第24話 花畑にいる静かな一人の少女


「もう、プラン様のおかげで、草取りもゼレリワーム退治も無事に終わりました! これで今日のお仕事はほとんど終わりです!」


「「「とっても早く終わった!」」」


 みんなが明るい笑顔を見せてくれる。

 これで今日の花壇の仕事は終わりらしい。

 残りは、花びらの手入れとかもあるらしいけど、そっちはプロの仕事だから、それを得意な人が作業を始めるそうだった。


「ええ、プラン様のおかげで安心して作業できるの。彼女たちも、いつもより張り切って作業していると思います」


 ローズマリーさんがそう言うと、花の花びらを一枚一枚丁寧に手入れしている少女たちが、優しく頭を下げてくれた。僕も下げ返した。


「それで、プラン様に今からやってもらいたいのは、集まった雑草の質をもう一段階上げてほしいのです」


「分かりました。それではやってみます」


 集めた草のところへと向かう。

 こんもりと盛られている草に触れて、僕は魔力を流した。


「「「おお……!」」」


 すると、その草が光を帯び始め、集められている草が眩く光り始めた。


「噂には聞いていましたけど、プラン様の【草取り】の能力はとてもすごいです。触れるだけで草の質が一段階に止まらず、三段階ほど底上げされています。これなら、期待以上のものができそうです」


 草を手に取り、頷いてくれるローズマリーさん。


「それでこれを何に使うのかと言うと、これでジュースを作ろうと思うのです」


「ジュース……」


「野菜ジュースみたいな感じですか?」


 アリアさんが尋ねる。


「はい。そうなる予定です。しかしやはり雑草なので、口に入れるのには向きません」


 苦笑いをしながらローズマリーさんが教えてくれる。


 それは……分かる気がする。


 基本的に、草というのは苦い。

 薬草とかも苦味があるし、あれはスーッと鼻に抜ける成分があるから、食べられないほどではない。

 でも、普通の草、つまり雑草には魔力が含まれているから、その分、苦くてエグみがあるのだ。


 それを飲もうとするのなら、果物などと一緒に混ぜ合わせて飲むのがいいとされている。


「ええ。プラン様のおっしゃる通りです。でも、そうすると草に含まれる栄養の方が損なわれます。我が国で取れる草は量が多いですので、どうにか有効活用できないかと、現在模索している最中なのです」


 それは自然を大切にする花の国の人たちにとって、大切なこととのことだ。


「それで、目をつけたのが、どうにかして雑草を飲めないかということでした。この国で生える雑草は、花の国の者たちにとってプラスに働く成分を蓄えてありますので。……でも、美味しくない。だからこそ、プラン様の【草取り】の能力でまずは品質を上げていただいたのです。これはプラン様にしかできないことでした」


「僕にしかできないこと……」


「ええ。プラン様の【草取り】の能力は自然にとって、優しい能力です。草も、花も、植物も、プラン様が触れれば、質が良くなります。プラン様は、自然を大切にしている我が国にとって大変救いとなるお方なのです」


「あ、ありがとうございます……」


 そのローズマリーさんの言葉は、本当に嬉しかった。


 この前、カレストラさんも僕の能力を誇っていいと言ってくれていた。この能力を喜んでもらえるのなら、僕も嬉しかった。


「プラン様は能力だけではなく、他の部分も素晴らしいですものね」


「そうですね。プランくんは頑張り屋なので……!」


「あ、ありがとうございます……」


 リーネさんとアリアさんもそう言って褒めてくれる。


「とにかくプラン様のおかげで、草の質が上がりました! あとは、これに必要なものを加えれば、やっとジュースが作れるはずです。そのためにも、あの子に会いに行きましょう」


「「あの子……?」」




 それから僕たちはローズマリーさんに案内されて、花壇を後にすると、別の場所へと向かうことになった。

 その人はそこにいるらしい。今回のジュースを作るために、欠かせない人とのことだった。


 花壇から少し離れた場所にある高台。

 そこは花畑になっていて、そこまでの道は階段になっているから、僕たちはそこを登っていく。


 すると、その時だった。


「ローズマリー様……。申し訳ございません……。私たちはここで待つことにします……」


「せっかくなのでプラン様たちとご一緒したかったのですが、やはりここまでが限界のようです……」


 同行していた少女たちが、ひたいに手を当てて、息を荒くしながら、その場にへたり込んでいた。


「無理はしないでください。ここから先はあの子の影響が強くなるので、体がきつくなります」


 そう言ったローズマリーさんは平気そうだけど、他の人たちはここで休むことにするそうだ。


「私も……なんだか体が重くなってきたかも……」


 アリアさんも同じように、息を荒くしている。


 彼女たちがそうなっているのは、花畑が近くなってきたからだそうだ。


「プランくん、ごめんね。私もここで休むね……。プランくんは平気……?」


「はい。僕は平気ですけど……とりあえずハンカチがあるので、これをどうぞ」


「プランくん、ありがとっ」


 僕はハンカチを取り出すと、アリアさんのひたいに浮かんだ汗をそっと拭った。

 そしてアリアさんが少し楽にしてくれたのを見届けると、少し安心できた。


「私はみなさんの様子を見ておきますので、お二人は先に行ってください」


「分かりました。では、リーネに任せて、私たちは行きましょう」


 そう言ってくれるリーネさんにこの場を任せることになって、僕はローズマリーさんに手を引かれて歩き始める。



 そうして僕とローズマリーさんと花畑へとたどり着いた。


「フレーシア。こんにちわ」


「ローズマリー。また来たのね……」


 色とりどりの花畑、そこにいたのは白い髪をした少女だった。

 花畑の中心にあるベンチに静かに座っているその彼女は、ローズマリーさんに挨拶をすると、その隣にいる僕のことも静かに見るのだった。


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