第四話*立ち尽くす

 ──アーカンソー州

 アメリカ合衆国の南部にあり、北はミズーリ州と接していて東にはミシシッピ州とテネシー州に、西はオクラホマ州とテキサス州に、南はルイジアナ州に接している。

 洞窟探検も楽しめ、アウトドアアクティビティが充実している。州中央部に位置するリトルロック市は州都かつ、人口最大の都市である。

 州の南西部、ミラー郡の都市テクサーカナ──テキサス州テクサーカナ市とは、実質的に二つ合わせて一つの都市として機能している。

 落ち着いた造りの建造物が建ち並び、温暖湿潤気候で家族向けのエリアでもある。中央部を南北に通るノース・ステート・ライン・ロードが州境となっている。

 ロイの家は住宅街のはしの方にあり、庭も広く静かな場所に建てられていた。

 セシエルはベリルを捕まえたあとアンジェリーナに連絡をしてロイの家に向かい、到着したとき彼女は玄関先に出ていた。

 ロイの友人たちだろうか。三人ほどガタイの良い男が、暗めのスーツに身を包み彼女の後ろに立っている。

「クリア! ああ。ありがとう」

 女はベリルを視界に捉えると、目を輝かせてセシエルに笑みを浮かべた。

 復讐できる喜びに満ちているのだろうか、アンジェリーナの表情に鋭さも怒りも感じられない。それに少しの違和感はあったものの、憎しみはそれぞれだろうとあまり気には留めなかった。

「お金は振り込んでおいたから。ありがとう」

「え? しかし」

「立派に仕事を果たしてくれて感謝します。夫の友人たちがいるので帰っても大丈夫です」

 そう言われてしまえば仕方がない。セシエルは後ろ髪を引かれる思いに一度、振り返りベリルを連れて裏口の方に向かうアンジーたちを確認しジープに戻った。

 渋々しぶしぶドアを開いたそのとき、何発もの銃声が聞こえてセシエルはすかさず裏口に走る。

「アンジー! ──っ!?」

 駆けつけると男たちは地面につっぷし、まるで動く気配はなく無表情で立っているベリルの手にはハンドガンが握られ、足元にアンジェリーナが横たわっていた。

「てめえ!?」

 セシエルは腰の後ろから素早くハンドガンを抜くと、躊躇ためらうことなくベリルに引鉄ひきがねを絞った。

 けれどもベリルはセシエルがハンドガンを抜ききる前に駆け出し、放たれた銃弾は虚しく脇をかすめる。そうして、駐まっていた車の影に隠れてセシエルの様子をうかがった。

 むやみに撃っても弾が減るだけだということは怒っていても理解しているようで、隠れた途端に撃つ手を止めた。

 しかし、車の影から少しでも出たなら絶対に外さないと言わんばかりに銃を構えている。

「セシエル。もう一度言う。彼女はロイの妻ではない」

「黙れよ」

 アンジェリーナから離れるんじゃなかったと後悔に歯ぎしりする。

「俺を油断させようたって無駄だ!」

「ロイを殺したのはアンジーだ」

「嘘はやめろ」

「調べれば解る事だ。判断を誤るな」

「黙れ!」

 引鉄に力を込める。

「天使にしては口が悪い」

 ベリルは聞く耳を持たないセシエルに小さく溜息を吐き出した。

「そう呼んでくれなんて頼んでねえよ」

 なるほど、彼は紛れもなくハンターだ。動きに隙がない。

 これまでも多くの人間を捕らえてきたのだろう。それだけの気迫が感じられる。それならば尚更、この男の行動が残念でならない。

「引き受ける前に確認はしなかったのか」

 それに喉を詰まらせたが顔を覗かせたベリルに一発、銃弾を放つ。もちろん、当たることはなく車のボンネットに弾かれた。

「出来れば武器を返してもらいたいのだが」

 仕方がない。諦めるとしよう。

「逃がすと思っているのか」

 舐めるな。

 けれども、ベリルが隠れていた車のドアが開き目を見張った。乗り込む姿が見えて再び銃を構えたが視線が合い、射抜かれたように身がすくみ生唾を飲み込む。

「おい待て!」

 いつの間にキーを持っていたのか、車はすぐさま走り出し遠ざかっていく。セシエルは小さくなる車を呆然と見送った。

「くそ」

 目の前で逃がすなんて初めてだ。

 俺は何故、動けなかった──!?

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