疲れたらひとりになろう
緊張の日々であることは間違いがなくて、だから
もちろんわたしも。
「少しひとりでブラブラしたいわねぇ」
ジェトの発案でそうすることにした。ただ、女神さまをお一人にするわけにはいかないので、梨子だけはハーレーのサイドカーに女神さまをお乗せしてお出かけ。梨子はふたりでどこか遠くまでナイトツーリングするという。
ジェトは日本人街の赤提灯みたいな飲み屋街で一人飲みをするらしい。
鬼選はというとベトナムではジャンク家電が流行っているらしく昔の秋葉原電気街のようなノリだろうか、家電やら電子パーツやら工具類を売っているマーケットに出向くという。
うーん、マニアック。
わたしが一番オーソドックスだね。
サイゴン川のディナー・クルーズに乗ってみた。
「おひとりですか?」
わたしがベトナム語を話せないと見るや綺麗な発音の英語で話しかけてきたのは現地の、まごうことなき美少年だった。
その子がお兄ちゃんで中2ぐらいの年頃だろうか。ベトナムへ来るに当たってわたしたちの邪魔をしてきたUFO野郎や市場で馴れ馴れしく女神さまに接触しようとした輩どもや女神さまのおわす部屋に手榴弾を投げ込む大馬鹿者どもから比べたらほんとうに絵に描いたような紳士だ。
そして弟くんは小2か小3といったところか。
別にディナークルーズにドレスコードがあるわけじゃないけどご両親がふたりをとても楽しみに生きておられるんだろう、濃い青のジャケットに白のスラックス、髪をオールバックにしているところまでふたりお揃いだった。
わたしが思わず見惚れてしまっているとお兄ちゃんの方がわたしの返しの言葉を待たずに次のセリフを言った。
「ひとりになりたい時って、ありますよね」
もう、ズキューン!なんていうベタな表現を使ってもまったく悔いがないぐらいの美少年・イケメン・若きジェントルメンぶりだ。
しかもテーブルに着いて食事をもう始めていたわたしの隣に立ったままで決して邪魔をしない気配りとマナーの徹底ぶり。なにをされたわけでもないのにわたしは多分顔を赤らめながら、
「ありがとう」
と一言言うだけでもう胸がいっぱいだった。
デッキの向こう側に座るご両親が手を挙げると、ではよい夜を、と今度は弟くんの方が言ってそのまま去って行った。
「ああ・・・安らぐ・・・」
アップルタイザーを注ぎに来てくれたボーイさんがわたしに教えてくれた。
「あのご兄弟は帝室の流れを汲むお子たちなんですよ。お美しいでしょう」
わたしの答えは陳腐だけど、これより外にないっていうものだったよ。
「はい。とてもお美しいですね」
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