ベトナムへ飛ぶ小説があったんだよ
ベトナムへのフライトの理由をわたしは教えて貰えない。
もちろん作戦上の機密というものがあるんだろうけど、一緒に飛ぶ人間として寂しい限りではあるよね。
「ところでみんなベトナム語はできるの?」
「教官殿。こうして教官殿と話している時以外は三人で常時ベトナム語で会話しています」
「そうしないと
「当然だろう。ジェトのように英語に優越感を持っていると他の言語のマスターに時間がかかるからな。思考すらベトナム語にしてもらわんと」
「あれ?ジェトはもしかして英語圏で生活してたとか?」
「ふふぅ。そうよぉ、
「そうなんだ。
「完璧」
「そ、そう・・・・・・」
わたしはベトナム語できなくていいのかな・・・・まあ、できなくてもなんとかなるポジションなんだろうけどな。
もう一回訊いてみようかな。
「ねえ。ベトナムでどんな作戦するの?」
「教官殿申し訳ありません。一切秘密です」
「でもわたしも同行するわけだよね。それでもダメ?」
「・・・・・・お察しください」
「ふうん・・・・・・・わかった、と言いたいところだけど、そもそもわたしはベトナムに縁もゆかりもないんだよ?不安な気持ちになるわたしのココロも察して欲しい所だけど」
「ううむ・・・・むうう・・・・・」
「梨子ぉ。マニアちゃんにヒントぐらい上げてもいいんじゃない?それならばアナタが言ったってことにはならないでしょお?」
「クイズじゃないぞ!」
「でも仲間なんだから。ねぇ?鬼選」
「然」
「わかりました・・・・・教官殿。本はお読みになりますか?」
「本?」
「小説とか読まれますか?異世界とかそういうのではなく、現実をベースにした、今まさに『跳べ』と強いるぐらいの迫力を持った小説を」
「うーん・・・・・・・軽いものならば読まないことはないけど」
「ベトナムに主人公のふたりが出かけるという小説があったのですが、その時にふたりがベトナムで体験したことが凄まじいのです」
「へ・・・え・・・・・それって実体験なの?」
「さあ。私には作者の経歴は分かりかねますし自己の現実を投影するタイプかどうかも存じませんが、少なくとも作者はホンキで書いています。お読みになってみられますか?」
「なんていうタイトル?」
「『日月(にちげつ)の交わり』です」
WEBに投稿されてるアマチュアの小説らしいので、わたしは読んでみた。
文体は固いとか柔らかいとかいうレベルじゃなくて、いわゆる通常の小説が使いそうな言い回しや単語をわざと回避して全文書いてるんじゃないかというぐらいにマニアックだと思った。同時にリアルだと思った。
マニアックとは、リアルとほぼ同義語じゃないのかな?
ただ、日月(にちげつ)の交わりの中で主人公のふたりがベトナムへ行った目的は純粋な旅行だったので意図を取りかねていた。
現地での彼と彼女との行動・遭遇した事実は旅行の範疇を逸脱したものであったけれども。
ただ、何度繰り返して読んでも自衛隊のおそらくはその中でも異端、つまりマニアックであろう梨子・ジェト・鬼選、更にはマニアックを旨とする高校生であるわたしが果たすべき使命が見えてこなかったので今一度梨子に訊いた。
梨子はあっさり言った。
「もう一遍、小説があるんです、教官殿。『ビッチよ、女神にひれ伏せい!』という中編です。女神をパリに空輸する小説です」
「女神?パリ?」
「はい。その中編では目的地はパリですが、我々がこれからやろうとすることのお話できる部分は・・・・・女神をホーチミンまで運ぶ・・・・・・いえ、お出ましをいただく、ということです」
「どんな、女神?」
「四肢は無く、ご尊顔と胸と胴の
わたしが訊いたどんなはそういう意味じゃないんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます