第33話 私のことも意識してくれないと、ダメなんだからね……?

 

 そうして始まったユグドラシルフラワーを咲かせるための、調べ物。


 分かったことといえば、ユグドラシルフラワーが、幻の花と言われていること。この国ができた当時に一度だけ咲いたことがあるということ。

 しかし、その後、芽吹いたことは一度もなくて、ユグドラシルフラワーが咲く時、この国に真の花が咲くだろうーーという言い伝えがあることだった。


 だけど、未確定なことの方が多いから「こうすれば咲かせることができる……」みたいな方法は確立されていないそうだ。


 そんな花を咲かせようとしている僕たち。

 結局……決定的な情報を得ることはできなくて、これからは空いている時間を使って調べ物をしようということになり、その日は解散になった。



 そして、翌日から行動を開始して、朝から昼まで花壇に行き、一仕事を終えたら図書館で本を読むことにしていた。

 そのおかげで、花や植物に関する知識は前よりもついたと思う。



 ……しかし、


「う〜ん、なかなか咲かせる方法が見つからないね」


 アリアさんが頭をぐしゃぐしゃとかきながら、唇を尖らせた。


 時刻は夜。

 窓の外を見ると、暗くなっている。


 ここは僕が泊まっている部屋。

 部屋の中には発光する植物が備え付けられているので、魔力を流せばその植物が明かりになり、部屋を明るく灯してくれる。


 そんな部屋の中で、椅子に座っている僕とアリアさんは本を読みふけっていた。

 最近では、夜もこうやって調べ物をすることが多くなっている。


 アリアさんが僕の部屋を訪ねてきてくれて、二人で本を読んだりしていく。

 たまにリーネさんもいてくれるけど、基本的に夜のリーネさんはカレストラさんの部屋にいることが多いみたいだ。


 だから今は二人だけ。

 夕食も済ませ、お腹も膨れているから、少し眠気も出てきた。


「とりあえず今日はこの辺にしておきましょうか」


 僕は本を閉じて、片付けることにする。


「うん。私ももう頭が限界で、今日は脳が動きそうにないよ……」


 アリアさんはそう言うと、口を押さえてあくびをした。


 アリアさんも眠そうだ。

 そして、本を片付けたアリアさんが立ち上がろうとした時だった。


「あ……っ」


 ぐらりと揺れるアリアさんの体。倒れた先にあるのは、テーブルの角。

 すでに立っていた僕はそんな先へと動いていて、倒れるアリアさんを支えていた。


「アリアさん……大丈夫でしたか?」


「う、うん。プランくんが支えてくれたから、大丈夫だよ?」


 アリアさんが頷いてくれて、こっちを見てくれる。

 ……でも、やっぱり疲れが出たみたいだ。


 そしてアリアさんもそれを自覚したようで、体から力を抜くと、僕に寄りかかってゆっくりと息を吐いた。


「プランくん……。私、疲れちゃた……。今日はもう、プランくんのお部屋で寝ちゃおうかな……」


「ここで、ですか……?」


「うん……」


 コクリと、アリアさんが小さく頷いた。

 今のアリアさんは僕の胸に横顔の頬の部分を当てていて、それは子供っぽい仕草のように見える。


「プランくん、だめ……?」


「いいですよ」


「……いいんだ!」


 パッとこっちを見るアリアさん。

 その顔は驚きに溢れている。


「あ、でも、私たち、前にも一緒の部屋で寝たことがあったよね……」


「はい」


 この国に来る前日のことだ。

 あの時は夜更かしをして、いろんなことを話した。


「懐かしいね……。あれからもう結構経ってるよね」


「はい。あっという間だった気がします」


 この国に来てから、時間の流れが早く感じる。

 今までは冒険者として、ずっと命がけだったから、そういう時もある意味では時間が流れるのが早かったけど、今はそれとは違う。これが充実している時間なんだと思う。


「あの日から私たち、ずっと一緒にいるよね。毎日おしゃべりしてるし、今はこうやってプランくんのお部屋に夜もお邪魔してるね」


「そうですね……」


 そう考えると、本当に今は満たされているんだと実感できた。


 とりあえず僕たちは寝る準備を済ませると、眠ることにした。

 アリアさんがベッド、僕が床に布団を敷いて、部屋の明かりを消すことにする。


「アリアさん。おやすみなさい」


「う、うん。プランくん、おやすみなさい」



 パチリ。



 消える電気。あとは静かな夜の時間が流れていく。


「……本当に私、プランくん部屋に泊まってる。でも私が求めていたのは、こういう感じじゃなくて……もっと、恋人とかそういう感じのやつなのに……」


 もぞもぞと動くベッドの中から、かすかな音が聞こえた気がしたけれど僕の意識はまどろみの中に溶け始めて……、


「……これは問題かもしれない。女の子ばっかりしかいない国にいるせいで、プランくんに女の子耐性がついてる……。しかも最近のプランくん、どことなく仕草が女の子っぽくなってきたし……定期的に意識させないと、だめかも!」



 * * * * *



 そして翌日。

 目を覚ますと、僕の布団の中にアリアさんが入り込んでいて、


「プランくん、おはよっ。えへへっ」


「……あ、アリアさん!?」


 アリアさんは寝起きの僕を抱きしめると、笑顔で頬ずりをしてくれる。

 でも、どうしてアリアさんが僕の布団に!?


「なるほど。これは一本取られましたね」


「せっかく、朝からプラン様に会いに来れたのに、アリアさんもズルい!」


「……カレストラさん!?」


 そんな僕とアリアさんを部屋の入り口のところで見ていたのは、感心した顔のリーネさんと、頬を膨らまして不満そうにしているカレストラさんでーー。


「えへへっ。プランくん、私のこともちゃんと見てくれないと嫌なんだからね? ……ちゅっ」


 そんな二人に見せつけるように、アリアさんが僕の頬に優しくキスをしてくれるのだった……。


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