次元が違うぐらいで神と崇める勿れ

 梨子りこが目視と第六感に言い及んだ意味がわたしはとてもよく分かって、けれどもその物体をわたしは浅い知識でしか知らなくて。


「えんばん・・・・・円盤!?」

「教官殿!光を直接見てはなりません!」


 梨子がPCのカメラ映像の右下のほんの隅の隅に映ったいわゆるアダムスキー型と呼ばれる円盤が発光体としても青い光に包まれていてそれを直視するなと叫んだのでわたしは目を逸らした。


「わ!」


 逸らしたその視線がちょうど右翼の窓に行き当たると、実体としてのそれが窓の横一列を、トンネル内の新幹線の車窓からトンネル壁面に漏れる車内の光が窓のフレームごとにズラララララ!と高速コマ送りのように流れるあの感覚で、その『UFO』は水平にジャンボジェットの機体側面を漸近したまま水平飛行で縦断し、おそらくはコックピットの辺りまで行き着いた。


『出たわぁ!一機ぃ!』


 ジェトが機内スピーカーを歪ませる怒声でがなると梨子もハンディカムで呼応した。


「エンジン停止!」

『失速するわよぉ!』

「構わん!」


 これが多分ジェトにしかできない操舵だということは航空機の素人であるわたしにも十分分かって、エンジン音が、キュウゥゥン、と静まった瞬間に機体が落ち始めて更にそれを実証する形となった。


「やだやだやだ!」

「教官殿!落ち着いて!ジェトとわたくしを信じてください!」


 梨子はPCの画面に戻る。


「点滅してやがります・・・・」


 UFOに乗っているのが一体何者かは分からないけどパイロットがいるのだとしたらジェトの操舵は十分に意表を突くもので、相手が判断に迷っているのだろう。点滅は次の行動に移る前の思考に費やす動作のような気がした。


 ただ、梨子は点滅、と簡単に言ったけれどもそれはつまり、姿しているということなんだけど。


「き、消えるって!?」

「教官殿。まだシステムは解明されていません。保護色のように周囲の画像を機体外面のスクリーンシートか何かに映し出して視覚的に消えているのかそれとも『ほんとうに消えて』いるのか。ただ首尾一貫しているのは徹頭徹尾レーダーには反応しないということです」


『左舷っ!注意っ!』


 鬼選きよりの声だ。

 梨子とわたしは左翼の窓を観た。


「スケール・アップしたぞっ!」


 これは単なる遠近法によって大きく見えてるわけじゃなくて、間違いなくさっき見た機体よりも数倍の大きさになっている。


『右舷に旋回するわよぉ!』

「やれ!」


 ジェトがエンジンをフルスロットルにしたようだ。

 そのまま機体は急角度で右に大きく回っていく。


「消えたぞぉ!」

『分かってるわよぉ!』


 こういうのなんて言うんだっけ。レベルが違うじゃなくて・・・・・


「じ、次元が違う!」

「教官殿、そうなのかもしれません」


 梨子は作業を止めないままにけれどもきちんと説明することがわたしのメンタルに少しでも好影響すると思ったのだろう。丁寧に話してくれた。


「こいつらが宇宙から来たという分析もあれば『異次元』から来たという分析もあります。消えたのが違う次元を行き来しているからと考えれば自然なことかもしれません。そして、次元の違う存在を高度な意識体として過剰評価する輩たちがいるんです」

「過剰評価?」

「はい。高次元という言い方が合っているのか違っているのかは分かりませんけれども、こいつらを次元の高い存在という風に崇めるほどに扱おうとする者たちもいるんです。いいえ、者たちというよりは国々があるんです」

「それって、『神』ってこと」

「そういうつもりなんでしょうね。だからホンモノである女神さまを排除にかかるんですよ。でも教官殿、わたくしはこう思うんです」


 梨子は無造作にラゲージ・ボックスから客に偽装した自衛官が残して行ったビジネスバッグを下ろしてジッパーを開け、小さな黒くて艶の無いリボルバーを一丁右手に握り込んだ。


「次元が違おうが宇宙から来ようがそいつらはとどのつまり『人間』でしかありません。女神さまを貶めようなどと文字通り神をも畏れぬ奴らですよ」


 そう言って銃口を窓に隙間なくぴったりと押し当てた。



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