始業式──④

   ◆



「丹波、丹波、丹波……お、1組だ」

「俺も1組。これで幼稚園から高校までオールコンプだ。また1年間よろしく」

「おう」



 なんという奇跡。なんという偶然だろうか。

 こんなこともあるんだなぁ。

 で、肝心の柳谷は……。



「あ、美南嬢も1組だよ。さっき見つけた」

「マジ?」

「うん、ほら」



 冬吾が指さした所に、柳谷の名前が。

 ……これ、偶然だよな? 冬吾は偶然だとしても、柳谷のこれは柳谷パパが裏で動いてるような気がする……気のせいか? 気のせいだよな?


 …………。



「ユウ、どうしたの?」

「いや……行こうぜ」

「うん」



 気のせいだと思うことにしました。

 3年の教室は3階。因みに1年生は1階で、2年生は2階にある。

 強制登山坂を登ってから3階まで階段で登るのは、結構足に来るな……冬吾は運動部だから平気そうだけど。

 やっぱり運動しよう、そうしよう。


 教室に入ると、中には既にクラスメイトが何人か登校していた。

 さっきまで談笑していた皆が、俺を見て会話を止めた。

 まあ、流石にそうなるよな。あれだけニュースになったわけだし。



「あっ、高瀬君おはよー」

「おはよう、高瀬君!」

「イケメンご尊顔、ありがたや」

「高瀬、試合見たぜ! ハットトリックとは流石だな!」



 おー、流石我が校が誇るイケメン。相変わらずの持てはやはれっぷり。

 冬吾も1人1人に挨拶し、俺の前の席に座った。



「よ、モテ男」

「城西高校最高の美人と結婚するユウに言われてもね」



 肩をすくめる冬吾。普通の奴がやるとキザっぽいのに、こいつがやると本当に様になるな。

 さて、時間もあることだし、旅行に行ってて読めなかったラノベの続きでも……。



「ね、ねえねえ丹波君」

「え?」



 声のした方を見ると、おどおどしてるおさげの女の子と、その後ろに2人の女の子がいた。

 ……えっと……俺が話しかけられたのか? 冬吾じゃなくて?



「な、なにか?」

「あ、えっと……その……み、美南ちゃんとのことなんだけどっ、あれって本当なの……!?」



 ああ、やっぱりそれについてか。

 野次馬根性というかなんというか……そっとしておいて欲しいんだけどな。まあ無理か。俺だって、もし同じクラスにそんな奴がいたら同じようなことを聞きそうだし。



「ああ、本当だ。俺は柳谷と結婚する」



 ザワッ──。


 俺の言葉にクラス中がざわめいた。

 進学校で今年から受験勉強に入るとはいえ、皆もこう言った話は好きらしい。興味ないふりしてても、聞き耳立ててるのがわかる。



「そ、それってやっぱり両想いで!?」

「あの公開プロポーズ、計画してたの!?」

「じ、実は秘密裏に付き合ってたとか……!?」

「おわっ」



 あ、圧が……!

 女3人寄ればかしましいとは言うが、なるほどこれはうるさい。静かにして欲しい、切実に。

 と、そこに冬吾が間に入ってくれた。



「はいはい、皆ストップ。ユウが困ってるでしょ。ユウを困らせたら、俺が許さないから」

「あ……ご、ごめんね高瀬君」

「俺じゃなくて、ユウに謝って」

「た、丹波君、ごめんなさい」



 本当に申し訳なさそうに、3人が頭を下げる。

 それを見て他の奴らも、バツが悪そうな顔で目を逸らした。



「いや、気にしてないから大丈夫だ」

「ホント、ごめんねっ」



 足速に走っていく3人。

 朝から色々と疲れたな……。



「お疲れ、ユウ」

「助かったよ、ありがとうな」

「気にしないで」



 爽やかに笑みをこぼす冬吾。男で、なおかつ見慣れた俺でもドキッとするほどのイケメンっぷりに、クラスの女子達が一斉に色めきだった。



「そういや、最近お前の方はどうなんだよ」

「俺の方って?」

「ほら」

「……ああっ。そのことね」



 視線をある場所に向けると、冬吾は納得したように頷いた。

 視線の先には、窓際の席に座る女の子。


 伊原玲緒奈いばられおな


 父親がアメリカ人、母親が日本人のハーフ。

 目が覚めるほどの金髪ロングで、目の色は翡翠色。

 ハーフ特有の完成された色気に、高校生離れしたプロポーション。

 だけど、やる気というものを母体に置いてきたと言わんばかりの気だるげな雰囲気。

 あの美貌と物憂げな雰囲気から、男子にものすごく人気があり。


 冬吾の秘密の彼女である。


 1年の頃、冬吾が一目惚れして猛アタック。

 当然最初は全く相手にされず、適当にあしらわれていた。

 けど、俺も加勢し諦めずにアタックすること半年。



『あんた、根性あるね。いいよ』



 となり、目出たくゴールイン。それ以来ずっと付き合っている。


 なぜ秘密かと言うと、伊原からお願いされてだ。

 冬吾レベルのイケメンと付き合ってるって知られたら、瞬く間にイジメの対象にされるから。


 ということで、2人が付き合ってるのを知ってるのは俺だけ。伊原もそれは了承済みだ。


 俺達が見ていることに気付いたのか、伊原が冬吾をチラッと見るなり、スマホを取り出した。


 直後、冬吾のスマホが鳴動する。



 玲緒奈:あんま見んな



 おや? 素っ気ない?

 まさか別れた……?


 と、またメッセージが送られてきた。



 玲緒奈:好きが止められなくなる



 ベタ惚れじゃねーか。



「ご、め、ん、ね。と……ま、そういう訳でご心配なく」

「お、おう……」



 まさか、今や伊原の方が冬吾にベタ惚れとは……。

 ある意味でいいカップルだよなぁ、本当。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る