第19話 あいつに倒せるのなら、俺たちが倒せないのはおかしい……! (元パーティー)


「くそ……ッ。なんで、どこにもいねえんだ……!」


 カルゴはそう吐き捨てると、地面に落ちている石ころを苛立たしげに蹴った。

 それが足場の悪い地面へと、虚しく転がった。


 現在、カルゴたちは森へとやってきていた。

 プランがAランクになったこと知ったカルゴたちは、未だにその事実を認められずに、自分たちもAランクになろうとしていた。

 自分たちもプランが倒したと言う魔物を倒せば、Aランクになれるはずだ。


 プランが倒したのは、ヴェノムモーズ。キングキャタピラーの成体の、蛾のような魔物だ。

 危険なその魔物は、Aランク冒険者でも倒すのは難しいと言われている。しかも、プランが倒したのはその強化種、ヴェノムモーズアルマなのだ。


 それでも、倒せる自信はあった。

 プランに倒せるのなら、自分たちに倒せないなんてことがあるわけがないはずだ。


 そのためにも、その魔物を探し始めたカルゴたちだったのだが……一向に見つかる気配はなかった。


「どうなってんだよ……ッ。お前ら、サボってんじゃねえだろうな?」


 カルゴが、アードとゲーラに苛立たしげに言う。


「当たり前だろ。どれだけ探しても、見つからねえんだよッ!」


「く……見つかりさえすれば楽勝なのに……」


 アードとゲーラも、苛立っている様子だ。


 すでに、ヴェノムモーズを探し始めて数時間が経っているものの、全然見つからない。

 プランが倒した魔物、ヴェノムモーズアルマどころか、普通のヴェノムモーズすら見つからない。

 もっと言えば、その幼体であるキングキャタピラーすらも見つからない。


 草原を探し、森にまで入った三人だったが、成果は一切なかった。


「今まではこんなことなかったはずなのに……ッ!」


 そう、いつもは割とすぐに、倒すべき魔物を見つけていた。

 冒険者にとって、無視できないのが、そういう時間だ。

 実際に魔物と戦うよりも、魔物を探したりする方が、時間がかかるのだ。


 いつもは、その時間を最小限に抑えられていた。


 だけど、今日は違う。


 どうして……。


 ……その理由は考えなくても、すぐに分かることだった。

 プランがいないからである。

 毎回、依頼を受けて魔物を討伐しに行った時、いつも魔物を見つけていたのはプランだった。


 能力に恵まれなかったプランは、そういうことをしてパーティーに貢献していた。

 そのプランの技量はすでに冒険者として一流のものだったが、カルゴたちがそのありがたさに気づくことはなく、プランがいないと魔物一匹見つけられないパーティーが出来上がっていた。


「くそ……ッ!」


 苛立たしげに、地面を踏みつけるカルゴ。


「見つかりさえすれば、倒すのは楽勝なのに……ッ!」


 歯がゆい気持ちを地面にぶつける。


「おい、ちんたらしてんじゃねえ! お前らも早く、探せ」


 舌打ちをしながら、アードとゲーラに言い捨てる。


 その後、三人はバラバラに散り、ヴェノムモーズを探していった。

 森の中の深い部分まで足を踏み入れ、そこにもいないとなると、別の森林にまで足を運んだ。


 そして数時間後……ついに発見した。


「くそ……ッ。キングキャタピラーじゃねえか」


「もう、あいつしかいねえよ」


「ひとまずあいつを倒せばいいさ」


 森の近く、そこにいたのは全身に毛が生えた毛虫の魔物、キングキャタピラーだった。

 すでに、日は沈みかけている。

 数時間かけて、ようやく見つかったのはそれだった。


 それでも、もうあいつを倒すしかなかった。

 今からだと、新たに探すのは無理だろう。


「ザコが。瞬殺してやる」


 三人は武器を構え、キングキャタピラーと戦闘を開始する。


 ……しかし、次の瞬間だった。



『ジュウウウウウウウウウウウ』



「「「ぐぁああああああああああ”””……ッ」」」


 ……三人が駆け出そうとした瞬間、腹を貫かれていた。


 キングキャタピラーが全身の毛を逆立てた時には、すでに終わっていた。

 その針のような毛を飛ばし、三人は容易く腹に風穴を開ける。


 一瞬だった。

 手も足も出す暇もなく、三人は血を吐き出しながら倒れた。


「お、おい……。早く回復薬を出せ……! ガハ……ッ」


 カルゴが苦しげに言う。


「んなもん、持ってねえよ! おい、ゲーラ、お前のよこせ……!」


「僕も、持ってるわけがないじゃないか……」


「お前、使えねえな……! この役立たずが……!」


 激痛の中で、三人が仲間割れを起こした。


 冒険者にとっての必需品、回復薬。

 必ず持っておかなければいけないそれを、三人は持ってなかった。


 なぜなら、それはいつもプランが用意してくれていたからである。

 もっと言えば、プランならその場の薬草を使用して、回復薬を作れもした。


 そんなプランがいたから、今まではどうにかなっていた。

 しかしそんなプランはもういないから、誰も用意していないのだ。


 ……その結果がこれだ。


『ジュウウウウウウウウウウウ』


 倒れている三人に、這って近づいてくるキングキャタピラー。


「「「お、おい……、まずいって……」」」


 三人は激痛を感じながら、顔を真っ青にして、どうにもできずにいる。


 プランが倒したのは、ヴェノムモーズアルマ。

 それよりも何段階も劣るキングキャタピラー相手にこれだ。


 三人は明らかに、実力不足だった。

 Aランクの足元にも及ぶところか、その実力はDランクもあればいいところだ。


 そんな、三人がこれまでやってこれたのも、プランのおかげだ。

 ここにプランがいれば、このピンチの中でも【草取り】の能力を発動させて、自分の命が尽きるとともに発動する能力で敵を倒せるのだ。


 そして、意識を失い、自分が魔物を倒したとは思っていないプランの手柄を横取りして、三人はこれまでランクを上げてきたのだ。


 つまり、今の状況は自業自得。

 これは、その実力に見合っておらず、愚かなことをしてきたことによる報いでーー。


『ジュウウウウウウウウウウウ』


「「「や、やめろ……。ぃぎゃああああああああああ”””……ッッ!」」」




 その日、三人組の冒険者がキングキャタピラーを倒せずに、重傷を負うといった出来事が起きた。


 それにより、その三人は明らかに実力がランクに見合っていないと判断されて、その他にもその原因を調査された結果、Bランクから一気にDランクへと降格されることになり、そんな彼らに同情するものは誰一人としていないのだった。


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