第38話 一刀両断の葉っぱカッター


その時、カルゴたちは死を覚悟した。


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


「「「ひ、ひぃ……。な、なんだよこれ……」」」


 数十日かかってようやくたどり着けた山。

 そこで、ドラゴンに遭遇した。

 ドラゴンの中では小さい部類に入るだろう。それはワイバーンだった。しかし、その強さはドラゴンの名に恥じず、翼を広げて雄叫びをあげただけで、カルゴたちは腰を抜かしてしまっていた。


 地面には、ゴロゴロと転がっている岩があり。

 たとえ動けたとしても、逃げるのはほとんど不可能だ。


 転げ落ちるように斜面を転落すれば、逃げることはできるかもしれない。しかし、そうなった場合、どちみち体を殴打して死ぬ。すでに、詰んでいる状態だった。


「お、お前ら、腰なんてぬかしてんじゃねえ……! た、立ちやがれよ、腰抜けが!」


 カルゴは剣を杖代わりにして、なんとか立ち上がった。


「くそ……」


 アードも震える足でなんとか立ち上がり、


「ぐ……」


 ゲーラも震えながら立ち上がる。


 前衛のカルゴ、中衛のアード、後衛のゲーラ。

 敵はワイバーン。


 自分たちの目的はドラゴンの討伐だ。

 だったら、この敵が丁度いい敵なのは間違いない。


 大丈夫なはずだ……。怯みさえしなければ、勝てないはずがない。


「ゲーラ!」


 アードが叫ぶ。


 そこで、ゲーラが杖を構え、牽制の魔法を放った。

 それがワイバーンの顔に向かって飛んでいき、二人もワイバーンに向かって走り出した。


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 威嚇するワイバーン。

 そしてついに、二人の剣がワイバーンの首筋に届く。


 直撃すれば、この首は真っ二つだ。

 そうなれば、自分たちの勝利だ。


 しかし、


「「……あ、がッ」」


 ブァンッ! と剣がワイバーンに到達した瞬間、その剣はワイバーンの前足の薙ぎ払いによって砕け散っていた。

 そしてその爪が掠っただけで、カルゴとアードの足は地面から離れることになる。


「「……がはっ」」


 口から出るのは血。

 地面を転がりながら、二人は早くも瀕死の状態になってしまった。


「や、やっぱり無理だったんだよ……。僕たちじゃ勝てないんだ……」


 目の前のその光景にゲーラが戦意を喪失させて、逃げようとする。


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


「ぐはぁ……ッ!」


 しかし、ワイバーンが一度翼を羽ばたかせただけで、発生した風圧によって足をもつれさせるゲーラ。


 転倒し、近くにあった石に顔をぶつけ、歯が折れて。


 そこに飛んできたワイバーンが、ゲーラの頭を鷲掴みにし、ガンガン!と地面に打ち付けて、カルゴたちがいる場所へと投げ捨てた。


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 地に倒れる、血まみれの三人。


 それは、軽々しく、ドラゴンの生息する山に足を踏み入れた者の成れの果ての姿だった。


 三人はこの山に足を踏み入れるべきではなかったのだ。


 ワイバーンが空へと飛翔する。


 そして、空中から降下して、わざと当たらないように三人のそばに鉤爪を突き刺して威嚇する。


「「「いぎゃああああああああ……ッッ!」」」


 ジワジワと殺しているのだ。

 幼体のワイバーンは、獲物のいたぶり方をこうやって学んでいくのだ。


「な、なんだよ……。やめてぐれよ……! たずけでぐれよ……!」


「いやだいやだいやだ、死にたくないいいいいいいいいいい!」


「ぼ、僕が、どうしてこんな目に合わないといけないんだああああああ!」


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 バシン、バシン、バシンと、ワイバーンが尻尾を地面に叩きつける度に、三人が泣き叫びながら、嗚咽を漏らす。

 もはや地獄だった。


(ここにあいつがいれば……。プランがいれば……)


 そんな虫のいいことを考えるカルゴ。


 自分が追い出したのに。自分が見下したのに。


 今のカルゴや他の二人は、プランのことを渇望していた。


 草取りのスキルで瞬時に薬も作ることができるプラン。

 今、この場にプランがいれば、どうにかなったのかもしれない。


 そもそも……あの時の選択が間違っていたのだ。



『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』



「いやだああああああああああ””……!」


 泣き叫ぶカルゴたち。

 しかし、いくら考えても、もう手遅れだった。

 死ぬまで、ここでいたぶられて、そこで待っているのは餌としてワイバーンの糞になるぐらいだ。


 迫る鉤爪。空を切る尻尾。獲物を弄ぶ鋭い瞳。


 もう、不可能だった。


 なすすべなんてなかった。



 そして、ここで足音が聞こえてきた気がした。


「葉っぱカッター」


 ヒュンヒュンヒュン、と音がして、何かが飛んでくる音もした。


 そして次の瞬間だった。


 ズシャアアアアア……ッ! とワイバーンの首が真っ二つに裂けていた。


「な、なんで、お前がここに……」


 そして、ワイバーンの血が降り注ぐ中、カルゴたちの目に入ったのは、飛んでいく葉っぱカッターと、自分が追い出したプランの姿なのだった。


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