第4話 何もできないのはもう嫌だ。


 誰かを救って、お礼を言われる。

 僕もそういうことに、憧れた時期があった。


 身近な人を助けたり、初めて会う人を助けたり、もしかしたらお姫様を助けたり……とか。


 ……だけど、自分がそうなれないのもなんとなく分かった。

 流されやすく、うじうじしている。それでも能力が分かるまではまだ希望を持っていたけど、自分の能力が【草取り】だと分かった時、それは決定的になった。


 それからの僕は、結局見ているだけの存在になってしまった。

 冒険者をやっていると、恐ろしい魔物と誰かが戦っている姿をよく目にして、僕はそれを離れた場所から見ていることしかできない。



 ……ちょうど、今みたいな感じに。


「誰かが魔物と戦ってる……」


 街から少し離れた場所の草原で、魔物と人間が戦っている。

 遠くてはっきりとは見えないけど、二人いると思う。

 そして魔物の方は……結構、大きい。


 あれはキングキャタピラーだと思う。

 全身が毛で覆われている、大きな毛虫だ。

 黒いその毛虫の頭の部分が赤くなっていて、あれは害虫が巨大化したもので、人間よりも5倍ぐらい体の面積が大きい。


 それが……5匹いるように見える。

 でも……確かキングキャタピラーは危険な魔物だと言われているはずだ。

 1匹でも湧けば、その周辺の草は枯らされてしまい、今度一切生えなくなると言われているぐらいだったと思う。


 それが……5匹。

 厄介なのは、鋼鉄の毛を飛ばして、人も襲ったりすることだ。


 僕は離れたところから、目を凝らしてその様子を見てみた。


 魔物のそばにいる人の方は……あとずさっていて、キングキャタピラーから逃げようとしている雰囲気がある。


 ……それが分かった時、自分の中でヒヤリとしたものが駆け巡った。


 ……冒険者が魔物と戦っていたと思ったけど、あれは戦ってるんじゃない。襲われてるんだ。しかも、状況は多分悪い。


 その証拠に、その二人の人物はキングキャタピラーの意表をついて、一気に駆け出した。


『『『ジュウウウウウウウウウウウ』』』


 それを追うキングキャタピラー。


 地面を這い、土煙を起こし、逆立てた毛を打ち出そうとしている。

 走る速度は速く、すぐに追いつかれてしまうのが簡単に想像できた。


 つまり……あのままだと、あの二人は危険だということで、


「…………っ」


 僕は腰にある剣を抜いていた。


 自分でも驚くぐらい無意識の行動だった。


 そんな僕は駆け出していて、魔物の方へと走っていた。


 走りながら街の方を見ても、周りにはどこにも他に冒険者なんていない。


 助けを望むことは絶望的で、今この場で動けるのは僕だけだった。


 それでも、これが無謀な行動だというのは自分でも分かっていた。


「僕じゃきっと倒せない……」


【草取り】だから。

 戦闘力は皆無。何より【草取り】の能力が分かってからは、筋力も一切上がらないようになっている。


 だから……助けに行っても、僕の死体が転がるだけだ。


 それでも……このまま何もしなかったら、僕はいろんな意味で終わる気がした。


 逃げても終わる。逃げなくても終わる。


 だったら……。


「こっちだ……!」


 僕は走りながら、ポケットに入れていた草を取り出して握りつぶした。


 これは魔引草。

 魔物の注意を引きつける草で、緑色の汁が僕の手のひらから滴り落ちる。


『『『ジュウウウウウウウウウウウ』』』


 充満したその草の匂いに魔物が気づいたようだ。


 狙い通り、魔物の意識が一斉にこっちを向いた。

 もう一度、魔引草を握りつぶして、魔物に手のひらを向けた。


「こい……!」


 僕でも足止めぐらいならできるはずだ。


 見ているだけで、何もできないのは、もう嫌だった。


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