第23話 花壇で無双する葉っぱカッター


「プラン様、すごい……! いつもは半日かかる作業なのに、たった数十分で終わらせました……!」


 花壇の端の部分に抜いた草を集め終えると、それを見たローズマリーさんが興奮したようにそう言った。

 僕の能力は【草取り】だから、草を抜くことは得意だった。


「しかもプラン様が抜いた草は、とっても質が良くなってます!」


「そうですね。下手な薬草よりも。物凄く効力がある雑草になっていると思っていると思います」


 そう言って感心したように草を見ているのはリーネさんだ。


 これで、草取りの作業は終わったらしい。

 確か、草を集め終わったら、【草取り】の能力を使って、何かやってほしいことがあるということだったけど……。


「ええ、是非、力を貸してもらいたいことがあります。でもその前に……来ます」


「「!?」」


 突如、起こったのは地響き。


 足元がぐらつき、僕とアリアさんは体勢を崩しそうになる。

 それでも僕はアリアさんを支え、そんな僕たちのそばにはリーネさんがいてくれる。


 他の人たちは慣れた様子で、落ち着きながらも周りを警戒していた。


 そしてーー


「「「ジュウウウウウウウウウウウ」」」


「今日も出てきたようです」


 草取りを終えた花壇の土が湧き上がり、そこから現れたのは芋虫のような魔物。

 芋虫というよりも、ミミズと言ったほうがいいかもしれない。

 緑黒いその魔物は人間と同じ大きさで、次々に地面から這い出るように姿を表す。


「こ、これって……」


「ゼレリワームという魔物です」


「「ゼレリワーム……?」」


「ええ。たまに【草取り】を終えると、こうして土の中にいる魔物が出てくるのです。この魔物は花壇から出ることはないし、花を食べることはないけれど、地面から出てきて、地表にある土を食べるんです」


 土を食べる魔物……。それも地表にある土を……。


「空気に触れている部分の土は魔力が多く生まれるみたいだから、それを狙ってこうして出てくるんですよ」


「「「ジュウウウウウウウウウウウ」」」


 地面から出てきたその魔物は、這うように地面を移動すると、地表の土を食べ始めているようだった。


 地中の土は食べないらしい。あくまでも食べるのは、外に面している地表の土。花壇の地表には肥料が撒かれていたり、花びらが落ち、それが地面に溶け込んだりしたことで生まれる栄養があるらしく、ゼレリワームにとってそれはご馳走になるとのことだ。


「でも、この花壇は私たちが苦労して手入れをしている花壇です。黙って土を食べられるわけにはいきません……! だから倒さなきゃ」


 大きな鎌を手に取ったローズマリーさんが、敵の姿を見据えていた。

 他の少女たちも、大きな鎌を持っている。あれはゼレリワームが発生した時に、敵を駆除する時に使う武器らしい。


「難点は、倒した時に汁が飛ぶことなんですよね……。それは土にとっていいんですけど、体についたらなかなか汚れが落ちないから、体調が悪くなります……」


「「「あれだけは慣れない……」」」


 彼女たちの顔には、苦労が浮かんでいた。


 でも、それなら僕でも役に立てるかもしれない。


「ええ、プラン様なら、間違いなく倒せると思います」


 リーネさんも頷いてくれた。


 だから僕は魔力を練ると、目の前の魔物に意識を向けた。

 数は、10匹。それが体を縮こませるようにしながら、地面を這っていて、土を食べている。


「葉っぱカッター」


 だから僕は葉っぱカッターを目の前に作り出して、敵に向かって飛ばした。

 一枚の葉っぱ。それがヒュンヒュンヒュンヒュンと飛んでいき、速度を上げている。


 そして敵に狙いを定めると、その葉っぱが敵を真っ二つにした。


 ズシャ……ッッ!


「「「すごい! 真っ二つになった……!」」」


 その勢いのまま葉っぱが飛び、もう1匹、さらにもう1匹、勢いを落とすことなく、宙を飛翔し、切り裂いていく。

 そして、最後の1匹までも切り裂くと、そこで役目を終えたとばかりにゆっくりと葉っぱが掻き消えた。


「……これで、大丈夫でしょうか……?」


「「「とっても大丈夫です……! 私、ゼレリワームをこんなに綺麗に倒す人なんて初めてみた……!」」」


「ほんとですよ……! いつも憂鬱だった、ゼレリワームの駆除ももう終わりました……!」


 笑みを浮かべたローズマリーさんたちが、手に持っていた鎌を置いて駆け寄ってくれる。


「プランくん! ほんっとすごい……!」


「ええ。いつ見てもプラン様の葉っぱカッターはお見事です」


 アリアさんとリーネさんも僕に身を寄せてくれて。


 明るい日差しが差し込む花壇の中、倒されたゼレリワームはゆっくりと地面に滲んで行き、花を育てる養分として支えになるそうだ。


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