第28話 尊敬の思いと心配の思い

あの爆発、盾越しでもかなりの威力を感じた

煙で前は何も見えない、ただただ彼らの無事を祈るだけだ


煙が徐々に晴れる、視界がだんだんと良好になる

自分の近くには魔族の死体、爆発に巻き込まれてしまったのだろうか

自分が改造した魔族を自分で倒す、あの男に情けの感情はないのか‥

このときまでは、そんなことを考えれる心の余裕があった


煙がなくなり、辺りが完全に見えるようになった

ついさっきまで師匠達がいた場所を見て、その周りも見た

「師匠‥」

見える場所に、師匠も愛香もいなかった


「師匠、なんで‥」

「まだ、強さの秘訣、教わってないのに」

悲しみの気持ちが心を覆う、さっきまでは守ることに精を出していたが、その気持ちすら今の心になかった

「師匠‥」

目には自然と涙が流れる、周りの暗さが、その悲しさを際立たせていた


「あとはお前だけか、さっさとくたばれよ」

男は非情にも悲しんでいる翔に戦わせようとする

そして翔は、師匠のことを考えていた


このままやられれば、師匠と同じところに行ける

この世界で悲しむこともなくなる

翔は、正常に物事を考えていられなかった


「突撃しろ」

男が魔族に命令を出す、魔族は特に考えることなく突撃してくる

いつもの翔なら、盾を構えて攻撃を受け止めるだろう、爆発まで受け止めれた盾だ、この程度なら造作もない


だが、そのことをしなかった

ただ、盾も構えず、立っていた


「師匠、俺もあと少しでそちらに向かいます」

そのように宣言した


魔族はどんどん近づいてくる、この攻撃、普通に食らったらひとたまりもない

攻撃を喰らうまであと数秒もなかった



ドスッ!

突然、横から突き飛ばされた

よろめいて倒れる、攻撃を紙一重でかわした

突撃してきた魔族は、すぐに誰かによって倒された

「何やってるの!」

よく聞いた声が聞こえる、異少課に入ってから聞いてた彼女の声


「愛香?」

目の前には彼女がいた、いつも優しい彼女

自分が怪我するかもしれないのに、突撃して俺が攻撃を受けるのをやめさせた

「本当に、何でこんなことを‥」

彼女の目にも、涙が溜まっていた

大事な仲間を、心配するときに流す涙が

「だって、師匠が‥」

俺がゆっくりと言う、そのことを聞いた愛香はただ一言

「あなたの師匠、神代先輩は、今あなたが痛むことを悲しんでいるんじゃないんですか」

そう、たった一言で答えた

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