◆天使の拾いもの-二章-

四話*明日への迷い

 ──とは言ったものの。さて、どうしたもんかね。こんな子供を連れてハンター稼業とは、大丈夫か俺……。

 セシエルは買った玩具を手に帰路に就いていた。後見人こうけんにんについての話を聞いた帰りにトイショップに立ち寄ったのだ。

 友人の子供に何度か買ったことはあるが、そのときとはまるで違う感覚に顔をしかめる。

 後見人として、成人するまで責任を持つつもりで手続きのための話を聞きに行った。ライカには悪いが、養子にする気はない。

 俺のような人間が養子を持つことは、あまり良いとは思えない。

 責任を持つつもりではいるけれど、いつ死ぬか解らないこの仕事で、そんな保証は出来ない事も充分に解っている。

 だったら、あいつが一人で生きていけるように、俺はサポートをしていこう。決意をして再度、手にある玩具を見やる。

「──って、なんで俺、これ選んだ?」

 多分、人気のアニメのレーザー銃だ。テレビなんかほとんど見ないんだが、トレーラーのテレビでライカがよく見ていた。

 今は友人の家に居候状態ではあるから、リビングでのんびりテレビを見ることが出来る。しかし、ライカは遠慮しているのか、見たいテレビ番組があるときはいつもトレーラーで見ていた。

 気兼ねなく付き合える一番の友人だからこそ、彼に無理を承知で間借りを頼んだ。まあ、事情を話したら「金はいらないから早く来い」と逆にせっつかれた。

 とはいえ、強引に仲良くなれとも言いづらい。少しずつでも馴染んでくれればと、焦らずに見守ろうとジャックと話し合った。

 引き取って育てると決めたものの──この先、不安しかない。居候させてくれるジャックだけじゃなく、他の仲間たちも協力してくれると言ってくれたのは本当に有り難い。

「とりあえず、疑われないようにはしとかねえとな」

 誘拐犯だなんて勘違いされたら、仕事もまともに出来なくなる。

 これから、俺の生活はがらりと変わるだろう。どこまでやれるのか解らない。そう考えたとき、どうしての顔が浮かぶのか。

 後にも先にも、あれほど衝撃的な出会いはなかったからかもしれない。

「不死なんて誰が信じるかよ」

 頭を抱えて唸る。

 俺が子持ちになるなんて、びっくり仰天もいいところだ。養子縁組はしなくとも、子持ちには変わりない。

 仕事に復帰するなら、色々と準備をしないとな。

 まあ仕事から離れていたのは、ほんの一ヶ月くらいなんだが、それでも直ぐに感覚が戻るなんてことはないだろう。

 俺にとっては、あまりにも平和な生活だったのだから。



 ──次の日、セシエルとライカの二人は街に来ていた。

「うわあ。ここ、なに?」

「貸しコンテナだ」

 預けている貸しコンテナは街の中心から少し離れた場所にあるが、ジャックの家は街の外れにある。

 コンテナはどれも倉庫らしく側面が切り取られシャッターが取り付けられていたり、上に大きく開くタイプに作り替えられていた。

 セシエルが借りているのはシャッタータイプだ。右端にドアもある。ライカは促され、戸惑いながらドアノブを回した。

 少し、きしみをあげて開いていく扉の隙間から中を覗き込むと、開かれた扉から漏れ入る陽射しに足元の埃がキラキラと小さく舞い上がった。

 ふと不安になって後ろのセシエルを見上げる。

「俺の商売道具がある」

 言ってライカを前に扉をくぐった。

 セシエルが入って直ぐにあるスイッチをONにすると裸電球が点り、薄暗さで目を細めていたライカはまぶしさに目を閉じる。

 慣れてきた頃にゆっくりと目を開き、うずたかく積まれたプラスチックケースを呆然と眺めた。

 波打つ金属の壁にはハンドガンやライフルが飾られており、セシエルの仕事を思い起こしてこの倉庫の使い方を理解する。

「すごい」

 瞳を輝かせるライカにセシエルは安堵した。

 両親が死んだ理由を考えれば、銃に嫌悪してもおかしくはない。あのときの銃とこれは、別物だとしっかり判断出来ている。

 それを確認したセシエルはライカの前に立って腰をかがめた。

「俺の仕事はとても危険なものだ。お前は俺を手伝いながら、学校にも行くんだ」

「がっこう?」

「そうだ。これでも俺だって大学は出ているんだぞ」

「そうなんだ」

 よく解らないけど、凄いんだね。

「いや~まあ、三流だけど。──それはいいとして。これからもジャックが助けてくれる。あいつ以外もみんな。まだ慣れないかもしれないが、あいつを信用してくれ」

「え、うん」

 ライカは突然の言葉に戸惑いつつ返事を返しながら、視界に広がる新しい世界に期待と羨望の眼差しを向けていた。

 これなら、いけるかもしれない。暴力に足を踏み入れる形にはなるが、俺はそんな生き方しか教えられない。

 そこでセシエルははたと気がつく。

 ──俺がこいつを引き取ることで、返ってこいつの命を危険に晒している。今までそのことを考えなかった訳じゃない。

 考えなかった訳じゃないが長年、やってきたことに軽い気持ちがあった。

 こいつに前を向いて欲しいという想いだけで精一杯だったことに、今さらながら自分のしている行為が怖くなった。

「ライカ。本当に、俺の仕事を手伝いたいか?」

「うん!」

 はきはきした返事にセシエルは「そうか」とつぶやき、笑みを浮かべて立ち上がる。

「今はまだ俺の仕事を見ているだけだがら真剣に考えなくていい。これからも何度か訊くことになる。そのときにはまた答えてくれ」

 将来、こいつがどう返事をするか解らない。むしろ、別の道を選んでくれればいいとさえ考えている。

「? うん」

 なんのことか解らないままライカは生返事をした。

 それに頷き、セシエルはハンドガンと弾薬を空いている箱に放り込んでコンテナを閉めた。

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