第18話 優しくて素敵な力


 ひとまずカレストラさんとの顔合わせを済ませたあと、僕たちはお茶をしながらいろんな話をすることになった。


 僕たちがこの国に来た理由は、花の国フラワーエデンに招待してもらったからだ。

 本来、誰も招待されず、誰も入れない国。


「ここに来る前にあらかじめリーネから話があったと思いますが、それに関して何か気になったことはありますでしょうか?」


「いえ、特には」


「私も、ある程度決まりとかは覚えました」


 僕とアリアさんがそう言うと、カレストラさんは優しく微笑んでくれた。


 この国に来るにあたり、僕たちはあらかじめリーネさんから花の国に関することについて教えてもらっていた。


 花の国に入ったのなら、むやみに国の外に出るのは難しいということ。

 そして、今までの暮らしとは少し変わるかもしれないということ。


 花の国は、昔からそうやって代々平和が続いてきたのだ。

 今回僕たちがこの国に来たのは、特例なのだから、そういうことは気をつけないといけない。


「もちろん、例外はあります。どうしても必要な時や、何か用事がある場合は、言っていただければ、外にも出られるようにしますので」


 カレストラさんがそう言ってくれる。


 そういうことを理解した上で、僕たちはこの国へとやってきていた。


「それで、これからの僕たちはどのように過ごせばいいのでしょう……」


 何か役目とかはあるのだろうか……。


「いえ、こちらから何かを無理強いしたりすることはございません。プラン様がいてくれるだけで、私は嬉しいのです。プラン様の気が向いた時に私とお話をしてくだされば、それは何物にも代えがたい幸せなひとときになるはずですので、よろしくお願いしますね」


「そ、そこまで言っていただけるなんて……」


 ものすごく褒めてもらえる……。

 いるだけでいいと言ってもらえるなんて、思わなかった……。


「とはいっても、それだけでは暇を持て余してしまうかもしれませんね。なので、もしよろしければ、花壇の手入れなどを手伝っていただけると皆が喜ぶと思います」


「花壇、ですか……?」


「ええ、この国には花壇がいくつかあって、皆でそれを管理しているのです」


「あ、この城に来る途中に私も見たかも! 綺麗だったよね!」


「うん。綺麗な花がたくさん咲いてた」


「ふふっ、褒めてくださりありがとうございます」


 カレストラさんが柔らかく微笑んでくれた。


 僕たちもパッと見ただけだけど、この国の花壇は綺麗だった。

 とにかく広くて、話を聞くところによると、気温が暖かくなれば、そこにある花が一気に芽吹くとのことだ。


 花壇の手入れなら僕でもできるのかな……。

【草取り】があるから、草を抜くのには貢献できると思うけど、花を育てた経験は今までないから、まだ未知数だ。


「あっ、そうです! その【草取り】です! プラン様の能力は草取りなのですよね!」


「は、はい……。あまり、活躍できそうにない能力ですけど……」


「とんでもないです! 【草取り】の能力はとても素晴らしい能力ですよ! 我が国の古い文献にも載ってるぐらい、すごい能力です!」


 カレストラさんはそう言うと、僕の手を握ってくれた。


「そうだ! リーネ、あれはまだ残ってるわよね!」


「ええ、こちらに準備しております」


 リーネさんが一輪の花を差し出してくれた。


 黄金色の花だった。照明の光が反射して、眩く輝いている。


「こちらの花は、私が育てた花です。プラン様、それを手にとって、魔力を使用してみてください」


「こう、ですか……?」


 僕はその花を握ると、魔力を使ってみた。


「「「おお……! 光った……!」」」


 その時だった。

 黄金の色の花が光を帯びて、さらに僕の手まで光っていた。


「それは花に宿る魔力がプラン様に反応しているのです。そうすることで、花の質が上昇します。【草取り】の能力は、花や植物にとって、優しい能力なのです」


「なんだかプランくんにぴったりの素敵な能力だよね」


「はい。お優しいプラン様に、ぴったりです」


 アリアさんとリーネさんが見守るようにそう紡いでくれる。


 でもその能力は、僕も初めて知った……。


 もちろん、薬草などを抜いた時に、その薬草の質が上がるのは知っていた。

 だけど、すでに抜かれている花にもそれが反映されるのは知らなかった。


 そもそも、僕は今まで魔力を使えなかった。

 先日、葉っぱカッターを覚えてから、ようやく魔力が使えるようになったのだ。


「ではプラン様は、まだ草取りの能力の全てをご存知ないのですね」


「はい、そうかもしれません」


 葉っぱカッターのことも知らなかったし、まだまだ知らないことがあると思う。


「では、プラン様は、今まで命を落とした際に発動する【草取り】の能力も、その状態から再び起き上がることのできる『雑草魂』も無意識のうちに使っていたのでしょうね」


「ええー!? それじゃあプランくん、不死身だったの!?」


「そうですよ。プラン様はとても強力な能力をお持ちの方だと思います」


 カレストラさん、アリアさん、リーネさんが期待の眼差しを向けてくれる。


「しかし、知らなくても、それは仕方がないと思います。実際に命を落としてしまえば、少なからず記憶が曖昧になってしまいますし、その能力はあまり周知はされていない能力ですので。それでも、【草取り】の能力は大変素晴らしい能力なのは確かです。ですので、プラン様は自信を持って、その能力を誇ってもいいと思います』


「…………っ」


 カレストラさんが僕の手を握って、優しい言葉でそう紡いでくれる。

 アリアさんとリーネさんもゆっくりと頷いてくれた。


 ずっと使えない能力だと思っていた。

 それで、苦労したこともあった。


 だけど、そう言ってもらえるのは嬉しくて、この前みたいに鼻の奥がツンとする。


 そんなカレストラさんの言葉に、僕は救われたような気持ちになって……。


 これからは【草取り】だということを、胸を張って誇れそうな気がした。


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