第35話 外出許可証に二人の印を。
「ああ……、ぷ、プランくんがお婿になっちゃった……っ」
アリアさんが頬を赤く染めながらそわそわしていた。
「〜〜〜〜っ」
僕は顔を赤くしながら、土だらけになっている自分の着衣を整える。
「も、申し訳御座いませんでした……。私ったら、いけない……」
と、反省しながらも、もじもじと太ももを擦り合わせて、赤い頬で息を荒げているのはシトリアさんで。
「ごちそうさまでした」
「「……この人はブレない!」」
リーネさんが満足そうに綺麗なお辞儀をして、僕のズボンの下を見て頬を赤く染めていた。
……とにかく、この花壇を担当しているのが、シトリアさんと言う人で、彼女は肥料とかの研究をしているとのことだった。
それと、彼女は僕たちがこの花壇に訪れるのを、ずっと待っていてくれたみたいだった。
「プラン様のことは私も聞いております。この国の王女、カレストラ様を救ってくださった方ですわよね。……わ、私も、そんなプラン様をお慕いしているのです……。ですので、先ほどのようなことをしてしまいました……。本当に申し訳御座いませんでした……」
「あ、いえ、僕なら全然……」
「「〜〜〜〜ッ」」
ああ……さっきのことを思い出すと、なんだか恥ずかしくなってきた。
それでもシトリアさんも優しそうな人だった。この国の人はみんな優しい人ばかりなのだ。
そんなシトリアさんに今回この花壇を訪ねてきた理由を話す。肥料があれば、ユグドラシルフラワーを咲かせることができるかもしれないということ。
「まあっ、ユグドラシルフラワーを咲かせようとしてるんですのね。では、色々試してみましょうか」
「「よろしくお願いします」」
それから僕たちはシトリアさん立会いのもと、彼女が持ち合わせている肥料を分けてもらって、試すことになった。
しかし……。
「「「……惜しい……!」」」
「……もう少しですのに!」
やっぱり肥料を使った時の方が、結果は良かった。
だけど、どうしても一定以上を超えると枯れてしまう。
「しかし、プラン様の【草取り】の能力は、肥料にも作用するようですね」
「ええ。本当にすごいですわ。ここまで肥料の質が上がるなんて思いませんでしたし、ユグドラシルフラワーが芽吹くこと自体が既に信じられないことですもの」
感心したように、芽を見ているシトリアさん。
「他にも色々試してみましょうか。肥料の配合をいじれば、何か分かる事があるかもしれません。私も、楽しくなってきました」
その後、シトリアさん監修の元、肥料の調整をしてもらう事になった。
そうしている時のシトリアさんは楽しそうで、小麦色の髪を土で汚しながら、夢中で肥料と向かいあっていた。
* * * * *
それから僕たちはシトリアさんにお礼を言って彼女の花壇を後にすると、城にあるカレストラさんの部屋へと向かうことにした。
すると、
「リーネばっかりずるい! シトリアちゃんと、土遊びをしてる……!」
頬を膨らませたカレストラさんが、頬を膨らませてリーネさんのことを見ていた。
そこにはメイド服を土で汚したリーネさんがいて、まるで子供のように無邪気な笑みを浮かべている。
肥料の調整が終わった後、リーネさんはシトリアさんと土を使って遊んだりもしていた結果、泥んこになってしまったのだ。
「それで、シトリアちゃんのところで肥料は手に入ったのでしょうか……?」
「いえ、手に入りませんでした。後少しのところまではいくのですが、あそこの土でもユグドラシルフラワーを咲かせるまでには至らないそうです」
「そうでしたか……。難しいですもんね」
リーネさんが報告をする。
シトリアさん曰く、肥料を使う事自体は間違っていないという。
しかし、色々試して見たところ、恐らくこの国で手に入る肥料では難しいとのことだった。
「ですが、その後、彼女に協力をして貰って話し合った結果、とっかかりを掴むことはできました。龍種が生息している地帯の土があれば、もしかしたら咲かせることができるかもしれません」
「龍種が生息している場所……。つまり、国の外ですね」
「はい」
「では、国の外に出る許可を取りに、私の所に来たのですね」
「はい」
リーネさんが頷き、答える。カレストラさんは椅子に座り直し、真剣な顔になった。
この国に来た時に、僕たちは同意していた。
この国に入ったら、基本的に国の外に出ることはできない。
それがこの国の決まりだと。
今回、カレストラさんの部屋を訪れたのは、国の外に出るための許可をもらうためだ。
ちゃんと許可をもらわないと、迷惑がかかってしまう。
「その意味は理解しているつもりです。私も、プラン様も、アリアさんも、きちんと心得ております。ですので、カレストラ様。どうか、国の外に出る許可をいただけないでしょうか」
「……分かりました。許可をします」
「「……いいんだ!」」
すんなりと出た許可。
「ええ。そもそも、国の外に出てはいけないというのは、何も特別な事情がない場合に限ります。今回はユグドラシルフラワーを咲かせるため、と言ったきちんとした事情がありますので、止める理由にはなりません」
カレストラさんはそう言うと、「こちらに」と言って、手で僕に自分の前に来るように促してくれた。
僕はカレストラさんの元へと行き、デスクを挟んで彼女と向かい合った。
「花の国フラワーエデンの王女カレストラ・エデンの名において、プラン様の国外への外出を許可します。あなたがこの国のために動いてくださっているのは、私も知っておりますので、どうぞ、これをお受け取りください」
「あ、ありがとうございます」
僕は頷くと、いつもとは違う雰囲気のカレストラ様から外出許可が記されている同意書を受け取った。
「私が印をした所に、プラン様の印をお願いします」
カレストラさんはそう言うと、優しく僕の手を握り、インク代わりに使用される花へと誘ってくれた。
そして指先をその花びらの蜜へと触れさせて、外出許可証に印を押す。
「確認いたしました。これにより、正式にプラン様の外出が認められます。花の国フラワーエデンの民としての外出になりますので、それを心の内に留めておいてください」
僕は頷き、礼をした。
その姿をカレストラさんは真っ直ぐな瞳で見てくれていた。
外出許可証には、僕とカレストラさんの重ねられた印が赤く交わっていた。
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