帝からわたしたちにいたるまで
サイゴン川のディナー・クルーズの船が岸壁に着いたら
サイドカーには女神様を乗せて。
「教官殿。ディナーは楽しめましたか?」
帝室の末裔たるご兄弟に遭ったことを話すと梨子はとても喜んでくれた。
「それはよい功徳をなさいましたね」
「功徳?ああ、そうだね」
梨子はこういう感覚がとても豊かで。だからわたしは遠慮なくその話をした。
「その昔、お釈迦様が托鉢をなさる一団に過去の世でたった一度出遭っただけで、はるか後世でもまた仏が人間の姿をして生まれた、ホンモノの仏に再度出遭えたっていう・・・・・・しかもその男性は、そのホンモノの仏と夫婦になったっていう・・・」
「教官殿、高貴な方は、ただ何もなく高貴という訳ではないのです」
「
「もちろんそれもそうなのですが・・・・・・・訓練です」
「訓練?」
「はい」
ふたりしてサイドカーにお座りになる女神様をどうしてか拝顔した。
「ひとえに、
「はっ」
わたしは改めて気付いたよ。梨子が自分の生業を選んだ理由が。
とてもよく分かるよ。
「それは古今東西を問わず、皇室・王室・帝室、すべての方々の本来のお姿です。ほぎゃ・ほぎゃ、とお生まれになったその瞬間から、一挙手一投足、全思考、全神経、全部の心の動き、だけでなく、カラダの反射にすら至るまで、すべて自分以外の民のためを思うことに徹するんです。教官殿、それはどのような存在を目標としているのでしょうか?」
「女神様、だね」
「はい」
わたしは追加してあげたよ。
梨子のために。
「あなたが自衛官を選んだのも、だからだよね」
「おこがましいかもしれませんが、訓練によってわたしは滅私を目指すんです」
「辛くない?」
「どうでしょう。余りにも日常を忘れてしまって、どの状態が辛い状態だったのか、全く分からなくなってしまいました」
「梨子」
「はい」
「多分、休息は今夜で終わると思うよ」
「教官殿も感じておられましたか」
「うん。決定的なことが、起こると思う」
「はい」
多分、明日を待つか待たない内に。
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