、柳谷の載ってる雑誌に一緒に映ってたっけ。

 そうか、本名は瑠々華って言うのか。


 LUCAは、アイドルに歌手に天気予報士に読モの仕事……同年代とは思えないほど売れっ子だ。


 そんなLUCA曰く、明日は県内全域どこも快晴。絶好のお花見日和らしい。



『明日は、私もどこかのスポットでお花見をしようかと思いまーす。ファンのみんな、そこで会ったらよろしくねっ、おっ楽しみにー☆』

「相変わらずアホっぽい喋り方だな」

「ファンとは思えない辛辣っぷり!?」



 いやまあ、歌は好きだしよく聞いてるけど、この子自体が好きってわけでもないからなぁ。



「俺が好きな芸能人って、柳谷美南っていう絶世の美女だし」

「ぁぅっ……とっ、ととと突然何を言いますですかっ」



 顔を真っ赤にしてそっぽ向く柳谷かわええ……。

 相変わらず、攻められるのに慣れてないなぁ。



「そ、それより、明日のメニューは何にする予定なんですか?」



 露骨に話題を変えた。

 ま、これ以上からかうと可哀想だし、これくらいにしてやろう。

 メニューか……そうだな。



「唐揚げ、アスパラの肉巻き、ポテトサラダ、ミニトマト、ゆで卵、あとはいなり寿司かな」

「え? 丹波君のいな──」

「言わせねーよ?」

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