第13話 プランがAランクになったなんて、認めたくない……! (元パーティー)


「冗談だろ!? プランがAランクになっただって!?」


 その日、冒険者ギルド内にそんな男の声が響いていた。

 それはプランを追放したパーティーのリーダーだった、カルゴの声だ。


 カルゴ以外にも他のメンバー、アードとゲーラがいて、二人も信じられないような顔をしている。

 そんな三人はとある噂を聞いたのだ。それは、プランがAランクになったという噂だった。


【草取り】で、どれだけ努力しても冒険者ランクがEランクから上がらなかったプラン。

 戦力にならなかったから、このパーティーから追放したプラン。


 そんなプランが、Aランクになっただと……ッ!?


 それを知ったカルゴたちは、こうして慌てて冒険者ギルドへとやってきていた。

 ……そんなことがあるはずがない。

 プランのランクが上がったなんて、誰かが適当に流したいい加減な嘘だ!


 三人はそう思ったのだが……どうやらそうでもないらしいのだ。


「おい! 一体どういうことだ! 何かの間違いじゃねえのか!?」


「個人情報に関することですので、それはお教えできません」


 ギルドの受付で聞かれた職員は、淡々とした口調でそう言った。


「くそ……!」


 カルゴが悪態をつく。

 そして周りを見る。

 冒険者ギルドでは、Aランク冒険者に昇格したものが出れば、大抵そのことは周りに広がっている。

 だから、ここにいる冒険者たちの中に何かを知っている奴がいるかもしれないと思った。


 プランがもしAランクに上がったのだとしたら、それは、カルゴたちにとって何よりもプライドが傷つけられることだった。

 ようやくこの前、自分はBランクに上がった。だから、あの【草取り】で使えないプランを見下すだけ見下して追放したのだ。アードとゲーラもそうなのだ。


 それなのに、ずっとEランクだったプランが、自分たちを追い越してAランクになったと言うのは、信じられない。


「あいつは俺たちの寄生虫だったからな。【草取り】でザコだったあいつは、俺たちのおかげで今までやってこれたんだ……ッ!」


 だから、あいつが俺たちよりも上を行くはずがない……ッ!


 ……しかし、三人は目にすることになる。

 実際にプランが、Aランクに上がることになった証拠を。


「は? プランが寄生虫だって? 逆の間違いだろ。お前らの方がプランの寄生虫だったんじゃねえのか?」


「なんだと、もういっぺん言ってみろ……ッ!」


 一人の冒険者が呆れた口調でカルゴに言うと、その冒険者に掴みかかるカルゴ。

 それでも、その冒険者は涼しげな様子で、ギルドの一点を顎で指し示した。


「信じられねえなら、見てこいよ。プランが推定Aランクのヴェノムモーズを倒した証拠があるからよ」


「「「……ッ!」」」


 そして、三人は実際に見て……言葉を失った。

 ギルドのスペース。そこに展示されているのは、真っ二つになったヴェノムモーズの姿だった。


 ギルドでは珍しい魔物が討伐された際に、それを展示して、多くの冒険者たちが目にできるようにする催しがたまにある。

 誰が倒したのか、誰が何を達成したのか。

 それを周りに知らしめることで、力ある冒険者の実力を轟かせるのだ。


 そして目の前にあるヴェノムモーズを倒したのが、プランということになっていた。

 自分たちの体の数倍はある昆布茶色の蛾。それを倒したのがプラン。


「嘘だ……。あいつ、何かズルでもしたんじゃねえのか……ッ!?」


 三人は信じられなかった。


「はぁ!? まじ、ありえねえだろ……ッ!」


「これは……何かの間違いじゃないと、おかしいね」


 アードとゲーラの顔から、余裕がなくなる。


「おい、プランはどこ行った! あいつに直接問い詰めてやる!」


「プランならもういねえよ。あいつはAランクにふさわしいところに行ったんだからよ」


「くそ……!」


 周りの冒険者が事実を告げた。


 それを聞いたカルゴたちは、それでもプランの功績を認められなかった。


 周りの冒険者たちは、すでにプランの実力を認めている。

 今までくすぶってきて、それでもついに芽吹いたプランが自分たちを超えたことを、冒険者たちは素直に祝福しているのだった。


 しかし、三人だけはそれを認めることはできない。


 ……あいつは自分たちより下なんだ。

 ……あの【草取り】だけの奴が、自分たちよりも優れているわけがない。

 ……それでもこのパーティーに入れてやっていた。そう、あいつは寄生虫だ。使えなくても、俺たちのパーティーに特別に入れてやっていたんだ。


「……そもそもヴェノムモーズぐらいなら、俺でも余裕で倒せるぜ」


「ああ」


「そうだね」


 それは、明らかに見栄を張っているだけだった。


 三人は事実を直視できず、ギルドを出ることにする。

 ヴェノムモーズを倒しに行くことにしたのだ、


 プランにやれるのなら、俺たちも余裕で倒せるはずだ。



 ……しかし、数時間後、三人は知ることになる。



 自分たちにそんな実力がないと言うことを……。


 寄生虫は、自分たちの方だったということを。


 三人の実力は、プランの足元にも及ばなかったことを……。


 三人のこれからの転落は、もはや避けようもないことで、カルゴたちはこれから想像もできないほどの苦しみを味わうことになるのだった。


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