第34話 ひまわりの花言葉


「ああー! プランくん! 肥料だよ! 肥料を工夫すれば、いけるかも……!」


「!」


 ……盲点だった!



 さらに数日経った頃。

 アリアさんの一言で、ようやく手がかりを見つけることができた。


 そうだ、肥料だ……!

 この国では花を植える際に、肥料を使ったりはしないないらしい。肥料がなくても、土の状態がいいからだ。

 だからこそ、失念していた。肥料も重要だったのだ。


「なるほど。肥料……ですか。普通の肥料ではかえって逆効果になりかねませんけど……プラン様の【草取り】の能力がうまく噛み合えば、もしかしたら咲かせることができるかもしれませんね」


「……やっぱり! リーネさん、ついに、見つけました! ね、プランくん!」


 アリアさんが僕を抱きしめながら嬉しそうな顔をしている。

 でも、その気持ちはよく分かる。

 ここまで長かったのだ。


「では、肥料のことなら、専門の詳しい子がいます。彼女に聞きにいってみましょうか」


「「はい!」」



 * * * *



 街の外壁に近い場所。

 そこにも花壇があり、何も植えられていない土の光景が広がっている。


 そして花壇のそばで地面をペタペタと触っている少女がいた。

 黄土色の髪をして、ワンピースのような涼しげな格好をしている女の子で。


「あら」


 こちらに気づいてくれたようで、作業の手を止めた彼女は手をパチパチとはたいて、手についた土を落としていた。


「彼女はシトリアという子です。ここの花壇で土の研究をしてくれている子です」


 そうリーネさんが教えてくれて、その子は白いワンピースを揺らしながら駆け寄ってきてくれて……。


「あら、ご機嫌よう。土塊ども。私の花壇に入ろうとしたら、土に埋めるわよ」


「あと、彼女は少し気難しい性格をしていますので、ご注意ください」


 片手で拳を握り、どこか警戒するようにこっちを見ているシトリアさんに応戦するように、リーネさんも構えていた。


「「ぴ、ピリピリしてる……」」


 バチバチバチ……! 


 と、雷のようなものが二人の間で拮抗しているように見えるのは、多分気のせいではないだろう……。


「……それで、一体何をしにきたのかしら、リーネ。あなたはこの前、この土を勝手に掘り起こしたから、ここは出禁と言ったはずよ」


「あれは必要なことだったのです。どうしても泥団子が必要だったから、あなたの土が欲しかったのです」


「……勝手に人の大事な土を、泥団子に使わないで!?」


 シトリアさんが足で地面を踏んで、グサッという音がなった。


「……それでなんですの。今日もまた私の邪魔をしにきたんですの?」


 シトリアさんが警戒したままで、リーネさんに問いかける。


「今日はお客様をお連れしました。こちら、アリアさんとプラン様です」


 リーネさんが僕たちを紹介してくれる。


「ふぅーん。この方が今話題のプランとかいう方なんですの。なんでもあなた、最近この国の話題を独り占めしてるんですってね。そんなあなたには、これがお似合いですわ」


 警戒をしたままのシトリアさんが、懐から一本の花を取り出して、僕に渡してくれた。


 それはひまわり。


 黄色い花びらが咲いていて、それに囲まれるように中央にはタネがびっしりと埋まっている、あのひまわりだ。


「あなたにかける言葉なんてそれで十分ですわ」


「……シトリアは回りくどい女の子ですので、プラン様、それはどこかその辺に埋めておいてください」


「……埋めないで!?」


 そう言ったシトリアさんの頬は少し赤くなっていて、彼女の青色の瞳がうるうると揺れていた。


「あ……っ。確かひまわりの花言葉ってーー」


「……やめて!? 気づいても、今ここではバラさないで!」


「むぐ……っ」


 僕の隣で呟いたアリアさんの口を、シトリアさんは慌てて手で塞いでいた。


「ええ、ひまわりには、あなただけを見ている、と言った意味が込められています。つまり、シトリアはプラン様に自分の気持ちをさりげなく花言葉で告げたのです」


「いやあああああぁぁぁ〜〜〜! 言わないでって言ったのにぃ〜〜〜!」


 両手で顔を覆って、叫ぶシトリアさん。


 僕はひまわりを持ったまま、動けなくなる……。


 そして、シトリアさんは、とうとう我慢できなくなったと言ったように、僕のそばまで来てくれて、


「バレたのなら、しょうがありませんわ! ……プラン様、好き〜〜〜! やっと会えましたわ〜〜〜!」


「むぐ……っ」


 ……ああ、柔らかい感触が……。


 両手で、愛おしいものを抱きしめるように抱擁をしてくれるシトリアさん。

 そんな彼女の態度はさっきまでとは真逆で、もう離さないと言ったようにきつく抱き締めてくれる。

 頬ずりとかもしてくれる彼女は、とにかくいろんなところが柔らかくて、甘い匂いもした……。


「……プラン様が悪いんですのよ? ……私がどれだけ待ったと思ってるんですの? 私の花壇にいつ来てくれるのかしらって、ずっと待ってたんだから……、プラン様はいじらしいですわ……?」


「……し、シトリアさん?」


 シトリアさんの瞳から、ハイライトが消えていた。

 その瞳を僕に向けてくれる。


「……私のプラン様。……私だけのプラン様。こうなったらもうどこにも行けないように、私のそばに閉じ込めておかないと行けないかもしれませんわ。この国の王女様を救ってくださったプラン様。……大丈夫ですわ。これからは私がたっぷりお世話をしてあげますから……。ね♡」


「あ、ちょっとおおぉぉ……!」


 僕の服の中に、彼女の細い手が入り込む。それから僕は土のベッドの上に押し倒されて、いろんな場所をまさぐられ始めた。


「ああ……! ぷ、プランくんがお婿さんになっちゃう……!」


 とそう言ったのは、アリアさんで。


「プラン様のズボンの下のひまわりを、開花させる時です」


「「……リーネさん!?」」


 リーネさんは剥かれる僕を見て、頬を染めながらそんなことを言うのだった……。


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