巡航速度で巡幸を
UFOが逃げた後、わたしたちは極めて快適なフライトを続けた。
「教官殿。そろそろこのフライトの全容をお話しいたします。とても恐縮なのですが教官殿が『逃げられなくなって』からお伝えするようにという上官からの指示がありましたので」
「うん。分かってるよ
わたしがそう言うと梨子は敬礼してから話し始めた。
「先程のUFOが異星のものなのか地球内の別次元のものなのかあるいは異星かつ異次元のものなのか日本国としてもまだつかめておりません。米国は日本国の同盟国ですから情報共有を何度も申し入れているのですが頑として回答を拒否されています」
「それって外務大臣とか防衛大臣とかいわゆる閣僚級の政治家が交渉してるの?」
「いいえ。そんな下士官ではありません」
「下士官て・・・・・・じゃあ、もしかして総理とか?」
「いいえ。教官殿。最終的な責任など取れぬ『雇われ政治家』ごときの出る幕ではないのです」
じゃあ、誰?
「お察しください」
・・・・・・・どうやら余りにも恐れ多くて明言することは禁じられているらしい。ただ、梨子はヒントをくれた。
「この歌をご存知ですか?『わが国は神のすゑなり。神まつる昔の手ぶり忘るなよゆめ』」
「ううん」
「明治天皇陛下さまのお歌です。いかがです?明治天皇陛下さまと言えば文字通り明治の御世においては『国家元首』でおわせられます。そのお方が『忘るなよゆめ』とお歌いになる・・・・・権力者の奢りなど微塵もないこちらが恐縮してしまうほどの謙虚なご姿勢です」
梨子が明言できない以上、ここから察するしかないか。でも疑問が次から次へと湧いて出てきて、梨子はそれを先回りするように丁寧に丁寧に解説してくれた。
「あのUFOを宗教的に利用しようとする輩が全世界の各地に散在しているのです。絶対神を敬する地域ではさすがにまだ表面化していませんが、なまじ寛容で民主化の進んだ国では新たな秩序でも定まったかのようにUFOを既におわす神々と入れ替えようとしているのです」
「えっ。ちょっと待って。神様とUFOを入れ替えるってどういう感覚?」
「それはこちらが聞きたいです。口に蓋が覆うてないからとてそういう輩たちは『神は死んだ』などとさえ触れ回って現に小国でその国内にある聖廟・寺院等を破壊し尽くしてしまった国もあります。決してニュースにはなりませんが」
「UFOは大勢居るの?」
「教官どの。UFOを擬人化したかのようなその感覚、さすがです。実は中に何者かが乗っているのか、それとも円盤そのものが自立した意識体なのかも目下検証中です。教官殿のご質問に対する回答という意味で言えば、数は分からないが世界中で神出鬼没しているということです。あ。『神』の文字が入った四字熟語を使ってしまいました。すみません」
一気に飲み込むことは無理そうなので何度か教えてもらおう・・・・・それよりも・・・・
「梨子。じゃあ、女神様は一体何?」
「先般申し上げた通りです。我が国の北の地方の神社におわした『女神像』で、神々を押さえつけるお力をお持ちです」
「UFOを押さえつける?」
「それもですが、世界各地でUFOの存在によって貶められてしまったその国の神々のご威光を回復するためにお出ましを願ったのです」
「訊いていい?」
「なんなりと」
「ホンキ・・・・・なんだよね?」
「教官殿・・・・わたくしたちがホンキでないと?」
「そ、そうじゃなくて!梨子もジェトも
「残念ながら全員一致ではありません。ただ、『ならば代案を』と迫っても誰も返せなかったのでわたくしたちのような心ある人間が組織内で力を合わせて行動しているのです。乗客のフリをしてくれていた同僚たちもその仲間です」
なんだかわたしは嬉しくなった。
こういう世界こそ究極のマニアック。
いち民間人ではあるけれど、わたしは大きな大きな流れの一部になったような安心感を持った。
「梨子。どうしてベトナムへ?」
「教官殿。ベトナムは無宗教の方達がとても多い国なのです。一応仏教徒が割合としては多く寺院もあるのですが7割ほどの方達は無宗教と言われています。いかがですか?UFOにつけ込まれるとは思いませんか?」
「た、確かに・・・・・だから女神様に?」
「はい。そして教官殿。無宗教と言えば日本もそうではないでしょうか?」
「えっ・・・・・でも、みんな神社に初詣に行ったりお寺巡りをしたりしてるんじゃ・・・・」
「それは、ホンキでやっているのでしょうか?」
ホンキ?
ホンキって何?
「ベトナムに近い東南アジアの国々は違うでしょう。たとえばタイやミャンマーは敬虔な仏教徒の国です。わたしの個人的な感覚もありますが、仏教が伝わったばかりの時期の日本において聖徳太子が国民の心を仏様のお力でまとめようとされたのに近いのではないでしょうか?そういう国ならばUFO
につけ込まれる心配は少ないのでは?」
全面的には同意できなかったけど、UFOやUFOを利用して自分たちが神になり代わりたいと考える人間たちならば、神様の力がもともと弱い国を狙うだろう。
「教官殿。いわばこのフライトは女神様の巡幸の旅なのです」
わたしは最後にくだらない質問かな、と思ったけど梨子に訊いた。
「なんで4人全員女なの?」
「女神様は男子禁制なのです」
なるほど!
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