第3話 応援してくれる女の子


「プランくん、今、大変なんだよね……。でも、頑張ってて偉いね。そんなプランくんには、このお弁当食べて元気出してほしいなっ」


「あ、ありがとうございます……」


 ベンチに座っているアリアさんが、隣にいる僕の膝に包みを置いてくれた。

 それは暖かいお弁当で……その暖かさを感じると心まで温かくなった。


 アリアさん。

 茶色の髪、年は僕と同じか、少しだけ年上のような雰囲気がある女の人だ。

 柔らかい印象を受ける彼女は、大きな黄金色の瞳を向けてくれる。


 アリアさんとは、よく街で会うことが多い。

 そして、こんな風にお弁当をくれることも、今まで何度もあった。


「うんっ。だってプランくん、いつも頑張ってるから、見かけたら応援したくなるもんっ。……っていっても、そのお弁当は昨日の残り物で作ったやつだから、ごめんね」


「い、いえ、とても嬉しいです」


「ふふっ、ならよかったっ」


 微笑んでくれるアリアさん。

 本当に嬉しい。


 アリアさんがくれたお弁当は、何か尊いようなものに見えた。

 包みを開けてみると、丸々と入っている肉、バランスのいい野菜。綺麗なご飯で、食べるのが勿体ないぐらいだ。


 でも……ここまでやってもらってもいいのかとも思う。僕はアリアさんにしてもらうばっかりで、何も返せてはいない。


「そんなことないよ。私だってプランくんから元気をもらってるんだから。それと……ほら、これ」


「あ、それはクリーム……」


「うんっ。この前プランくんがくれたクリームだよ」


 アリアさんの手に持たれていたのは、容器に入れられたクリームだった。

 あれは、この前僕が薬草で作った、手荒れとかに効果があるクリームだ。


 まだ、持っててくれたんだ……。


「そうだよ。いつも大事に使わせてもらってます。だから、これもお返し。私はプランくんが頑張ってるの知ってるから、それだけは覚えててね」


「アリアさん……」


 穏やかな日差しが差し込んでいるベンチは、暖かくて、隣にいるアリアさんの姿がほのかに光って見えた。

 そんなアリアさんと一緒に食べるご飯は、美味しかった。


 そして、しばらく会話をすると僕たちは別れることになり、お互いに手を振り合う。


「じゃあプランくん、またね」


「はい。ありがとうございました」


「うん。プランくんならきっといつかその頑張りが報われると思うから、頑張ろうね! 私も頑張るから!」


 明るくそう言ってくれるアリアさんは眩しかった。

 その姿を見ていると、こっちまで元気付けられる。


 そんな僕の足は自然にギルドへと向かっていて、やる気を引き出して頑張ることにした。




 ……とはいっても、僕にできることといえば決まっていて、



「お、プランくん、この依頼だよね。分かってる。うんうん。頑張りたまえよ」


「……ど、どうも」


 ギルドの建物の中に入り、掲示板のところへと向かうと、そこにいた冒険者が一枚の依頼書を差し出してきた。

 それは『薬草採取の依頼』。


 ……これは一人でギルドにくると、なぜかいつものように僕に差し出されるやつだ。


『薬草採取の依頼』……。

 それは、冒険者になりたての人がやるようなことで、みんなが僕にこれを勧めてくるのだ……。


「プランくんはなんといっても、【草取り】だからね。期待しているよ」


「ど、どうも……」


 ……悪気はないのだろう。


 僕はそれだけ言うと、受付へと向かう。

 その間も、周りの冒険者たちは生暖かい目を向けてきていて、ギルドには居づらい雰囲気をとても感じる。


 それでも、僕は依頼の手続きを終えると、街の外へと向かい早速薬草を探し始めた。


 晴れ晴れと晴れ渡る空の下、地面を見てみると草が生えている。


 雑草や、薬草。

 街の近くで探すよりも、少し離れた所の方が質のいいのが見つかるから、僕がいつも薬草採取をするのは、街から距離を置いた場所でだった。


「今日はこの辺りでいいかな……」


 プチ……っ。


 一本抜き、質を確認する。


 ……うん、いい質だ。

 あと【草取り】の能力で、少しだけ質が上がり、若緑色だった薬草が深緑色になったのが見て取れる。


 所詮は薬草。

 報酬の査定には響かないけど、どうせ採るなら質のいい方がいいはずだ。


 僕は地面にしゃがむと、それをせっせと集めていく。


 この作業をしていると腰が痛くなるけど、もう慣れたものだ。


 採取している最中は、いろんなことが頭の中に渦巻いている。


 それを振り払うように、もう一本僕は薬草を抜いた。


 ……すると、そんな時だった。


「この匂い……」


 ふと、土の匂いと虫のような匂いを感じて、僕は顔を上げた。


 すると、遠くの方で誰かが魔物と相対している姿が見えた。


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