第22話 草取りが得意なプラン様


「私はこの花壇の担当をしているローズマリーと申します。どうぞ、よろしくお願いします」


 目の前にいるローズマリーさんが挨拶をしてくれる。

 青色の綺麗な髪。それが編み込まれてあって、顔の横の部分に垂れている。その髪には黄色い花飾りがつけてあり、彼女は作業服姿だった。

 オーバーオールの作業服を着ている彼女の後ろには、この花壇で作業している他の少女たちも集まってくれている。


「姫様から話は聞いております。プラン様とアリアさんはこの花壇の手入れを手伝ってくださるのですよね。しかし、花に触れる以上、生半可な気持ちでは困りますので、それはご了承ください」


 真剣な顔で大切なことを教えてくれるローズマリーさん。


「プラン様、アリアさん。ローズマリーは真面目な子です。だからこそ、さっきは驚きましたよね。あのローズマリーがはしゃいでいましたので」


 リーネさんがそう言うと、周りの少女たちがうんうん、と頷き。


「私も驚きました! だってあのローズマリー様が『きゃ〜〜! 本当にプラン様が来てくれた〜〜〜! 幸せ〜〜〜!』って言ってプラン様に抱きついたんですもん!」


「お堅いローズマリー様のあんなデレッデレな顔、初めてみました!」


「すごかったよね」


「ローズマリー様、プラン様に頬ずりまでしてたもんね」


「あれがローズマリー様の素なのかしら」


「〜〜〜〜っ」


 ざわざわと囁かれるみんなの言葉に、ローズマリーさんが白い頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうにしていた。


「あら、珍しい。ローズマリーがそんな顔するなんて」


「わ、私だって、プラン様のことは気になってるんです〜。べ、別にたまにはしゃぐぐらい、いいと思うんですけどぉ」


「「「ローズマリー様も、ちゃんと乙女だったんですね。安心しました」」」


「〜〜〜〜っ」


 さらに赤くなるローズマリーさん。

 髪の先をいじりながら、もじもじしている。


「でも、プラン様。こんな格好で、ごめんなさいね。せっかくなので、華やかな格好で出迎えたかったのですが、いつもこの服なので普段通りにすることにしまして」


「あ、いえ、とても素敵なお姿だと思います」


 作業服姿のローズマリーさんや他の皆さんの姿は、様になっていてカッコいいと思った。


 すでに作業はしていたみたいで、土が服についている。

 額に汗が浮かび、そうやって仕事をしている姿は、やっぱり魅力的で、それでいて華やかだと思う。


「「「ぷ、プラン様に素敵だって言ってもらえた。う、嬉しい……っ。〜〜〜〜〜っ」」」


「ふふっ、プラン様が褒めるから、みんな、赤くなってしまいましたね」


 もじもじとし始めた少女たちを見て、リーネさんが可笑しそうにしていた。


「あっ、いえ、そんなつもりじゃ……」


「もうっ、プランくんったら、ここでも優しいんだからっ」


 アリアさんがくすりと微笑んで、僕の腕を抱きしめてくる。


「話に聞いていた通り、プラン様は良い方なのですね。やっぱり私もそんなプラン様とこうして会えて嬉しいです。プラン様……本日はよろしくお願いしますね」


 ローズマリーさんが僕の手を握りながら身を寄せてくれて、他の彼女たちもそばにやってきて微笑んでくれるのだった。




 * * * * * * *




 それから僕たちは、ローズマリーさんたちから花壇のことを教えてもらった後、早速手伝わせてもらうことになった。


「花壇の手入れ作業は、大きく分けて二つあります。一つ、花壇の状態を整えること。もう一つが、花びらの状態を整えること。プラン様たちに手伝っていただきたいのは、花壇の状態を整えることです」


 花壇の状態……つまり、土の状態を見たり、雑草が生えていたら抜いたりする作業になるらしい。


「この花壇は放っておけば、一日で雑草で生い茂ってしまいます。それだけ土の状態がいいということでもありますが、雑草が生えていると、花にいく分の栄養が分散されてしまうので、抜かないといけないのです」


 それが今回、僕たちがやることとのことだった。


「そして抜いた草は、肥料として使えるように別の場所で加工するのですが、とにかく数が多いんですよね。そこで、プラン様には【草取り】の能力を使用してやっていただきたいことがありますので、その時はどうか、力をお貸しいただけると助かります」


「はい。お役に立てるのなら、是非」


 せっかく、自分の【草取り】の能力を有効活用できるんだ。

 それで喜んでもらえるのなら、僕もそうしたい。


「じゃあプランくん、頑張るよ……!」


「「「プラン様、頑張って……!」」」


「お、おー!」


「「「きゃ〜〜〜〜〜! プラン様が、ノってくれた〜〜〜! プラン様、面白い〜〜〜!」」」


 ……そんな感じで草取りを開始。


 ここにいる少女たちはみな明るくて、明るい雰囲気の中、作業を行なっていく。

 僕の隣では作業着に着替えているアリアさんがせっせと草取りをしていて、僕も地面にかがんで草を抜いていく。


 若緑色の草。柔らかい地面に生えているその草を引っ張ると、少しの手ごたえの後、プチっと抜けた。


「……根っこが長い!」


 隣で草を抜いたアリアさんが、根っこの長さを見て楽しそうに笑う。


「ふふっ、そうなんですよ。この国の外の草と比べると、倍以上ありますもんね」


 同じく作業着に着替えているリーネさんが、根っこの長さに驚いている僕たちを見て微笑んでくれた。


「だからこそ、大変なんですよね。この国では、草を抜くだけでも一苦労なのに、翌日にはすでにまた生えてきているから、また抜く必要がありますので」


 確かにこれは、大変だ。

 あと、これは雑草なんだけど、限りなく薬草に近い成分も蓄えているから、握った感じがしっかりしている。

 周りを見てみると、みんな両手で草を握り、踏ん張って草を採っている姿があちこちにあった。


 根っこが長くて、抜きにくいのだ。


 だけど、それでも【草取り】の能力があればーー


「プランくんの方はどんな感じ……? ……って、ええー!? プランくんの後ろに、山盛りの草が積み上がってるー!?」


「「「……!? プラン様、早いっ!? もう、花壇の半分の草が抜いてある……!?」」」


「「さ、さすが、【草取り】のプラン様……!!」」


 僕の後ろにこんもりと盛られている草を見て、みんなが驚いたような顔をしていたのだった。


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