嫉妬──③
◆
「ご迷惑をお掛けしました……」
「いやいや、気にしなくていいよ」
昼休み。俺と柳谷は学校の中庭で、俺の作った弁当を広げていた。
メニューは卵焼き、肉汁タップリが売りのあらびきウインナー、ミニハンバーグ、ミニトマト、ブロッコリー。それに小さめのおにぎりがいくつか。
当然ながら俺の自家製。
同棲する前から弁当は自分で作ってたし、1人分も2人分も変わらない。
……嘘、見栄はりました。
喜んでもらいたくてめっちゃ張り切りました。
「まさか2時間目の初めまで寝てしまうとは……」
「まあまあ。そういうこともたまにはあるよ。と言うか寝不足の原因は俺みたいだし。……覚えてないけど」
「そ、そうですっ、その通りです! 丹波君のせいなのですから、責任取ってください!」
手の平くるっくるで草。
……って。
「え、責任?」
「はい、責任です!」
責任って言われてもな……いったいなんの責任を負えばいいのやら。
まあ、寝不足の原因は俺らしいし、そのせいで1時間目に出席できなかったなら、責任を取るべき……なのか?
意味わからないだろ。大丈夫、俺もわからん。
とりあえず、何すればいいのか聞かないことには始まらんか。
「責任って、何すりゃいいんだ?」
「うーん、そうですねぇ」
ポク、ポク、ポク、チーン。
「種付け?」
「俺に更なる責任を負えと!?」
「やですね、冗談ですよ。……2割は」
「8割もガチだとそれはガチなのでは?」
いつかはって気持ちはあるけど、柳谷パパとの約束で俺は大学に行かなきゃならん。
流石に就職もせず、柳谷と子供を作るのはちょっとはばかられる。
「まあ、それは将来の楽しみに取っておいて」
「そうしてくれると助かる」
「それで責任なんですが……」
もじもじ、もじもじ。
……? あの柳谷が恥ずかしがってる?
どれだけ恥ずかしいお願いをするつもりだろう、ごくり。
「責任というかなんというか……ぁ、あーんを、してほしいです」
もじもじ、もじもじ。
あーん、だと……!?
………………………………ん? あーん?
「あーんって……あのあーんか?」
「はい。あのあーんです」
もじもじ、もじもじ。
…………。
「何でこの子、種付けって単語よりあーんに照れてるんだろう……」
「お、女の子には複雑な事情があるんです!」
女心、戦慄〇宮より複雑すぎませんか?
「では……あーん」
「えっ。こ、ここでやるのか……?」
「は、はいっ」
まるで親鳥からの餌を待つ小鳥のように、小さく口を開く柳谷。
目を閉じ、頬を染め、見ようによってはキス待ちの顔にも見える。
だが中庭には、俺達以外の生徒も当然いる。
みんな気にしてないように振舞ってるけど、こっちに意識を向けてるのがありありとわかった。
こんな所であーんって、恥ずかしいにも程があるだろ……。
なんて言うと思ったか!
甘いな柳谷。俺はこの程度で照れる思春期男子ではない!
この程度で照れる時期はとうに過ぎている!
「いいぞ、何食べたい?」
「じゃあ、ウインナーで」
「はいよ」
くっくっく……柳谷。お前は俺の恥ずかしがる姿を見たいと思ってるんだろうが……浅はかなり。
念の為に持ってきていたフォークにウインナーを刺し、口元に持っていった。
「はい、あーん」
「あー……むっ。んぁっ、おっふぃ……んっ……」
…………。
「はむっ……ぅ……おしる、れひゃいまふ……」
…………。
「んっ。んくっ……ぷはっ! 濃いお汁がいっぱいで、おいひぃれす……♡」
「アウトッッッ!!!!」
これはっ、ダメだろ色々と! 色々とダメだろ!
見ろ周りを! 男共が変な目で見てきてるじゃないか! こんな柳谷を見ていいのは俺だけ! お前ら見んな!
「え? 何がです? 私はただ、丹波君のウインナーを食べただけですよ?」
「俺の用意した肉汁が売りのあらびきウインナーな!? 妙な言い回しすんな!」
「恥ずかしいですか?」
「ああ恥ずかしいわ! ……はっ!?」
「(にやり)」
こ、こいつっ、してやったり顔してやがる……!
俺がこの程度で恥ずかしがる思春期でないことを知り尽くし、その上で更に上を行きやがったのか……!?
……俺を恥ずかしがらせることに一生懸命すぎませんかね、この子。
「ふふふ……さっきは不意打ちのキスをくらいましたからね」
「え……まさか覚えてたのか?」
「はい、これでも学年首席。記憶力はいいんです」
「マジか」
てことは、保健室で寝てた時からこの仕返しを考えてたと?
……その才能、こんな所で使わないで、もっと世界のために使えないものかね……。
「昨日の夜からやられっぱなしでしたから。これでイーブンです」
「……そういや、昨日の俺って本当に何したの?」
無意識のうちに柳谷を寝不足にさせたって……もしかして俺にはト〇ブる主人公的な異能の力を持っていたのか? 何それ性犯罪じゃん。
柳谷は一瞬口を開きかけると、直ぐに口元に指を当て。
「ひ、み、つ、です♡」
……あぁ、本当……俺の嫁可愛すぎか。
まあ、そんな可愛すぎる嫁のせいで周囲からの嫉妬の視線が怖いんだけどな。
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