第40話 ついに肥料が手に入った。


「プラン様、頂上が見えてきました」


 茶色の地面を歩き続けること、数時間後。


 リーネさんの言う通り、もう少しで山の頂上にたどり着けそうだった。

 途中、カルゴたちと遭遇したり、険しい山を歩き続けたりして、ようやく見えた山頂だ。


「恐らく山頂の土が最も質の良い土だと思われます。山の養分が、一点に集まっている場所ですので」


「確かに……感じます」


 なんというか、山の山頂に近づくにつれて、体の中の魔力がたぎっている気がする。

 山の山頂は空気が薄いはずなのに、地上にいる時よりも体が軽くなっている。


 これは、この山がドラゴンが生息する山だから……なんだと思う。

 この環境だからこそ、ドラゴンが強靭な存在として成長し、この地で生涯を終えて、地に帰り、また繰り返し生命の営みが行われるのだ。


「あ、でも、見てください。山頂には……やはりいましたね。アゲハドラゴン」


「あれが、そうなんですね」


 山頂にたどり着いた僕たち。

 岩陰に姿を隠して、そこにできている花畑を見てみる。

 すると、山頂にあるその花畑には、一面に色とりどりの花が咲き乱れている。

 そして、その大きな花畑の中に、一体のドラゴンの姿があった。


 紫色のドラゴン。翼が薄く、尻尾の先端に針がある。口の部分にも、針のような細長い管がある。

 大きさは、10メートルほどあると思う。

 ドラゴンというよりも、巨大な蝶っぽくも見えるかもしれない。


「アゲハドラゴンは、主に花の蜜を飲み、蜜が出なくなると花を食べるドラゴンです。気性は大人しいですが、一度刺激してしまえば、その尻尾の針で貫かれて殺されることになります」


「それじゃあ、見つからないようにしないといけませんけど……」


「ええ、もう、すでに見つかっているようですね」



「ブウウウウウウウウウウウウ””””ン……ッッッッ!」



 羽音がなった。威嚇するような音だった。

 そのドラゴンは岩陰に隠れている僕たちの方を見て、すでに戦闘体制に入っていた。


 そして、


「毒がきます!」


「……!」


 尻尾をこっちに向けて、その先端から黄色い液体を発射。

 僕はリーネさんを抱えると、急いで後ろに飛んだ。


 直後、液体がかかった岩が、ドロドロに溶けていた。


「あのままでは、こちらを排除しようとするでしょう」


「では、倒すしかない……ですよね」


「そうですね。それか……落ち着かせることができるのならば、それでもいいと思います。元々が温厚な魔物ですので」


「落ち着かせる……」


 それなら……できるかもしれない。


 だったら、


「葉っぱカッター」


 ヒュンヒュンヒュンと、僕は葉っぱカッターを5枚発動した。

 それが僕の周りを飛び回って、風の膜が発生する。


「ブウウウウウウウウウウウウ””””ン……ッッッッ!」


 そこに、アゲハドラゴンが毒を発射してくるけど、風の膜によって打ち消されていた。


 これなら、毒を無効化できるはずだ。


 その間に、僕は近くに見つけていた草を引き抜くと、ぐしゃっと手で握りつぶした。


 そして、


「葉っぱカッター」


 出現するのは葉っぱカッター。

 握りつぶした草をその葉っぱカッターに乗せて、敵の元へと発射する。


【草取り】の能力で引き抜かれ、潰したことで汁が出た草。


 さっき採取した草には抑制効果がある。高揚している気分などを落ち着かせることができるのだ。

 だから、葉っぱカッターで飛ばしたあの草は、いわばアゲハドラゴンを落ち着かせる抑制剤だ。


 葉っぱカッターで飛ばしたそれが、ドラゴンの頭上でヒュンヒュンと回り、その汁を飛沫として飛ばす。


 それは草の汁のシャワー。


「ブウウウウウウウウウウウウ””””ン……ッッッッ!」


 それを浴びたアゲハドラゴンが、身をよじりながら鳴き声を上げていた。


 そしてしばらくすると、落ち着いたように地に伏したのだった。



 * * * * * * * *



「……っと、これぐらいでいいでしょうか?」


「完璧です。これさえあれば、ユグドラシルフラワーも咲かせることができるはずです」


 スコップで花畑近くの土を掘り起こし、肥料をたっぷり手に入れた。


「ブンブンブン!」


 そんな僕たちのそばでは、落ち着いたアゲハドラゴンが尻尾を振りながら、楽しそうにこっちを見ている。

 気性が穏やかというのは本当で、一度落ち着いてしまえば、安全だった。


 そんなドラゴンに見守られる中で、僕たちはとうとう肥料を手に入れることができた。


「この山の新鮮な土。それをプラン様の『草取り』の能力で、品質を底上げできました。間違いなく、この肥料を使えば、ユグドラシルフラワーが咲くはずです。ついに、です」


 リーネさんが、頬を紅潮させながら大事そうに土を手に取った。


 ともかくこれで土の採取は終わりだ。


「では戻りましょうか。花の国フラワーエデンへ」


「はい」


 あとは実際に咲かせるだけだ。


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